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アンソニーのターン!
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ジャンはアリスとは違い、保健室での一件を忘れずにウィルとアンソニーに報告していた。そのため、ウィルとアンソニーは保健室にいた二人、ヤイミーとメーダの動向には注意を払っていた。
「今日のイジメの中心人物はメーダ嬢のようだが、仲間割れでもしたのかな」
ウィルの問いかけに、ヤイミーはしばらく無言で俯いていたが、やがて、意を決したのか、顔を上げると話し始めた。
「私が虐められた直接の原因は、メーダさんの計画を止めたことにあります」
ヤイミーはクラリスをチラッと見て言った。
「……信じていただけないかもしれませんが、保健室で話していたようなことを実行に移すつもりは、私にはありませんでした。ジャン様とエラリー様に聞かれてしまい、尚更あんなことをしようとは思えませんでしたし」
「ですが、メーダさんはそうではなく……あの時の計画を実行しようと私に言ってきたのです。それを断ると、他の令嬢達と一緒になって私を責めたのです」
(どんな計画だったのか、聞くのが怖いんだけど……)
どうやら狙われていたのは自分らしいと悟ったクラリスが青くなる。
「計画とは?まさか、またクラリスさんに危害を加えようとしたのではないですよね?」
かばう様にクラリスの肩を抱くと、アリスがヤイミーを問い詰めた。
「アリス嬢、今はその計画の詳しい内容は置いておこう。ヤイミー嬢とメーダ嬢は親しい友人だったのではないか?」
アリスの追求を制止し、ウィルはヤイミーに聞く。
「っふふ。私達が意気投合していたのは、クラリスさんを虐めるという一点においてですわ。その共通点がなくなり、彼女にとって私は用済みになったのでしょう」
ヤイミーは自嘲気味に微笑んだ。
「他の令嬢達も同じですわ。今まで散々私をチヤホヤしてきた人達が手の平を返したかのように。彼女達にとって、『侯爵令嬢』という私の肩書は隠れ蓑にちょうど良かったのでしょうね」
「ヤイミー様……」
クラリスが痛ましげに呟いた。そんなクラリスをアンソニーは驚いた顔で見つめていた。
結局、その日はそれで解散となった。
ヤイミーを取り囲んでいた令嬢達には、生徒会長名で厳重注意の書面を自宅に送り、反応を見ることにした。自宅に送れば両親に知られることとなり、その後の対応は各家によって分かれることが予想された。
(ウィル様はその対応で、各家がどれだけ信用に値するのか図るおつもりだろう)
(それにしても、クラリス嬢には驚かされたな)
あのイジメの場面で、自分の力では救えないと判断し、躊躇わずにアリスの名を借り、以前自分を傷つけた相手を助けた。
その判断力、行動力、大胆さ。そして何よりも、その寛大さと優しさ。
(外見が美しいだけでなく、内面まで優れているとは。エラリーやポールが夢中になっているのも頷ける)
エラリーもポールも見目麗しく、彼らに憧れる女子生徒は数多くいる。そんな二人がこぞってクラリスの関心を買おうとしているのに、クラリスは二人に対しても友人としての距離を保って接している。
(淑女として節度ある振る舞いも成績優秀なのも素晴らしいのはもちろんだが、何より努力する姿が美しい)
そんなことを考えていたせいか、気づけば、アンソニーは隣に並ぶクラリスのことをじっと見つめてしまっていた。
「あの、アンソニー様、私、何か失礼なことをしてしまいましたか?」
アンソニーに睨まれていると勘違いしたクラリスが、意図せず、上目遣いで尋ねる。
「!」
クラリスは全く気づいていないが、ヒロインの上目遣いの破壊力はすごい。
(な、なんだ!この愛らしい生き物は!)
「い、いえ、失礼しました。クラリス嬢はいったいどうやってあの好成績を保っているのか気になりまして」
赤くなった顔を隠そうと、アンソニーは横を向いて、手で口元を覆った。
「そんな。私よりもアンソニー様の方が余程優秀でいらっしゃいます」
「……トニー」
「?」
「私のことはトニーと呼んでください。あなたにはそう呼ばれたい」
(え!何!何でいきなりの愛称呼びの強要?!)
