332 / 366
11/28『猫の猫による猫のための』
しおりを挟む
猫の世界には、ヒトが知らない秘密がたくさんある。
猫がなる猫の医者、猫が運営する猫のための施設、猫又になる方法を学ぶために猫が通う猫の学校……。
「え? 川の中にあるんです?」
「ぃゃメダカじゃねんだから……。ちゃんと地面の上にありますよ」
「猫ちゃんなのに勉強するなんて、めっちゃ偉いですね」
「猫さんのことバカにしてます?」
「めっそうもない! 猫ちゃんは猫ちゃんというだけで素晴らしい存在なのに、その上で勉強までするなんてすごいなぁと」
「にぇこまたはにぇ、センパイににゃらわないと、自然にはなれないにょ」
「じゃあたまに家出しちゃう子がいるのって」
「そういうバアイもありまにゅ。たいがいニンゲンにハッケンされちゃうんでにゅけどにぇ」
「なんだかすみません」
「にゃにゃ」猫又のハツコさんが首を振った。「それもまた修行の一環。それに、ワタシたちをシンパイしてにょこと……ありがたいでにゅ」
寿命を終えて天界に戻り研修を経て、念願の“猫のお世話係”になった私こと室戸カナは、お世話係として新たにOJTを受けている。
猫又のハツコさんにもご同席頂いているのだけど、リアルな猫が人間語喋ってるのヤバすぎ可愛い。
「猫学校には伝手があるにょで、にょちにょちご紹介しますにぇ」
「はい、お願いいたします」
「ところで……その手、なんですか?」
頭を下げた私に、お世話係の人間の先輩である笹木さんが訝しげに言った。その視線の先で、私の手が空中を揉んでいる。
「はっ。すみません」慌てて手を膝の上に叩きつけた。「あまりの可愛さに撫でたい気持ちが出てしまいました」
「あらあら」
「下界でシモベされてたんですよね」
「シモベと名乗れるほど立派ではなかったですけどね」
照れる私とは裏腹に、笹木さんはわかりやすくため息をついた。
(冗談なんだけどな……)
まぁいいやと気を取り直して、先輩とハツコさんのご講義に耳を傾けた。
「カナにゃんは生前どんなコと暮らしてたんでにゅか?」
ハツコさんの質問に、代々一緒に過ごしてきたニャンズたちの説明をした。
「あらまぁ、ずっと」
「はい。自分の晩年に猫がいない生活を送らなければならない状況になったんですけど、まぁ寂しくて。こんなことなら結婚して子供産んでおけば良かったなぁと思いました。そしたら私が先立っても、猫ちゃんのこと見てもらえたのにって」
「寂しいもにょですか」
「えぇ、とても」ハツコさんの言葉に深く頷く。「そういえば、笹木さんも生前は猫ちゃんと?」
「いえ、僕は……」
笹木さんがハツコさんをチラリと見やる。
ハツコさんは先を促すように右手のひらを出した。
あぁん、肉球ピンクさん♡
触ったら怒られるかなぁと思いつつ眺めていたら、気づいたハツコさんがこちらに手を差し出してくれた。
「少しだけですにょ?」
「はわぁ、ありがとうございます!」
握手するように両手でそっとハツコさんの手を包む。スベスベでプニプニの肉球。手の甲には短いけどトロトロの毛並み。あぁ、最高……。
「ありがとうございました」
「いえいえ~」
ニッコリ笑ったその顔も可愛らしい。はー、お世話係になれて良かった。
ハツコさんのお手手を堪能してふと気づく。
「笹木さんのお答えを聞きそびれました」
「思い出さなくていいですよ」
「笹木にゃんはね、犬さん派にゃんですよ」
「あらまぁ」
「猫さんたちが苦手とかではないですからね」
「犬課に配属希望出さなかったんですか?」
「出しましたし元々いたんですけどね。ゆくゆく上の立場に就くためには色々な方々と触れ合うのが大事ということで、色んな部署で勉強中です」
「そうなんですねー」
「室戸さんもいずれ色々な部署を回るのではないでしょうか」
「えー……ずっと猫課ってわけにはいかないですかね」
「室戸さんが良ければ可能かと」
「ぜひ。犬ちゃんも鳥ちゃんも、生き物は大概好きなんですけど、私的にはやっぱりネコチアンに勝る存在はいないんですよねー」
二本の尻尾をゆらゆらさせるハツコさんを見つめながらしみじみ思う。
そんな私を眺めながら、笹木さんとハツコさんが顔を見合わせた。
「つくづくシモベですね」
「ですにぇえ」
やだ、ネコチアン公認のシモベになれちゃった。嬉しい。
「頑張って業務内容覚えて、お仕事頑張ります!」
「あらあら、たにょもしい」
「頑張ってください。では、実際の施設へ行って、見学がてら説明でもしましょうか」
「はい!」
うふふ、と微笑むハツコさんと、少し呆れながら微笑む笹木さんに連れられ歩き出した。
一人前の“猫のお世話係”になれるように頑張るぞー!
