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Chapter.9
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通用口を開けると、すぐに店長の姿が視界に入った。
「おはようございます」
「おぉ、おはよーさん」エプロンを身に着けながらこちらに振り向く。「出勤前にごめんなぁ。お礼に今度なんかおごるわ」
「ありがとうございます。これ、お預かりした品です」
「ありがとう」
渡した紙袋の中を確認する店長に中身を説明する。
「新作の試作品が入ってるから、販売開始したら仕入れるようにって美彩さんが」
「そう……ずいぶん仲よぉなったんやな」
「そうですね。すごく良くしてくださいました」
「人懐っこいんが特技やからね、あのひと」
それは店長もだけど……と思いつつも、笑って相槌をうつまでにとどめておく。
「……なんかゆうてた?」
「え。あー、えーっと~……」
もう店長に伝わっているかわからなくて、二の句が継げない。
「ゆわんわけないよな。わかってんねん。あのひとおしゃべりやからさ」
口ではそういいつつも、どこか嬉しそうで。
「それなりに? お伺いしました」
「そやろな。まぁ森町さんにやったらええねんけどさ」
「納品受け取りは今後、私に担当させなさいって」
「あぁ、ええんちゃう? 仲よぅしててくれたほうが、こっちも都合ええし」
「? そうですね。こちらで働いてるうちは交流あるでしょうし」
「あぁ、うん……。そうやね」
なんとなく会話にすれ違いがあったような気がしたけど、きっと考えすぎだろうな、と流す。
「そういえば、店長は関西弁ですけど、美彩さんは東京弁ですね」
「あぁ、うちの親父が東京に出てきてから知りおうたから。あのひとらはもともと東京出身やねん」
「あぁ、なるほど」
「おれが高校卒業してからやったから、口調は家庭内でもバラバラやわ」
「あ……そんな大人になってからだったんですね」
「うん、そう。思春期やってゆうのに“ちーちゃん”“ちーちゃん”て、子供やないんやからさぁ」
珍しくぶちぶち言いながら紙袋を持って店舗スペースへ移動していった。
好き……だったのかな。なんて思う。
姉弟とはいえ血のつながりはないわけで、あの素敵な女性が思春期の時代に輝いて見えただろうことは容易に想像できる。
心に刺さった小さなトゲはなかなか抜けなくて、オープン後の忙しさの合間にふと思い出してはもやもやとした気分を抱く。
そんな中、カウンターから店長と常連さんの会話が聞こえてきた。
「マスターってどんな人が好みなの?」
カウンターでコーヒーを楽しむ常連の仁見さんが店長に問いかけた。聞き耳を立てる私は心の中で(仁見さんサイコウ!)と褒めたたえた。
「なんですの、突然」
「いやぁ、このお店ができてからずっと通ってるけど、マスターからそういう話聞いたことないなーって思って」
「まぁ、しゃべりませんよね、そういうのは」
「えぇ~。じゃあ、いまカノジョとかは?」
「いやぁ、そういうのはねぇ……時間もないですしねぇ……」
「またまたぁ、マスターくらい色男だったらモテるでしょー」
「色男て…言い回し古いですよ」
「えぇー? またそうやって胡麻化してさぁ。ねぇ? 森町ちゃん」
「はぇ?!」
完全に予想外だった私は、思わず抱えていた銀トレイを落としそうなくらい驚いてしまう。
「ほらぁ、困ってますからー」
「えー? なんでよー。娘にも無視されるし、部下は業務でしか話さないからさぁ、若い子とおしゃべりできるの、ここくらいしかないのよ」
「そういうのはそういうお店行ってくださいよ。森町はそういうんじゃないんで」
「えー。もーマスター見かけによらず独占欲強いんだからー」
えっ、そういう意味?