クラリスの脳内で「大混乱」が「よ!久しぶり!」とばかりに踊り出す。
「あ、ありがたいお言葉ですが、私には過ぎたことです。そ、それに、アンソニー様の婚約者の方がお気を悪くされてしまいます」
「私には婚約者はいませんし、親しくしている女性もいません。ですから、何も気にする必要はありません」
(私は気にするのー!!!)
これまでに見た事のないようなキラキラした笑顔で微笑むアンソニーを、クラリスは呆然と見上げるしかなかった。
「今日のイジメの中心人物はメーダ嬢のようだが、仲間割れでもしたのかな」
ウィルの問いかけに、ヤイミーはしばらく無言で俯いていたが、やがて、意を決したのか、顔を上げると話し始めた。
「私が虐められた直接の原因は、メーダさんの計画を止めたことにあります」
ヤイミーはクラリスをチラッと見て言った。
「……信じていただけないかもしれませんが、保健室で話していたようなことを実行に移すつもりは、私にはありませんでした。ジャン様とエラリー様に聞かれてしまい、尚更あんなことをしようとは思えませんでしたし」
「ですが、メーダさんはそうではなく……あの時の計画を実行しようと私に言ってきたのです。それを断ると、他の令嬢達と一緒になって私を責めたのです」
(どんな計画だったのか、聞くのが怖いんだけど……)
どうやら狙われていたのは自分らしいと悟ったクラリスが青くなる。
「計画とは?まさか、またクラリスさんに危害を加えようとしたのではないですよね?」
かばう様にクラリスの肩を抱くと、アリスがヤイミーを問い詰めた。
「アリス嬢、今はその計画の詳しい内容は置いておこう。ヤイミー嬢とメーダ嬢は親しい友人だったのではないか?」
アリスの追求を制止し、ウィルはヤイミーに聞く。
「っふふ。私達が意気投合していたのは、クラリスさんを虐めるという一点においてですわ。その共通点がなくなり、彼女にとって私は用済みになったのでしょう」
ヤイミーは自嘲気味に微笑んだ。
「他の令嬢達も同じですわ。今まで散々私をチヤホヤしてきた人達が手の平を返したかのように。彼女達にとって、『侯爵令嬢』という私の肩書は隠れ蓑にちょうど良かったのでしょうね」
「ヤイミー様……」
クラリスが痛ましげに呟いた。そんなクラリスをアンソニーは驚いた顔で見つめていた。
結局、その日はそれで解散となった。
ヤイミーを取り囲んでいた令嬢達には、生徒会長名で厳重注意の書面を自宅に送り、反応を見ることにした。自宅に送れば両親に知られることとなり、その後の対応は各家によって分かれることが予想された。
(ウィル様はその対応で、各家がどれだけ信用に値するのか図るおつもりだろう)
(それにしても、クラリス嬢には驚かされたな)
あのイジメの場面で、自分の力では救えないと判断し、躊躇わずにアリスの名を借り、以前自分を傷つけた相手を助けた。
その判断力、行動力、大胆さ。そして何よりも、その寛大さと優しさ。
(外見が美しいだけでなく、内面まで優れているとは。エラリーやポールが夢中になっているのも頷ける)
エラリーもポールも見目麗しく、彼らに憧れる女子生徒は数多くいる。そんな二人がこぞってクラリスの関心を買おうとしているのに、クラリスは二人に対しても友人としての距離を保って接している。
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そんなことを考えていたせいか、気づけば、アンソニーは隣に並ぶクラリスのことをじっと見つめてしまっていた。
「あの、アンソニー様、私、何か失礼なことをしてしまいましたか?」
アンソニーに睨まれていると勘違いしたクラリスが、意図せず、上目遣いで尋ねる。
「!」
クラリスは全く気づいていないが、ヒロインの上目遣いの破壊力はすごい。
(な、なんだ!この愛らしい生き物は!)
「い、いえ、失礼しました。クラリス嬢はいったいどうやってあの好成績を保っているのか気になりまして」
赤くなった顔を隠そうと、アンソニーは横を向いて、手で口元を覆った。
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「……トニー」
「?」
「私のことはトニーと呼んでください。あなたにはそう呼ばれたい」
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「あ、ありがたいお言葉ですが、私には過ぎたことです。そ、それに、アンソニー様の婚約者の方がお気を悪くされてしまいます」
「私には婚約者はいませんし、親しくしている女性もいません。ですから、何も気にする必要はありません」
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これまでに見た事のないようなキラキラした笑顔で微笑むアンソニーを、クラリスは呆然と見上げるしかなかった。
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