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空色のワンピース
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自分の服をブラッシングし終わると、アリスからもらった水色のワンピースにも丁寧にブラシをかけて吊るしておく。
黒や紺、濃茶といった色の服しかない中に、明るい空色のワンピースはとても目立っていた。
「公爵家から帰る時もこのワンピースを着たまま帰るように!とおっしゃっていたけど……」
確かにそのワンピースは、まるでクラリスのためにあつらえたかのようにぴったりで、パステルカラーが、可憐なクラリスによく似合っていた。
だが、いきなりこんな高そうな服を着て帰れば家族はびっくりしてしまうし、平民街では悪目立ちしてしまう。そこをアリスに説明し、何とか自分の服に着替えるのを許してもらったが、持ち帰るように!という言葉には逆らえなかった。
「後でお母さんに話しておかなきゃ」
着替え終わり、気持ちを切り替えると、クラリスは店の手伝いをするために階下に向かった。
「お父さん、お母さん、遅くなってごめんね!」
今日は平日で、週末に比べるとお客さんは少な目だが、それでも店は八割がた埋まっていた。
「クラリス、大丈夫なのか?今日は俺もいるし、高等部初日で疲れてるなら、早目に休んでもいいんだぞ」
兄のフレデリックがクラリスに声をかける。今日の買い出しを終えて既に帰宅していたようだ。
「ありがとう、お兄ちゃん!でも大丈夫よ。動いた方がよく眠れるしね」
兄の気遣いに感謝しつつ、クラリスはいつも通りに店を手伝い始めた。
一番忙しい時間帯が過ぎ、そろそろ店仕舞いの準備を始めようかという時になって、新規の客が入ってくる。
「いらっしゃいませー!」
元気よく声をかけたクラリスだったが、入ってきた人物を見て、一瞬笑顔が消えた。遅い時間からの客は、最近よくお店に来るようになったコモノー男爵とその息子だった。
「……クラリス、お前はもう上がれ」
フレデリックがクラリスに耳打ちし、クラリスはさり気ない風を装って二階へと避難しようとした。
が、招かれざる客はそれを見逃さなかった。
「クラリス!今日も『いつもの』を頼むよ!」
「エリー、わしにも『いつもの』だ」
馴れ馴れしく声をかけられ、無視もできず、クラリスと母は作り笑いで対応する。
「コモノー男爵様、ご令息様、いつもありがとうございます」
すかさず兄のフレデリックが慇懃に頭を下げつつ、二人の不躾な視線から母と妹を守ろうとするが、親子は細身の兄を馬鹿にしたように見下ろすと、無言でしっしっと手を振り追い返す。
最近襲爵したばかりのこの男爵親子は、たまたま入ったこの店で、美人な母娘を見かけて通うようになったのだが、あまりいいお客とは言えなかった。
食事が終わってもなかなか席を立たず、忙しい時間帯でも、エリーやクラリスを捕まえて話を続けようとする。その目はいやらしく母と娘を舐め回すように見ていて、エリーもクラリスも相手をするのは苦痛だった。だが、相手は客であり、貴族であるため、無碍にすることはできない。
「お待たせいたしました。ご注文のお品です」
「クラリスは今日も可愛いねえ。たまには隣に座って一緒に食べようよ」
クラリスがコモノー男爵令息に料理を持っていくと、その腕を掴んで無理矢理隣に座らせようとする。
「や、やめてください!」
ブヨブヨした指で細い腕を掴まれ、クラリスは思わず声をあげた。
黒や紺、濃茶といった色の服しかない中に、明るい空色のワンピースはとても目立っていた。
「公爵家から帰る時もこのワンピースを着たまま帰るように!とおっしゃっていたけど……」
確かにそのワンピースは、まるでクラリスのためにあつらえたかのようにぴったりで、パステルカラーが、可憐なクラリスによく似合っていた。
だが、いきなりこんな高そうな服を着て帰れば家族はびっくりしてしまうし、平民街では悪目立ちしてしまう。そこをアリスに説明し、何とか自分の服に着替えるのを許してもらったが、持ち帰るように!という言葉には逆らえなかった。
「後でお母さんに話しておかなきゃ」
着替え終わり、気持ちを切り替えると、クラリスは店の手伝いをするために階下に向かった。
「お父さん、お母さん、遅くなってごめんね!」
今日は平日で、週末に比べるとお客さんは少な目だが、それでも店は八割がた埋まっていた。
「クラリス、大丈夫なのか?今日は俺もいるし、高等部初日で疲れてるなら、早目に休んでもいいんだぞ」
兄のフレデリックがクラリスに声をかける。今日の買い出しを終えて既に帰宅していたようだ。
「ありがとう、お兄ちゃん!でも大丈夫よ。動いた方がよく眠れるしね」
兄の気遣いに感謝しつつ、クラリスはいつも通りに店を手伝い始めた。
一番忙しい時間帯が過ぎ、そろそろ店仕舞いの準備を始めようかという時になって、新規の客が入ってくる。
「いらっしゃいませー!」
元気よく声をかけたクラリスだったが、入ってきた人物を見て、一瞬笑顔が消えた。遅い時間からの客は、最近よくお店に来るようになったコモノー男爵とその息子だった。
「……クラリス、お前はもう上がれ」
フレデリックがクラリスに耳打ちし、クラリスはさり気ない風を装って二階へと避難しようとした。
が、招かれざる客はそれを見逃さなかった。
「クラリス!今日も『いつもの』を頼むよ!」
「エリー、わしにも『いつもの』だ」
馴れ馴れしく声をかけられ、無視もできず、クラリスと母は作り笑いで対応する。
「コモノー男爵様、ご令息様、いつもありがとうございます」
すかさず兄のフレデリックが慇懃に頭を下げつつ、二人の不躾な視線から母と妹を守ろうとするが、親子は細身の兄を馬鹿にしたように見下ろすと、無言でしっしっと手を振り追い返す。
最近襲爵したばかりのこの男爵親子は、たまたま入ったこの店で、美人な母娘を見かけて通うようになったのだが、あまりいいお客とは言えなかった。
食事が終わってもなかなか席を立たず、忙しい時間帯でも、エリーやクラリスを捕まえて話を続けようとする。その目はいやらしく母と娘を舐め回すように見ていて、エリーもクラリスも相手をするのは苦痛だった。だが、相手は客であり、貴族であるため、無碍にすることはできない。
「お待たせいたしました。ご注文のお品です」
「クラリスは今日も可愛いねえ。たまには隣に座って一緒に食べようよ」
クラリスがコモノー男爵令息に料理を持っていくと、その腕を掴んで無理矢理隣に座らせようとする。
「や、やめてください!」
ブヨブヨした指で細い腕を掴まれ、クラリスは思わず声をあげた。
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