美彩さんから聞いた話も相まって心臓が反応するけど、店長はふと苦笑を浮かべた。
「そういうんちゃいますよ。一回り以上年齢離れてますし、彼女からしたらおれなんておっさんでしょ」こちらを見ずに言い放って「飲みすぎたんちゃいます? アイリッシュコーヒー。次から出すんやめますよ?」仁見さんを見て鼻にシワを寄せた。
「ごめんごめん、このくらいで酔わないよ。気になっちゃっただーけ。マスターさえ良ければ紹介するよ? いい子いるんだよーうちの従業員でさぁ」
お見合いを斡旋する人と化してしまった仁見さんを、私は遠くからねめつけ、(仁見さんサイテイ……)心の中で勝手に罵倒した。
結局店長は言葉巧みにその話を回避していたけれど、割と長い間続いていた会話の中で聞いてしまった一言が、案外重くのしかかる。
「いまは特に、好きやなーって人もいないですけど……」
自分のことを好きでいてくれてるかも、なんて勘違いはしていなかったけど、それでも“そういうんちゃいますよ。一回り以上年齢離れてますし”という言葉との複合技で“別にお前のことはどうも思っていない”とハッキリ言われた気がした。
帰りに家まで送ってくれるのだって、きっと安全面を考えただけの、ただの業務の延長なんだ。
そう思いながら家路につく。
いつもは楽しくて幸せな時間がなんだかぎこちなくて、何度も“もう送っていただかなくて大丈夫です”って言おうとしたけど、未練が断ち切れずに言うことはできなかった。
予想外に沈んでしまった気持ちに戸惑いを覚えたその翌日。予定よりも早く来た重い生理の影響で、私は店を休んだ。
バイトを始めてから初めてのことだった。
電話の向こうで店長は心配そうにしていたけど、生理痛で、と言うのがなんとなく気恥ずかしくて、微熱が出たから念のため、と小さな嘘をついてしまった。実際に普段よりは体温が高いから、あながち嘘ではないんだけど。
店長の声や顔、触れたことのある指先の温度や感触を思い出す。
そばにいてくれたら安心するけれど、ずっと一緒にいられる日が来るかなんてわからない。
悠子やほのかちゃん、美彩さんは優しいから私の肩を持ってくれるけど、店長は彼女たちとは違う優しさで気遣ってくれているだけ。
私たちは店長とバイト、ただそれだけの関係だ。
身体の痛みにつられて考え方が暗くなる。
少し前に飲んだ鎮痛剤が効いてきたのか、痛みが和らぐと共に眠気がやってきた。
もうこのまま寝てしまおう。
まだ日が高いうちに眠るのは罪悪感を抱くけれど、今日はもう仕方ない……。
少し悔しい思いを抱きつつ、重い身体をベッドに沈ませて、眠りについた。
どこかで、夢に店長出てきてくれないかな、と思っていたけれど、夢も見ずにただ眠る。
眠って、眠って……ただ暗闇の記憶から徐々に覚醒して、瞼を開けたら窓の外は夕暮れになっていた。
今頃開店準備してるころかな……。
時計を見ようとスマホを手に取る。電源ボタンを押して画面を表示させると、新着メッセを報せる通知窓が出た。その送り主を見てあまりに驚いて痛みも忘れガバッと起き上がる。
『大丈夫? ドアノブに差し入れかけといたから、良かったらどうぞ。』
メッセの送信者は“さなだ・ちひろ”。店長だ。
えっ! えぇー! 来たならチャイム押してくれたらいいのに!