猫がなる猫の医者、猫が運営する猫のための施設、猫又になる方法を学ぶために猫が通う猫の学校……。
「え? 川の中にあるんです?」
「ぃゃメダカじゃねんだから……。ちゃんと地面の上にありますよ」
「猫ちゃんなのに勉強するなんて、めっちゃ偉いですね」
「猫さんのことバカにしてます?」
「めっそうもない! 猫ちゃんは猫ちゃんというだけで素晴らしい存在なのに、その上で勉強までするなんてすごいなぁと」
「にぇこまたはにぇ、センパイににゃらわないと、自然にはなれないにょ」
「じゃあたまに家出しちゃう子がいるのって」
「そういうバアイもありまにゅ。たいがいニンゲンにハッケンされちゃうんでにゅけどにぇ」
「なんだかすみません」
「にゃにゃ」猫又のハツコさんが首を振った。「それもまた修行の一環。それに、ワタシたちをシンパイしてにょこと……ありがたいでにゅ」
寿命を終えて天界に戻り研修を経て、念願の“猫のお世話係”になった私こと室戸カナは、お世話係として新たにOJTを受けている。
猫又のハツコさんにもご同席頂いているのだけど、リアルな猫が人間語喋ってるのヤバすぎ可愛い。
「猫学校には伝手があるにょで、にょちにょちご紹介しますにぇ」
「はい、お願いいたします」
「ところで……その手、なんですか?」
頭を下げた私に、お世話係の人間の先輩である笹木さんが訝しげに言った。その視線の先で、私の手が空中を揉んでいる。
「はっ。すみません」慌てて手を膝の上に叩きつけた。「あまりの可愛さに撫でたい気持ちが出てしまいました」
「あらあら」
「下界でシモベされてたんですよね」
「シモベと名乗れるほど立派ではなかったですけどね」
照れる私とは裏腹に、笹木さんはわかりやすくため息をついた。
(冗談なんだけどな……)
まぁいいやと気を取り直して、先輩とハツコさんのご講義に耳を傾けた。
「カナにゃんは生前どんなコと暮らしてたんでにゅか?」
ハツコさんの質問に、代々一緒に過ごしてきたニャンズたちの説明をした。
「あらまぁ、ずっと」
「はい。自分の晩年に猫がいない生活を送らなければならない状況になったんですけど、まぁ寂しくて。こんなことなら結婚して子供産んでおけば良かったなぁと思いました。そしたら私が先立っても、猫ちゃんのこと見てもらえたのにって」
「寂しいもにょですか」
「えぇ、とても」ハツコさんの言葉に深く頷く。「そういえば、笹木さんも生前は猫ちゃんと?」
「いえ、僕は……」
笹木さんがハツコさんをチラリと見やる。
ハツコさんは先を促すように右手のひらを出した。
あぁん、肉球ピンクさん♡
触ったら怒られるかなぁと思いつつ眺めていたら、気づいたハツコさんがこちらに手を差し出してくれた。
「少しだけですにょ?」
「はわぁ、ありがとうございます!」
握手するように両手でそっとハツコさんの手を包む。スベスベでプニプニの肉球。手の甲には短いけどトロトロの毛並み。あぁ、最高……。
「ありがとうございました」
「いえいえ~」
ニッコリ笑ったその顔も可愛らしい。はー、お世話係になれて良かった。
ハツコさんのお手手を堪能してふと気づく。
