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Chapter.14
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付き合って一年目の記念日、私たちは夫婦になった。
大学時代からの友人である悠子とほのかにも報告したら、二人とも自分のことのように喜んでくれて、今度久しぶりに集まろうと約束をした。
悠子も大学時代から付き合っている山中さんと、そろそろ結婚しようかという話をしているらしい。きっとほのかに色々聞かれるだろうなと思いつつ、たまにしか会わなくてもずっと変わらず友達でいられることを幸せに思う。
結婚を機に【喫茶 よつかど】は昼営業になり、二人で一緒に過ごす時間が増えた。
お店を手伝える時間は減ったけど、そのぶんその日にあったことの報告やなんやで会話は増えたように思う。
懸念していた“常連さんたちが引き続き来店してくださるか問題”は、夜の憩いの場がなくなって少し寂しがっているようだけど、変わらずのご愛顧をしてくれているようだ。
私は相変わらず同じ会社に勤めているけど、部署内の異動があって忙しくしている。
新しい名字にはまだ慣れなくて、呼ばれるたびにくすぐったい気持ちになるけど、それもひとつの幸せなんだなって思う。
悠子とほのかにも報告したら、二人とも自分のことのように喜んでくれた。今度久しぶりに集まろうと約束をした。
* * *
気持ちが幸せだとしても体調不良は突然にやってくるもので、今日は久しぶりに動けないくらいの生理痛がきて、会社を休んだ。いわゆる“生理休暇”というやつを、入社して初めて取得した。
いつだったか同じ理由でバイトを休んだことがあった。あのときは彼が差し入れを持ってきてくれたなぁ……なんて頭の片隅で懐かしみながら、鎮痛剤の効力がもたらした眠気に身をゆだねる。
眠ったり、たまに目が覚めてうつらうつらとおぼろげな意識があったり……そんな状態を繰り返しているとき、リビングから聞こえる物音で目が覚める。視界に入ったドアがそっと開いて、彼が顔をのぞかせた。
「あ、ごめん。起こした?」
「ん……おきてた……」
身体を起こそうとする私を手で制して、
「あぁ、ええよ起きんでも」言いながら彼が寝室に入ってきた。
「いまなんじ?」
「13時過ぎ」
「けっこうねちゃった……」
「ええんちゃう? たまには」
彼はベッドサイドに座って、おでこにかかった私の髪を指で流す。
「うーん……そうかなぁ……」
「おれ、生理痛体験したことないからよぉわからんけど、寝込むくらいやねんな」
「ひとによるんだけどね……」
しゃべるのも少ししんどいけど、心配そうにこちらを見つめる彼の心遣いが嬉しいから、少し頑張ってみる。
「なんかできることあったらゆうてな」
「んー……」
そう言われてもいまいち頭が働いていなくて、要望がパッと出てこない。いつもよりぼんやりした態度の私に気付いて「……手ぇでもつなぐ?」少し冗談めかして手を差し出してくれた。
「ん……」
ベッドの上に出された手に指を乗せると、彼はその指を包んでくれた。
「冷えてるな」
「うん……」
彼の手は暖かくて、そのまま引き寄せてお腹に当ててみた。そっと優しくさすってくれるその温度と感覚が心地よくて、またウトウトしてしまう。
「休憩終わったらまた店出なあかんから、なんかあったらすぐ電話してな」
「ん……」
フェイドアウトしていく彼の顔は少し心配そうで、申し訳ないなぁと思いつつ、また眠る。
次に起きたとき彼はいなくて、仕事に行ったんだなと理解する。
痛みはだいぶ和らいでいたから、もそもそ寝返りを打つ。ベッドサイドに置かれたチェストに、メモと飲み物が置かれている。
メモには少し右肩あがりの彼の字でメッセージが綴られていた。
“終わったらすぐ帰ってくる
ハラへったら冷蔵庫にスープあるよ”
ママみたい……。ふと微笑んで、充電していたスマホのホームボタンを押して時計をみる。表示された数字は【14:08】。