動揺でちょっと見当違いなことを思いながら急いで玄関に向かう。外側のドアノブに、店で使う手提げの紙袋とコンビニのレジ袋がかかっていた。
暴れそうなくらい騒ぐ心臓を落ち着かせながら袋を回収のち開封すると、中にはレジ横で売っている焼き菓子一式とコンビニで買ったらしいお弁当の鍋焼きうどん、スポーツドリンクにレトルト食品がいくつか入っている。
風邪を引いたと思われたらしいそのラインナップに、嬉しさのあまり泣けてくる。
(ずるい……)
こんなに好きになっちゃうなんて、思ってもみなかった。
あふれだしそうな気持ちを、これはいま生理中で精神的に弱っているから、なんてごまかして、ありがたくうどんを食べる。
コンビニPBのどこで買っても同じ味なはずのそれは、いままで食べた中で一番美味しく感じた。
翌日、落ち込んでいた気分もすっかり晴れて、いつもより少しドキドキしながら出勤する。通用口のドアをくぐると、
「おはよーさん」
いつもの挨拶が聞こえた。
「おはようございます。昨日はすみません。ありがとうございました」
「回復したなら良かったわ」
「差し入れ……嬉しかったです」
「そう? 女性に差し入れとかしたことないから、なにがええんかわからんかったけど……」
「もうあれで、元気になりました。本当に」
私の言葉に店長が笑う。
「ほんなら良かった。勝手に家行ってごめんね?」
「いえ、いつも送っていただいてますし」
「そうよな。ピンポン押そうか迷ってんけどなぁ。年頃の娘さんが一人暮らししてる家に押しかけるんもなーって」
(押しかけてくれて良かったんだけどな)
そう思うけど口には出さない。またあしらわれたらちょっと、いやだいぶ落ち込む。
「今日は、昨日の分も頑張ります」
「はりきりすぎてまた倒れたらあかんよ?」
「はい」
冗談めかした優しさに、涙が出そうになるけど、ぐっとこらえてエプロンを着ける。まだちょっと、心は弱ってるみたいだ。
膨れ上がりそうな自分の気持ちを出さないようにして、店長と一緒に働く。
気付かれてしまったら拒絶されるんじゃないかって、どこかで怯えてる。
就職するまでしか働けない、いわば期間限定の関係なんだ、と思うと寂しくて、できればバイトを辞めても関係を続けていきたい。
その場合の関係性って、なにになるんだろう?
どうなりたいかって希望はあるけれど、希望通りにいかないのが人生だ。ましてや私は、一回り以上年下の子供で。
きっと、いま気持ちを伝えても、困って、笑って、優しくなるだけだ。
だから。
いつか終わらせなければならないかもしれないこの気持ちを、状況を、楽しむことにした。
いまの時期にしか味わえない“青春”と呼ばれるこの季節を楽しめと、様々な人たちが言って、書いて、残してくれているから、せっかくだし素直に受け入れてみようと思った。
* * *
「おはようございます」
「おぉ、おはよーさん」エプロンを身に着けながらこちらに振り向く。「出勤前にごめんなぁ。お礼に今度なんかおごるわ」
「ありがとうございます。これ、お預かりした品です」
「ありがとう」
渡した紙袋の中を確認する店長に中身を説明する。
「新作の試作品が入ってるから、販売開始したら仕入れるようにって美彩さんが」
「そう……ずいぶん仲よぉなったんやな」
「そうですね。すごく良くしてくださいました」
「人懐っこいんが特技やからね、あのひと」
それは店長もだけど……と思いつつも、笑って相槌をうつまでにとどめておく。
「……なんかゆうてた?」
「え。あー、えーっと~……」
もう店長に伝わっているかわからなくて、二の句が継げない。
「ゆわんわけないよな。わかってんねん。あのひとおしゃべりやからさ」
口ではそういいつつも、どこか嬉しそうで。
「それなりに? お伺いしました」
「そやろな。まぁ森町さんにやったらええねんけどさ」
「納品受け取りは今後、私に担当させなさいって」
「あぁ、ええんちゃう? 仲よぅしててくれたほうが、こっちも都合ええし」
「? そうですね。こちらで働いてるうちは交流あるでしょうし」
「あぁ、うん……。そうやね」
なんとなく会話にすれ違いがあったような気がしたけど、きっと考えすぎだろうな、と流す。
「そういえば、店長は関西弁ですけど、美彩さんは東京弁ですね」
「あぁ、うちの親父が東京に出てきてから知りおうたから。あのひとらはもともと東京出身やねん」
「あぁ、なるほど」
「おれが高校卒業してからやったから、口調は家庭内でもバラバラやわ」
「あ……そんな大人になってからだったんですね」
「うん、そう。思春期やってゆうのに“ちーちゃん”“ちーちゃん”て、子供やないんやからさぁ」
珍しくぶちぶち言いながら紙袋を持って店舗スペースへ移動していった。
好き……だったのかな。なんて思う。
