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11/8『真ん丸おめめで編み笠かぶって』
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「よぅし、今日の仕事は終わりじゃ」
「うむ」
ホイッと宙返りをして、二匹は置物から生身の狸に戻った。
「腹減ったな。なにか人間向けのもんが食いたいな」
「でもいい加減、葉金術使うのもなぁ」
「それがだな、最近来るようになった屋台が、葉っぱのままでも支払い可能になったと」
「そーんな都合のええ話ぃ」
「とりあえず行ってみんか? そいで、嘘か誠か確かめよう」
「ツラい目に遭うのは嫌だぞ?」
「そんときゃ逃げればいいさに」
「小吉はいつもそうやってー」
「中吉っつぁんよりポジテブなだけじゃい」
ほれほれ、と促されて中吉が重い腰を上げた。
門番をしている店舗から歩くこと5分。大通り沿いに面した歩道の端っこに、暖かな灯りを放つ一軒の屋台が見えた。
「おぉ、あれかな?」
「小吉、人間に化けんと」
「気にせん店主らしいぞ」
「違ってたら大変じゃ!」
「それもそうか。んでは」
二匹はホイッと人間の姿になって屋台へ近づいた。
「いらっしゃい、二名様。あ、うち動物さん歓迎してるんで普段のお姿でもいいですよ」
「ありゃ、どっかボロ出てた?」
「常連のタヌキさんに見分け方教わったんです」
「ありゃそうかい」
二匹は人間姿のまま椅子に座る。
「ご注文どうぞ」
店主がテーブル上のメニューを示した。品名の横に価格が提示されている。
「人間界の金はないけどいいのかい?」
「はい。もし気が引けるようでしたら、お代としてなにか不思議な現象などをお見せ頂ければ」
「不思議……というと?」
「ヘンゲだったり葉っぱをお金に変える術だったり」
「葉金術は門外不出じゃから無理じゃのう」
「ですよねー。そちらの決まりごとに反しない範囲で結構ですよ」
「ほしたら……仕事中の姿になるっちゅうのはどうかね」
「ヘンゲですか。是非」
ほんじゃと小吉が中吉に目配せをした。いつものようにホイッと空中で一回転して、置物の姿になった。
「わー! すごいすごい! 難しいでしょうにそんなアッサリと」
「いやぁ、いつものことだで」
「なぁに中吉っつぁん、照れちゃって」
「やめろよ小吉」
「中吉さんに小吉さん。素敵なお名前ですね」
「いやいや」
「えへへ」
店主と談笑しながら注文を済ませる。
「ワシらの同族以外にも来とるんか?」
「そうですね、周辺の動物さんの間で重宝して頂いてます」
「ワシらを追い出さんでくれる店なんぞ他で聞かんからな、当然じゃないかの」
「生きてりゃ誰でもお腹減りますもん」
店主は魔法のような手捌きでうどんを作った。
「はい、たぬきうどん海老天乗せと、冷やしたぬきうどんのカマボコ増し増し、お待たせしましたー」
「「おぉー」」
目の前に出された器を覗き込んで、二匹が感嘆の声を上げる。顔には笑みが広がった。
美味い美味いとうどんをすする二匹を、店主が嬉しそうに見つめている。
「お嬢さんはなんだって、ワシらに優しくしてくれるのかね」
「うーん、皆さんには嫌な話かもですが、人間界には昔話ってのがありまして」
「大概ワシらが【悪者】のやつかね」
「はい」店主は苦笑しながら続けた。「美味しそうだからとか空腹で仕方なくとか、みんな理由は同じなのに、なんで動物だけ冷遇されるのかなって悲しくて……だったら私が優遇できるお店作ればいいんじゃんって思って」
「奇特な人間さんじゃな」
「良く言われます」
「儲けが出なけりゃ店が続けられんだろ。大丈夫なのかい?」
「はい。本業は作家でして、色んな方々に了承を得て、お伺いしたお話に少し脚色を加えた小説とか物語を書いてるんですよ」
「「ほう」」
「そちらが順調なので、こちらはほぼ趣味みたいな感じです」
「そりゃええねぇ。ワシらもありがたいよ」
「なので、もし良ければ差し支えない範囲でお話も伺えると嬉しいです」
小吉と中吉は嬉しくなって、体験談や同族から聞いた昔話を店主に伝えた。
いつの間にか同席していた人間の客も、二匹の話を興味深く聞いている。
昔話を終えた二匹は、ふうと息をついた。
「おもしろーい!」
「そんなことがあったんだねぇ!」
店主と客が手を叩いて称賛する。
「いやいや」
「お客さんはワシらのこと、嫌じゃないんかね」
「言葉通じるしユーモアもあるし……同席できて嬉しいよ」
客の言葉に二匹の顔に笑みが広がる。
「お礼にフルーツ、サービスします。秦さんもね」
「俺にも? ありがとう」
「いえいえ」
さんにん仲良くフルーツを頬張る姿に、店主が顔を綻ばせる。
二匹の帰り際に店主が言った。