薬の効き目は抜群で、もう動けるようになった身体を起こした。かなり寝たからか眠気もほとんどなくなっていた。代わりに、さっきまで全くなかった食欲がわいてくる。
(スープか……)
なにを作ってくれたのか気になって、ベッドから出てリビングへ移動し、冷蔵庫を開けた。
彼が愛用しているお気に入りのお鍋が丸ごと冷やされていて、蓋を開けるとポトフが入っていた。
見た途端、お腹がクゥと鳴る。
少し重めの鍋を取り出し、一人分をスープボウルに入れてレンジで温め直す。(千紘さんもお昼ごはんにしたのかな)
帰ってきてからすぐ作ったのか、お店で下ごしらえしたのかはわからないけど、用意してくれる気遣いがありがたい。
千紘さんお手製のポトフは野菜たっぷりで、口に入れて噛むとトロッと溶けて、ソーセージのお出汁も出ていてとても美味しい。
「ふぅ……」
食べ終えて吐いた息も暖かい。さっきまで冷えていた指先にも、だいぶ体温が戻ってきた。
使い終えた食器を洗って、お鍋を冷蔵庫に戻す。夕飯でも食べられるように多めに作ってくれているようで、目端が利くちひろさんっぽい行動だなぁと感心する。
ちゃんと彼を支えられるように頑張らないとな、なんてやる気が急に湧いてきて、気力が戻ってきたことも実感した。
帰ってきたとき安心させられるように、お洗濯だけでもしておこうかな……と窓の外に目をやると、それも全て終わっていた。
(さすが……)
感心しつつ、できることを探しつつ、と部屋をウロウロしていたら元気が戻ってきて、すっかりいつもと変わらない体調になっていた。
これなら明日からまた普通に出社できそう。
至れり尽くせりないまの環境に感謝しつつ、まとめておきたい資料があったんだった、と思い出して、ノートPCを取り出した。
帰ってきたらまずはお礼を伝えないとな~なんて、幸せな想像をしながらパソコンが立ち上がるのを待った。
満ち足りた昼下がり――。
あれは何年前だっけ? と考える。思い出そうとしてもはっきりとした時期が思い出せない。多分、日記を読み返せば書いてあるだろうけど、いまはその気力すらない。
いつかのときと同様に鎮痛剤を飲むタイミングが遅くて、起き上がれないほどの痛みでまた寝込んでいるのだった。
大学時代からの友人である悠子とほのかにも報告したら、二人とも自分のことのように喜んでくれて、今度久しぶりに集まろうと約束をした。
悠子も大学時代から付き合っている山中さんと、そろそろ結婚しようかという話をしているらしい。きっとほのかに色々聞かれるだろうなと思いつつ、たまにしか会わなくてもずっと変わらず友達でいられることを幸せに思う。
結婚を機に【喫茶 よつかど】は昼営業になり、二人で一緒に過ごす時間が増えた。
お店を手伝える時間は減ったけど、そのぶんその日にあったことの報告やなんやで会話は増えたように思う。
懸念していた“常連さんたちが引き続き来店してくださるか問題”は、夜の憩いの場がなくなって少し寂しがっているようだけど、変わらずのご愛顧をしてくれているようだ。
私は相変わらず同じ会社に勤めているけど、部署内の異動があって忙しくしている。
新しい名字にはまだ慣れなくて、呼ばれるたびにくすぐったい気持ちになるけど、それもひとつの幸せなんだなって思う。
悠子とほのかにも報告したら、二人とも自分のことのように喜んでくれた。今度久しぶりに集まろうと約束をした。
* * *
気持ちが幸せだとしても体調不良は突然にやってくるもので、今日は久しぶりに動けないくらいの生理痛がきて、会社を休んだ。いわゆる“生理休暇”というやつを、入社して初めて取得した。
いつだったか同じ理由でバイトを休んだことがあった。あのときは彼が差し入れを持ってきてくれたなぁ……なんて頭の片隅で懐かしみながら、鎮痛剤の効力がもたらした眠気に身をゆだねる。
眠ったり、たまに目が覚めてうつらうつらとおぼろげな意識があったり……そんな状態を繰り返しているとき、リビングから聞こえる物音で目が覚める。視界に入ったドアがそっと開いて、彼が顔をのぞかせた。
「あ、ごめん。起こした?」
「ん……おきてた……」
身体を起こそうとする私を手で制して、
