【完結】転生ヒロインと転生(?)悪役令嬢は逆ハーエンドを回避したい! 〜R18禁エンドはごめんです!〜

koromachi

文字の大きさ
上 下
25 / 139

それぞれの夜(続々)

しおりを挟む
「気をつけて帰ってねー」

 来た時とは打って変わって落ち着いた様子で帰って行くエラリーを見送って、ジャンは自室に戻った。

「いや~、直情径行型だとは思ってたけど、あそこまで真っ直ぐだなんてねー」

 

 エラリーとジャンはこれまではあまり接点がなかった。初等部と中等部の時にそれぞれ一度ずつ同じクラスになったことがあるぐらいだ。もちろんお互い貴族令息としての情報は把握していたが、会えば挨拶するぐらいの間柄で、親しく話したのは今日が初めてだった。

「『何か彼女の気にいるようなものを贈りたい』って言ってたけど、『何か彼女に気に入られるようなものを贈りたい』にしか聞こえなかったもんね」

「クラリス嬢か。確かに、儚げな見た目に反して芯がしっかりしてそうで、いい子なんだろうな」

「まあ、僕の狙いはイメルダ嬢だし、エラリーとはライバルにならなくて良かった、良かった」

 万が一、誰かと意中の女性を奪い合うようなことがあったとしたら、どんな手を使ってでもライバルを蹴散らしただろうから。と、黒い笑顔を浮かべるジャンは、ベッドに入ると、愛しいイメルダ嬢との出会いを思い返しながら、幸せな眠りについた。


 ===============================================


「お嬢様、今日はこちらのクリームをお使いになりますか?」

 湯浴みを終えたイメルダに侍女が声をかける。

「ええ、せっかくジャン様からいただいたし、使った感想もお伝えしなくては」

 真面目なイメルダはジャンからの依頼をきっちりとこなそうと、侍女にあらかじめクリームのことを伝えていたのだ。

「それにしても、クラリス様のついでとはいえ、私にまでくださるなんて、ジャン様ったら本当にお優しい方だわ」

 ついでどころか、イメルダにクリームを渡す口実に使われたのはクラリスの方だったのだが、イメルダはそんなジャンの腹黒い気持ちには全く気づいていなかった。


 イメルダの滑らかな肌に、侍女が丁寧にクリームをのばしていく。

「まあ、とてもいい香りですね!」
 
「ほんとね。ミモザがほんのり香って、すごく癒されるわ」

 ミモザは、イメルダが一番好きな花だ。祖母の代に王都の屋敷の庭に植えたというミモザの花が、ブルーム子爵家を優しく賑やかに彩っていた。

「人気のある化粧品には、バラや百合といった華やかな香りがついていることが多いけど、ミモザに着目するなんて、さすがはジャン様だわ」

 それがイメルダのために作られたものだとは夢にも思わず、イメルダは真面目にジャンへの試供品使用報告書を作成していた。

「中等部の最終学年で初めて同じクラスになった時から何かと気にかけていただいて、本当にありがたいわ」




 イメルダの生家であるブルーム子爵家は昔から外交に強く、幼い頃から両親に連れられて世界中を旅することの多かったイメルダは、中等部の最終学年になる頃には7か国語を流暢に操る才女に成長していた。

 薬学を始めとした理数科目に強いジャンと、語学などの文系科目に強いイメルダは、最終学年になって最初の試験で、一位、二位と並んだ。
 そんなイメルダに最初に声をかけたのはジャンの方からだった。

「イメルダ嬢は、すごいね。必修外国語で満点を取るなんて」

 いくら学園内では身分による差別は御法度とは言っても、やはり身分の高低は厳然としてあり、侯爵令息であるジャンは、子爵令嬢であるイメルダにとっては住む世界の違う人という認識だった。
 そんなジャンから声をかけられ、イメルダが最初に感じたのは困惑だった。

「あ、いえ、とんでもないことでございます」

 侯爵令息という高い身分、麗しい容姿、明晰な頭脳、天から二物も三物も与えられたジャンに憧れている女子生徒は多く、イメルダに突き刺さる周囲からの視線が痛かった。

 だが、ジャンはそんなことに頓着せず、無邪気に話し続ける。

「僕、最後の問題の長文のこの文章の意味がどうしてもわからなくてさ。教えてもらえないかな」 

 残念ながら、子爵令嬢であるイメルダに断るという選択肢はない。
 チクチクトゲトゲした視線に居心地の悪さを感じながらも、ジャンに聞かれるままに答えを解説した。

「ありがとう!イメルダ嬢の説明はとてもわかりやすいね。あ、そうだ!もし迷惑でなければ、これからもちょくちょく教えてもらえないかな。僕はどうも外国語は苦手でさ」

 ニコニコと微笑みながら、控えめにお願いしてくるジャンに、頷いていいものかイメルダは迷ってしまった。

 (今でさえご令嬢方の視線が痛いのに、これ以上ジャン様と親しくしたら、無事に中等部を修了できるのかしら…)

 そんなイメルダの躊躇いを見透かしたかのように、ジャンはクラスメイトを見渡すと、とてもいい笑顔で言い放った。

「僕からお願いしてるんだから、まさかこのことでイメルダ嬢に苦情がいくことはないよ。そんな命知らずはこのクラスにはいないよ、ね?」

 キラキラした笑顔と対照的にドス黒いオーラを放つジャンの様子に、周りの生徒達は一斉に、こくこくと頷くしかなかった。

 イメルダも、頷く以外の選択肢はないと悟った。

「私でお役に立てることがあるのでしたら……」

「ありがとう!これで僕も苦手を克服できそうだよ!」

 こうしてジャンの押しに負けて、イメルダは放課後にジャンと一緒に勉強することになったのだった。





「でも、もう高等部に進学したんだし、これからはきっと勉強会もなくなるわよね」

 そう思うと、なぜか少しだけ胸が痛くなったが、その理由には気づかないまま、イメルダは眠りについた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

悪役令嬢に成り代わったのに、すでに詰みってどういうことですか!?

