日々の欠片

小海音かなた

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11/15『保健室の先生が狩猟世界の受付嬢になったらめちゃめちゃモテちゃった件』

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 やってらんねぇ。
 髪を乾かしながらビールを飲む。
 なんでお前らの愚痴聞いてやってんのになんでこっちが愚痴るとまぁまぁとかって中断させんだよ。女の愚痴は聞いてらんねーってか。なーにが“優しい保健室の先生♡”だ。
 中身を飲み干し、缶をテーブルに置いた。
 くぁー、旨い! しかし職場しんどいな。転職したろかな。いい加減ストレスやばい。
 ということで、ストレス発散のためにやってる狩猟系ゲームにログインする。
 マイルームへ入ったらポストのアイコンがチカチカしてた。見てみたらゲーム内キャラの“中の人”の求人案内だった。
 へぇ、面白そう。受かるかわからないけど応募してみようかな。月給換算したらいまより少し収入あがりそうだし。
 あれこれ考えながら募集内容を確認していたら、無意識のうちに応募完了してた。こわ。無意識こわ。よっぽどいまの職場イヤなんだな。
 せっかくだからと、面接を受ける。なにか得意なことありますか? と聞かれたから答えた。
「人の愚痴を聞くのが得意のようです」
「ご自覚はないんですか?」
「ないですね。気づくと聞かされているというか」
「なにかエピソードなどはありますか」
「はい。初めて行ったヘアサロンで店員さんと二人きりだったんですけど、施術中ずっとその人の愚痴を聞かされてたことがあります」
「初対面で?」
「初対面で。しかも施術代は割引なし」
「それはなかなか、お得意のようですね」
「そうみたいですね」
 面接官と顔を見合わせ、あっはっはと笑う。私にとっては笑いごとじゃないんだけど、ウケたならまぁいいや。
 引継ぎや退職手続きに時間がかかるかもしれないからすぐには就業できない旨や、いまの職場よりも安定した収入と勤務時間を確保してほしい旨など、色々面倒な希望を出したから合格するのは難しそうだけど、そこそこ課金してやってるゲームの中の人に会えたのはちょっと嬉しかった。開発の中村さんまで同席してたし、けっこう大規模な募集だったのかもなー。
 面接会場だった運営会社が入っているビルを出て、見上げた。学校とは違う一般企業のオフィスは、新鮮で楽しかった。

 なんて終わったつもりでいたのに、後日合格の連絡がきた。中村さんから「是非に」とお申し出があったらしい。そんなこと言われたら、断る理由なんてないなぁ。
 というわけで、勤務先に辞表叩きつけて、今更な給与アップの交渉も蹴って、憧れてた世界の受付嬢 (の中の人)になった。
 合格者は私の他にも数名いて、希望シフト優先の持ち回り制で担当するそう。誰もいない時間帯はNPCがフォローするらしく、こちらの都合に合わせた業務が可能とのこと。
 業務内容は受付の他にチャット形式の問い合わせ対応やお知らせの発信など。
 研修中に作成するアカウントは自分のアカウントでもいいそう。だったら使い慣れたほうがいいからと自アカでログインした。ゲーム内募集で合格したのは私だけみたいで、他の子たちはアカウントを作るところから始めてる。
 ある程度までの有料アイテムを支給してくれるというので、買うのを躊躇してた装備とアイテムを配布してもらった。やったー!
 カスタムしていたら中村さんが画面を覗きに来てくれた。
「けっこうプレイしてます?」
「してます」
 言って、ステータス画面を開いた。
「おぉ、なかなか……お。課金勢ですか」
「そうですね、お小遣い程度ですけど」
「いやいや、こちらとしてはありがたいことです」
 出来上がったキャラは見た目も装備もバラバラ。各人のキャラ付けが目的らしい。
 プレイ経験があるからと、私だけサポーター役の研修も受けることになった。特別手当も出るって。あれ? もしや憧れていた“プロゲーマー”のはしくれになれちゃってる? うわー、転職して大正解!
 そうして勤務を初めてから数日、問い合わせ以外でも良く話しかけられるようになった。結果、こっちでもみんなの愚痴を聞く羽目になっている。
 字面にだけ笑みを含めて真顔で対応していたら、中村さんがふらりとゲームルームに現れた。チャットする私の画面を見て「ほぅほぅ」と中村さんが鳴く。
「モテモテですね」
「モテ……てるんですかね。前職とあんまり変わらなくなっちゃいました」
「いやぁ、皆さん貴女のファンですよ。今度リアルでイベントやるとき出てもらおうかな」
「匿名性の高い見た目になれるならいいですよ」
「ゲーム内と同じ装備をご用意しますよ」
「え、やりたい」
「じゃあ、作元さん決定で」
「……ダイエットしておきます」
「あっはっは。露出少なめって発注しておきます」
 結局、何故かイベントで私がプレイヤーの話を聞く【人生相談】コーナーみたいのが設営されて列ができたりプレゼントを大量にいただいたりするのだけれど、それは別の機会にでも……。
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