「笹木さんのお答えを聞きそびれました」
「思い出さなくていいですよ」
「笹木にゃんはね、犬さん派にゃんですよ」
「あらまぁ」
「猫さんたちが苦手とかではないですからね」
「犬課に配属希望出さなかったんですか?」
「出しましたし元々いたんですけどね。ゆくゆく上の立場に就くためには色々な方々と触れ合うのが大事ということで、色んな部署で勉強中です」
「そうなんですねー」
「室戸さんもいずれ色々な部署を回るのではないでしょうか」
「えー……ずっと猫課ってわけにはいかないですかね」
「室戸さんが良ければ可能かと」
「ぜひ。犬ちゃんも鳥ちゃんも、生き物は大概好きなんですけど、私的にはやっぱりネコチアンに勝る存在はいないんですよねー」
二本の尻尾をゆらゆらさせるハツコさんを見つめながらしみじみ思う。
そんな私を眺めながら、笹木さんとハツコさんが顔を見合わせた。
「つくづくシモベですね」
「ですにぇえ」
やだ、ネコチアン公認のシモベになれちゃった。嬉しい。
「頑張って業務内容覚えて、お仕事頑張ります!」
「あらあら、たにょもしい」
「頑張ってください。では、実際の施設へ行って、見学がてら説明でもしましょうか」
「はい!」
うふふ、と微笑むハツコさんと、少し呆れながら微笑む笹木さんに連れられ歩き出した。
一人前の“猫のお世話係”になれるように頑張るぞー!
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
ことり先生、キュンするのはお尻じゃなくて胸ですよ!-官能小説投稿おじさんと少女小説オタクの私が胸キュン小説を作ります!-
髙 文緒
ライト文芸
私、奔馬鹿ノ子は年季の入った少女小説読み。
最高の少女小説を作る、という夢を抱き、少女雑誌『リリン』編集部に入った。
しかし、配属されたその日、私はおかしな応募原稿に出会う。
封筒にある名前は田原小鳩。筆名は巌流島喜鶴(きかく)とある。少女小説の筆名としてはゴツすぎる。
「それ捨てていいよ、セクハラだから」と先輩は言うけれど、応募原稿を読みもせずに捨てるなんて出来ない。
応募原稿を読んでみたところ……内容はなんと、少女小説とは程遠い、官能小説だった!
えっちなものが苦手な私は、思わず悲鳴をあげてしまった。
先輩にたずねると、田原小鳩(巌流島喜鶴)は五年間几帳面に官能小説を送りつけてくる変態なのだという。
でも五年間もいたずら目的で送り続けられるものなのだろうか?
そんな疑問を抱いて、えっちな内容に負けずに、なんとか原稿を読み終えて確信した。
いたずらで書いたものではない。真面目に書かれたものだ。なにかの間違いで、リリンに送り続けているのだろう。
そして、少女小説読みの勘が、キュンの気配を読み取った。
いてもたってもいられず、田原小鳩に連絡をとることにした。
田原小鳩は何をしたくてリリンに官能小説を送り続けているのか、知りたかったからだ。
読まれずに捨てられていい作品じゃない、と思ったのもある。
紆余曲折を経て、なぜか私と田原小鳩(37歳・男性)は、二人で最高の少女小説を作ることになったのだった――!