「あぁ、ええよ起きんでも」言いながら彼が寝室に入ってきた。
「いまなんじ?」
「13時過ぎ」
「けっこうねちゃった……」
「ええんちゃう? たまには」
彼はベッドサイドに座って、おでこにかかった私の髪を指で流す。
「うーん……そうかなぁ……」
「おれ、生理痛体験したことないからよぉわからんけど、寝込むくらいやねんな」
「ひとによるんだけどね……」
しゃべるのも少ししんどいけど、心配そうにこちらを見つめる彼の心遣いが嬉しいから、少し頑張ってみる。
「なんかできることあったらゆうてな」
「んー……」
そう言われてもいまいち頭が働いていなくて、要望がパッと出てこない。いつもよりぼんやりした態度の私に気付いて「……手ぇでもつなぐ?」少し冗談めかして手を差し出してくれた。
「ん……」
ベッドの上に出された手に指を乗せると、彼はその指を包んでくれた。
「冷えてるな」
「うん……」
彼の手は暖かくて、そのまま引き寄せてお腹に当ててみた。そっと優しくさすってくれるその温度と感覚が心地よくて、またウトウトしてしまう。
「休憩終わったらまた店出なあかんから、なんかあったらすぐ電話してな」
「ん……」
フェイドアウトしていく彼の顔は少し心配そうで、申し訳ないなぁと思いつつ、また眠る。
次に起きたとき彼はいなくて、仕事に行ったんだなと理解する。
痛みはだいぶ和らいでいたから、もそもそ寝返りを打つ。ベッドサイドに置かれたチェストに、メモと飲み物が置かれている。
メモには少し右肩あがりの彼の字でメッセージが綴られていた。
“終わったらすぐ帰ってくる
ハラへったら冷蔵庫にスープあるよ”
ママみたい……。ふと微笑んで、充電していたスマホのホームボタンを押して時計をみる。表示された数字は【14:08】。
薬の効き目は抜群で、もう動けるようになった身体を起こした。かなり寝たからか眠気もほとんどなくなっていた。代わりに、さっきまで全くなかった食欲がわいてくる。
(スープか……)
なにを作ってくれたのか気になって、ベッドから出てリビングへ移動し、冷蔵庫を開けた。
彼が愛用しているお気に入りのお鍋が丸ごと冷やされていて、蓋を開けるとポトフが入っていた。
見た途端、お腹がクゥと鳴る。
少し重めの鍋を取り出し、一人分をスープボウルに入れてレンジで温め直す。(千紘さんもお昼ごはんにしたのかな)
帰ってきてからすぐ作ったのか、お店で下ごしらえしたのかはわからないけど、用意してくれる気遣いがありがたい。
千紘さんお手製のポトフは野菜たっぷりで、口に入れて噛むとトロッと溶けて、ソーセージのお出汁も出ていてとても美味しい。
「ふぅ……」
食べ終えて吐いた息も暖かい。さっきまで冷えていた指先にも、だいぶ体温が戻ってきた。
使い終えた食器を洗って、お鍋を冷蔵庫に戻す。夕飯でも食べられるように多めに作ってくれているようで、目端が利くちひろさんっぽい行動だなぁと感心する。
ちゃんと彼を支えられるように頑張らないとな、なんてやる気が急に湧いてきて、気力が戻ってきたことも実感した。
帰ってきたとき安心させられるように、お洗濯だけでもしておこうかな……と窓の外に目をやると、それも全て終わっていた。
(さすが……)
感心しつつ、できることを探しつつ、と部屋をウロウロしていたら元気が戻ってきて、すっかりいつもと変わらない体調になっていた。
これなら明日からまた普通に出社できそう。
至れり尽くせりないまの環境に感謝しつつ、まとめておきたい資料があったんだった、と思い出して、ノートPCを取り出した。
帰ってきたらまずはお礼を伝えないとな~なんて、幸せな想像をしながらパソコンが立ち上がるのを待った。
満ち足りた昼下がり――。
あれは何年前だっけ? と考える。思い出そうとしてもはっきりとした時期が思い出せない。多分、日記を読み返せば書いてあるだろうけど、いまはその気力すらない。
いつかのときと同様に鎮痛剤を飲むタイミングが遅くて、起き上がれないほどの痛みでまた寝込んでいるのだった。
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