ぽんぽこ狸
恋愛
 仕事帰りのある日、居眠り運転をしていたトラックにはねられて死んでしまった主人公。次に目を覚ますとなにやら暗くジメジメした場所で、自分に仕えているというヴィンスという男の子と二人きり。  彼から話を聞いているうちに、なぜかその話に既視感を覚えて、確認すると昔読んだことのある児童向けの小説『ララの魔法書!』の世界だった。  その中でも悪役令嬢である、クラリスにどうやら成り代わってしまったらしい。  混乱しつつも話をきていくとすでに原作はクラリスが幽閉されることによって終結しているようで愕然としているさなか、クラリスを見限り原作の主人公であるララとくっついた王子ローレンスが、訪ねてきて━━━━?!    原作のさらに奥深くで動いていた思惑、魔法玉(まほうぎょく)の謎、そして原作の男主人公だった完璧な王子様の本性。そのどれもに翻弄されながら、なんとか生きる一手を見出す、学園ファンタジー!  ローレンスの性格が割とやばめですが、それ以外にもダークな要素強めな主人公と恋愛?をする、キャラが二人ほど、登場します。世界観が殺伐としているので重い描写も多いです。読者さまが色々な意味でドキドキしてくれるような作品を目指して頑張りますので、よろしくお願いいたします。  完結しました!最後の一章分は遂行していた分がたまっていたのと、話が込み合っているので一気に二十万文字ぐらい上げました。きちんと納得できる結末にできたと思います。ありがとうございました。

悪役令嬢エリザベート物語

kirara
ファンタジー
私の名前はエリザベート・ノイズ 公爵令嬢である。 前世の名前は横川禮子。大学を卒業して入った企業でOLをしていたが、ある日の帰宅時に赤信号を無視してスクランブル交差点に飛び込んできた大型トラックとぶつかりそうになって。それからどうなったのだろう。気が付いた時には私は別の世界に転生していた。 ここは乙女ゲームの世界だ。そして私は悪役令嬢に生まれかわった。そのことを5歳の誕生パーティーの夜に知るのだった。 父はアフレイド・ノイズ公爵。 ノイズ公爵家の家長であり王国の重鎮。 魔法騎士団の総団長でもある。 母はマーガレット。 隣国アミルダ王国の第2王女。隣国の聖女の娘でもある。 兄の名前はリアム。  前世の記憶にある「乙女ゲーム」の中のエリザベート・ノイズは、王都学園の卒業パーティで、ウィリアム王太子殿下に真実の愛を見つけたと婚約を破棄され、身に覚えのない罪をきせられて国外に追放される。 そして、国境の手前で何者かに事故にみせかけて殺害されてしまうのだ。 王太子と婚約なんてするものか。 国外追放になどなるものか。 乙女ゲームの中では一人ぼっちだったエリザベート。 私は人生をあきらめない。 エリザベート・ノイズの二回目の人生が始まった。 ⭐️第16回 ファンタジー小説大賞参加中です。応援してくれると嬉しいです

森に捨てられた令嬢、本当の幸せを見つけました。

玖保ひかる
恋愛
[完結] 北の大国ナバランドの貴族、ヴァンダーウォール伯爵家の令嬢アリステルは、継母に冷遇され一人別棟で生活していた。 ある日、継母から仲直りをしたいとお茶会に誘われ、勧められたお茶を口にしたところ意識を失ってしまう。 アリステルが目を覚ましたのは、魔の森と人々が恐れる深い森の中。 森に捨てられてしまったのだ。 南の隣国を目指して歩き出したアリステル。腕利きの冒険者レオンと出会い、新天地での新しい人生を始めるのだが…。 苦難を乗り越えて、愛する人と本当の幸せを見つける物語。 ※小説家になろうで公開した作品を改編した物です。 ※完結しました。

何やってんのヒロイン

ネコフク
恋愛
前世の記憶を持っている侯爵令嬢のマユリカは第二王子であるサリエルの婚約者。 自分が知ってる乙女ゲームの世界に転生しているときづいたのは幼少期。悪役令嬢だなーでもまあいっか、とのんきに過ごしつつヒロインを監視。 始めは何事もなかったのに学園に入る半年前から怪しくなってきて・・・ それに婚約者の王子がおかんにジョブチェンジ。めっちゃ甲斐甲斐しくお世話されてるんですけど。どうしてこうなった。 そんな中とうとうヒロインが入学する年に。 ・・・え、ヒロイン何してくれてんの?

悪役令嬢、第四王子と結婚します!

水魔沙希
恋愛
私・フローディア・フランソワーズには前世の記憶があります。定番の乙女ゲームの悪役転生というものです。私に残された道はただ一つ。破滅フラグを立てない事!それには、手っ取り早く同じく悪役キャラになってしまう第四王子を何とかして、私の手中にして、シナリオブレイクします! 小説家になろう様にも、書き起こしております。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。

克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。

処理中です...