隣の古道具屋さん
雪那 由多
ライト文芸
祖父から受け継いだ喫茶店・渡り鳥の隣には佐倉古道具店がある。
幼馴染の香月は日々古道具の修復に励み、俺、渡瀬朔夜は従妹であり、この喫茶店のオーナーでもある七緒と一緒に古くからの常連しか立ち寄らない喫茶店を切り盛りしている。
そんな隣の古道具店では時々不思議な古道具が舞い込んでくる。
修行の身の香月と共にそんな不思議を目の当たりにしながらも一つ一つ壊れた古道具を修復するように不思議と向き合う少し不思議な日常の出来事。
独身寮のまかないさん ~おいしい故郷の味こしらえます~
水縞しま
ライト文芸
第7回ライト文芸大賞【料理・グルメ賞】作品です。
◇◇◇◇
飛騨高山に本社を置く株式会社ワカミヤの独身寮『杉野館』。まかない担当として働く有村千影(ありむらちかげ)は、決まった予算の中で献立を考え、食材を調達し、調理してと日々奮闘していた。そんなある日、社員のひとりが失恋して落ち込んでしまう。食欲もないらしい。千影は彼の出身地、富山の郷土料理「ほたるいかの酢味噌和え」をこしらえて励まそうとする。
仕事に追われる社員には、熱々がおいしい「味噌煮込みうどん(愛知)」。
退職しようか思い悩む社員には、じんわりと出汁が沁みる「聖護院かぶと鯛の煮物(京都)」。
他にも飛騨高山の「赤かぶ漬け」「みだらしだんご」、大阪の「モダン焼き」など、故郷の味が盛りだくさん。
おいしい故郷の味に励まされたり、癒されたり、背中を押されたりするお話です。
幽霊事務局長の穏やかな日常=大病院の平和は下っぱ事務員と霊が守ります=
藤島紫
ライト文芸
【アルファポリス版】
医師でも看護師でもない。大病院の平和は、ただの事務員が体当たりで守っています。
事務仕事が苦手な下っ端事務員、友利義孝(ともりよしたか)。
ある日、彼が出会ったクロネコは、実は幽霊でした。
ところが、同僚の桐生千颯(きりゅうちはや)に言わせれば、それはクロネコではなく、伝説の初代事務局長とのこと。
彼らが伝えようとしていることは何なのか。
ミステリーテイストの病院の日常の物語。
=表紙イラスト、キャラデザイン=
クロ子さん
【アルファポリスで稼ぐ】新社会人が1年間で会社を辞めるために収益UPを目指してみた。
紫蘭
エッセイ・ノンフィクション
アルファポリスでの収益報告、どうやったら収益を上げられるのかの試行錯誤を日々アップします。
アルファポリスのインセンティブの仕組み。
ど素人がどの程度のポイントを貰えるのか。
どの新人賞に応募すればいいのか、各新人賞の詳細と傾向。
実際に新人賞に応募していくまでの過程。
春から新社会人。それなりに希望を持って入社式に向かったはずなのに、そうそうに向いてないことを自覚しました。学生時代から書くことが好きだったこともあり、いつでも仕事を辞められるように、まずはインセンティブのあるアルファポリスで小説とエッセイの投稿を始めて見ました。(そんなに甘いわけが無い)
実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは
竹井ゴールド
ライト文芸
日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。
その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。
青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。
その後がよろしくない。
青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。
妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。
長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。
次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。
三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。
四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。
この5人とも青夜は家族となり、
・・・何これ? 少し想定外なんだけど。
【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】
【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】
【2023/6/5、お気に入り数2130突破】
【アルファポリスのみの投稿です】
【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】
【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】
【未完】
ちょっと待ってよ、シンデレラ
daisysacky
ライト文芸
かの有名なシンデレラストーリー。実際は…どうだったのか?
時を越えて、現れた謎の女性…
果たして何者か?
ドタバタのロマンチックコメディです。
一葉恋慕・明治編
多谷昇太
ライト文芸
一葉恋慕(大森での邂逅編)」の続きです。こんどは私が明治時代にワープして来ました。一葉さんや母おたきさん、妹邦子さんがどう暮らしてらっしゃるのか…のぞき根性で拝見しに行って来ました…などと、冗談ですが、とにかく一葉女史の本懐に迫りたくて女史の往時を描いてみようと思ったのです。こんどは前回の「私」こと車上生活者は登場しませんのでご安心を。ただ、このシリーズのラストのラストに、思わぬ形で「私」と大森での邂逅を描いては見せますので、その折り、その有りさまをどうかご確認なさってください。では明治の世をお楽しみください。著者多谷昇太より。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる