日々の欠片

小海音かなた

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11/18『離れて暮らす幸せがある』

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 他人とは一緒に住めない。でも、あなたとは一緒になりたい――。

「ご飯できたけどどうする?」
『お、じゃあ食べに行こうかな』
「はーい、待ってます」
 通話を終えて、食卓に夕ご飯を二人分並べる。電話の相手はこの間結婚して、隣の家に住んでいる夫。
 彼と私の希望が一致して、同じマンションの同じ階、隣同士の部屋に住んでいる。お互いの部屋に行き来して、たまに寝泊まりして、でも普段は別の家で暮らしている。世間的には別居婚と言われている生活を、私たち夫婦もしている。
 一緒に住むメリットよりも、各々のライフスタイルに合わせるほうに重きをおいたらそうなった、という感じ。だからって別に仲が悪いとかそういうのじゃなくて、単純に、誰かと一緒に暮らすのが苦痛なだけ。それは血の繋がった家族も同様で、私は子供の頃から家を出たいと思っていた。
 門限ギリギリまで外で過ごして、夕焼け小焼けのチャイムが聞こえたら渋々帰宅する。そんな子供だった。
 そんな幼少期の体験を夫もしていたらしく、私たちはすぐに意気投合し、結婚した。そして、当然のように別々に暮らすことを選択した。ただそれだけ。
 運よく空いていた隣同士の部屋に移り住んで、休日にはデートしてどちらかの家でご飯を食べて、平日には朝食後に彼を送り出し、私は在宅で仕事をこなす。夜は両方の都合が合えば一緒にご飯を食べ、テレビを視たりゲームをしたり。寝るときは……日によって一緒にいたりいなかったり。
 恋人だった頃とあまり変わらず、家が近いから行き来が楽になったくらい。
 お互いにその生活が快適で、喧嘩もしないしいつでも新鮮だから、仲睦まじく幸せに過ごしている。
 家族や親戚からは心配する声もあるけれど、必ず同居婚しなければ、なんていう考えも、もう古いんじゃないかなぁ。
 通話終了後ほどなくしてチャイムが鳴り、玄関ドアを開錠する音が聞こえた。
「お疲れー」
 リビングに夫が入ってくる。
「お疲れ様。お風呂は?」
「これから」
「いま帰ってきた?」
「ううん? 少し前。洗濯する準備してた」
「なんだ、言ってくれたらやったのに」
「ホント? お願いしようかな。メシ終わったらこっちでくつろぐ?」
「そうする」
「じゃあ、片づけたら移動するか」
「はーい」
「今日なに? お、煮魚だ、やった」
「食べたかった?」
「うん。昼の定食で食べようと思ってたら売り切れって言われちゃった」
「あら、ナイスタイミング」
「ね」
 なんていう風に、私たちは幸せに過ごしている。あの出来事さえなければ――なんて展開もなく、ただ平凡に、つつましやかに、幸せである。
 ご飯を食べ終え、二人でお皿を洗って彼の部屋へ行く準備をする。
「風呂沸かしてるからこっちで入れば?」
「そうしようかなー」
 着替えとお風呂道具をまとめて持った。銭湯かなんかに行く感覚って、こんなのだろうか。
 一応家計は同じ財布にしていて、二人の生活費はそこから出してる。だから節約するのもお互いのため。毎月固定額を共通の口座へ移して、残りは個人管理。お小遣いだったり投資だったり定期貯金したりしてる。
 自分ちのドアを施錠して、彼の家へ一緒に行く。
「案外寒いね」
 廊下に出て、肩をすくめた。
「そう、風冷たいんだよね。湯冷めしてもなんだし、泊まってったら?」
「そうしようかなー」
 お風呂道具の他にスマホとかも持ってきているし、必要なものがあればパッと帰ればいいだけだ。
 彼の家に上がって、リビングへ向かう。間取りは一緒だけど、独身時代の家具一式を持ってきて置いてるから配置が違ってやっぱり新鮮。
「なんかテレビ視る? バラエティかドラマか映画か……ゆっくりしたいなら風呂先する?」
「テレビかー。今日なにやってたっけ。都合いいならあなた先お風呂どうぞ。洗い物出たら一気に洗濯しちゃいたい」
「それもそうだね。じゃあサクッと入ろうかな。……一緒に入る?」
「……それでもいいけど……」
「じゃあ先入ってて。あとから行く」
「ん」
 なんて、新婚ならではのラブラブな感じも堪能してる。
 【普通の夫婦】とは違った形かもしれないけれど、私たちはこれが幸せなんだよなー。
 やいやい言ってくる人たちにもわかってほしいけど……価値観が違うんだから仕方ない。言わせておこう。

 二人でお風呂に入って、心も身体もホカホカのまま洗濯機をセットする。乾燥が終わるまでの間にソファベッドでくつろぎながら、大好きな彼とバラエティ番組を視る。
 乾燥が終わったら二人で一緒に畳んで仕舞う。
 一応泊まるつもりだけど、気が変わったり一緒にいるのが苦痛になったら帰れる場所がすぐ隣にあるなんて……あぁ、最高だぁ!
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