姉弟とはいえ血のつながりはないわけで、あの素敵な女性が思春期の時代に輝いて見えただろうことは容易に想像できる。
心に刺さった小さなトゲはなかなか抜けなくて、オープン後の忙しさの合間にふと思い出してはもやもやとした気分を抱く。
そんな中、カウンターから店長と常連さんの会話が聞こえてきた。
「マスターってどんな人が好みなの?」
カウンターでコーヒーを楽しむ常連の仁見さんが店長に問いかけた。聞き耳を立てる私は心の中で(仁見さんサイコウ!)と褒めたたえた。
「なんですの、突然」
「いやぁ、このお店ができてからずっと通ってるけど、マスターからそういう話聞いたことないなーって思って」
「まぁ、しゃべりませんよね、そういうのは」
「えぇ~。じゃあ、いまカノジョとかは?」
「いやぁ、そういうのはねぇ……時間もないですしねぇ……」
「またまたぁ、マスターくらい色男だったらモテるでしょー」
「色男て…言い回し古いですよ」
「えぇー? またそうやって胡麻化してさぁ。ねぇ? 森町ちゃん」
「はぇ?!」
完全に予想外だった私は、思わず抱えていた銀トレイを落としそうなくらい驚いてしまう。
「ほらぁ、困ってますからー」
「えー? なんでよー。娘にも無視されるし、部下は業務でしか話さないからさぁ、若い子とおしゃべりできるの、ここくらいしかないのよ」
「そういうのはそういうお店行ってくださいよ。森町はそういうんじゃないんで」
「えー。もーマスター見かけによらず独占欲強いんだからー」
えっ、そういう意味?
美彩さんから聞いた話も相まって心臓が反応するけど、店長はふと苦笑を浮かべた。
「そういうんちゃいますよ。一回り以上年齢離れてますし、彼女からしたらおれなんておっさんでしょ」こちらを見ずに言い放って「飲みすぎたんちゃいます? アイリッシュコーヒー。次から出すんやめますよ?」仁見さんを見て鼻にシワを寄せた。
「ごめんごめん、このくらいで酔わないよ。気になっちゃっただーけ。マスターさえ良ければ紹介するよ? いい子いるんだよーうちの従業員でさぁ」
お見合いを斡旋する人と化してしまった仁見さんを、私は遠くからねめつけ、(仁見さんサイテイ……)心の中で勝手に罵倒した。
結局店長は言葉巧みにその話を回避していたけれど、割と長い間続いていた会話の中で聞いてしまった一言が、案外重くのしかかる。
「いまは特に、好きやなーって人もいないですけど……」
自分のことを好きでいてくれてるかも、なんて勘違いはしていなかったけど、それでも“そういうんちゃいますよ。一回り以上年齢離れてますし”という言葉との複合技で“別にお前のことはどうも思っていない”とハッキリ言われた気がした。
帰りに家まで送ってくれるのだって、きっと安全面を考えただけの、ただの業務の延長なんだ。
そう思いながら家路につく。
いつもは楽しくて幸せな時間がなんだかぎこちなくて、何度も“もう送っていただかなくて大丈夫です”って言おうとしたけど、未練が断ち切れずに言うことはできなかった。
予想外に沈んでしまった気持ちに戸惑いを覚えたその翌日。予定よりも早く来た重い生理の影響で、私は店を休んだ。
バイトを始めてから初めてのことだった。
電話の向こうで店長は心配そうにしていたけど、生理痛で、と言うのがなんとなく気恥ずかしくて、微熱が出たから念のため、と小さな嘘をついてしまった。実際に普段よりは体温が高いから、あながち嘘ではないんだけど。
店長の声や顔、触れたことのある指先の温度や感触を思い出す。
そばにいてくれたら安心するけれど、ずっと一緒にいられる日が来るかなんてわからない。
悠子やほのかちゃん、美彩さんは優しいから私の肩を持ってくれるけど、店長は彼女たちとは違う優しさで気遣ってくれているだけ。
私たちは店長とバイト、ただそれだけの関係だ。
身体の痛みにつられて考え方が暗くなる。
少し前に飲んだ鎮痛剤が効いてきたのか、痛みが和らぐと共に眠気がやってきた。
もうこのまま寝てしまおう。
まだ日が高いうちに眠るのは罪悪感を抱くけれど、今日はもう仕方ない……。
少し悔しい思いを抱きつつ、重い身体をベッドに沈ませて、眠りについた。
どこかで、夢に店長出てきてくれないかな、と思っていたけれど、夢も見ずにただ眠る。
眠って、眠って……ただ暗闇の記憶から徐々に覚醒して、瞼を開けたら窓の外は夕暮れになっていた。
今頃開店準備してるころかな……。
時計を見ようとスマホを手に取る。電源ボタンを押して画面を表示させると、新着メッセを報せる通知窓が出た。その送り主を見てあまりに驚いて痛みも忘れガバッと起き上がる。
『大丈夫? ドアノブに差し入れかけといたから、良かったらどうぞ。』
メッセの送信者は“さなだ・ちひろ”。店長だ。
えっ! えぇー! 来たならチャイム押してくれたらいいのに!
動揺でちょっと見当違いなことを思いながら急いで玄関に向かう。外側のドアノブに、店で使う手提げの紙袋とコンビニのレジ袋がかかっていた。
暴れそうなくらい騒ぐ心臓を落ち着かせながら袋を回収のち開封すると、中にはレジ横で売っている焼き菓子一式とコンビニで買ったらしいお弁当の鍋焼きうどん、スポーツドリンクにレトルト食品がいくつか入っている。
風邪を引いたと思われたらしいそのラインナップに、嬉しさのあまり泣けてくる。
(ずるい……)
こんなに好きになっちゃうなんて、思ってもみなかった。
あふれだしそうな気持ちを、これはいま生理中で精神的に弱っているから、なんてごまかして、ありがたくうどんを食べる。
コンビニPBのどこで買っても同じ味なはずのそれは、いままで食べた中で一番美味しく感じた。
翌日、落ち込んでいた気分もすっかり晴れて、いつもより少しドキドキしながら出勤する。通用口のドアをくぐると、
「おはよーさん」
いつもの挨拶が聞こえた。
「おはようございます。昨日はすみません。ありがとうございました」
「回復したなら良かったわ」
「差し入れ……嬉しかったです」
「そう? 女性に差し入れとかしたことないから、なにがええんかわからんかったけど……」
「もうあれで、元気になりました。本当に」
私の言葉に店長が笑う。
「ほんなら良かった。勝手に家行ってごめんね?」
「いえ、いつも送っていただいてますし」
「そうよな。ピンポン押そうか迷ってんけどなぁ。年頃の娘さんが一人暮らししてる家に押しかけるんもなーって」
(押しかけてくれて良かったんだけどな)
そう思うけど口には出さない。またあしらわれたらちょっと、いやだいぶ落ち込む。
「今日は、昨日の分も頑張ります」
「はりきりすぎてまた倒れたらあかんよ?」
「はい」
冗談めかした優しさに、涙が出そうになるけど、ぐっとこらえてエプロンを着ける。まだちょっと、心は弱ってるみたいだ。
膨れ上がりそうな自分の気持ちを出さないようにして、店長と一緒に働く。
気付かれてしまったら拒絶されるんじゃないかって、どこかで怯えてる。
就職するまでしか働けない、いわば期間限定の関係なんだ、と思うと寂しくて、できればバイトを辞めても関係を続けていきたい。
その場合の関係性って、なにになるんだろう?
どうなりたいかって希望はあるけれど、希望通りにいかないのが人生だ。ましてや私は、一回り以上年下の子供で。
きっと、いま気持ちを伝えても、困って、笑って、優しくなるだけだ。
だから。
いつか終わらせなければならないかもしれないこの気持ちを、状況を、楽しむことにした。
いまの時期にしか味わえない“青春”と呼ばれるこの季節を楽しめと、様々な人たちが言って、書いて、残してくれているから、せっかくだし素直に受け入れてみようと思った。
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