「毎日開店できるように副店主などを探すので、末永くご愛顧ください」
店主の心意気に応えようと、動物たちは店主のために土産話や自家製果実などを持ち寄った。
客も店主も大層喜び、屋台も作家業も大繁盛! ウィンウィンの関係になれたとさ。
「うむ」
ホイッと宙返りをして、二匹は置物から生身の狸に戻った。
「腹減ったな。なにか人間向けのもんが食いたいな」
「でもいい加減、葉金術使うのもなぁ」
「それがだな、最近来るようになった屋台が、葉っぱのままでも支払い可能になったと」
「そーんな都合のええ話ぃ」
「とりあえず行ってみんか? そいで、嘘か誠か確かめよう」
「ツラい目に遭うのは嫌だぞ?」
「そんときゃ逃げればいいさに」
「小吉はいつもそうやってー」
「中吉っつぁんよりポジテブなだけじゃい」
ほれほれ、と促されて中吉が重い腰を上げた。
門番をしている店舗から歩くこと5分。大通り沿いに面した歩道の端っこに、暖かな灯りを放つ一軒の屋台が見えた。
「おぉ、あれかな?」
「小吉、人間に化けんと」
「気にせん店主らしいぞ」
「違ってたら大変じゃ!」
「それもそうか。んでは」
二匹はホイッと人間の姿になって屋台へ近づいた。
「いらっしゃい、二名様。あ、うち動物さん歓迎してるんで普段のお姿でもいいですよ」
「ありゃ、どっかボロ出てた?」
「常連のタヌキさんに見分け方教わったんです」
「ありゃそうかい」
二匹は人間姿のまま椅子に座る。
「ご注文どうぞ」
店主がテーブル上のメニューを示した。品名の横に価格が提示されている。
「人間界の金はないけどいいのかい?」
「はい。もし気が引けるようでしたら、お代としてなにか不思議な現象などをお見せ頂ければ」
「不思議……というと?」
「ヘンゲだったり葉っぱをお金に変える術だったり」
「葉金術は門外不出じゃから無理じゃのう」
「ですよねー。そちらの決まりごとに反しない範囲で結構ですよ」
「ほしたら……仕事中の姿になるっちゅうのはどうかね」
「ヘンゲですか。是非」
ほんじゃと小吉が中吉に目配せをした。いつものようにホイッと空中で一回転して、置物の姿になった。
「わー! すごいすごい! 難しいでしょうにそんなアッサリと」
「いやぁ、いつものことだで」
「なぁに中吉っつぁん、照れちゃって」
「やめろよ小吉」
「中吉さんに小吉さん。素敵なお名前ですね」
「いやいや」
「えへへ」
店主と談笑しながら注文を済ませる。
「ワシらの同族以外にも来とるんか?」
「そうですね、周辺の動物さんの間で重宝して頂いてます」
「ワシらを追い出さんでくれる店なんぞ他で聞かんからな、当然じゃないかの」
「生きてりゃ誰でもお腹減りますもん」
店主は魔法のような手捌きでうどんを作った。
「はい、たぬきうどん海老天乗せと、冷やしたぬきうどんのカマボコ増し増し、お待たせしましたー」
「「おぉー」」
目の前に出された器を覗き込んで、二匹が感嘆の声を上げる。顔には笑みが広がった。
美味い美味いとうどんをすする二匹を、店主が嬉しそうに見つめている。
「お嬢さんはなんだって、ワシらに優しくしてくれるのかね」
「うーん、皆さんには嫌な話かもですが、人間界には昔話ってのがありまして」
「大概ワシらが【悪者】のやつかね」
「はい」店主は苦笑しながら続けた。「美味しそうだからとか空腹で仕方なくとか、みんな理由は同じなのに、なんで動物だけ冷遇されるのかなって悲しくて……だったら私が優遇できるお店作ればいいんじゃんって思って」
「奇特な人間さんじゃな」
「良く言われます」
「儲けが出なけりゃ店が続けられんだろ。大丈夫なのかい?」
「はい。本業は作家でして、色んな方々に了承を得て、お伺いしたお話に少し脚色を加えた小説とか物語を書いてるんですよ」
「「ほう」」
「そちらが順調なので、こちらはほぼ趣味みたいな感じです」
「そりゃええねぇ。ワシらもありがたいよ」
「なので、もし良ければ差し支えない範囲でお話も伺えると嬉しいです」
小吉と中吉は嬉しくなって、体験談や同族から聞いた昔話を店主に伝えた。
いつの間にか同席していた人間の客も、二匹の話を興味深く聞いている。
昔話を終えた二匹は、ふうと息をついた。
「おもしろーい!」
「そんなことがあったんだねぇ!」
店主と客が手を叩いて称賛する。
「いやいや」
「お客さんはワシらのこと、嫌じゃないんかね」
「言葉通じるしユーモアもあるし……同席できて嬉しいよ」
客の言葉に二匹の顔に笑みが広がる。
「お礼にフルーツ、サービスします。秦さんもね」
「俺にも? ありがとう」
「いえいえ」
さんにん仲良くフルーツを頬張る姿に、店主が顔を綻ばせる。
二匹の帰り際に店主が言った。
「毎日開店できるように副店主などを探すので、末永くご愛顧ください」
店主の心意気に応えようと、動物たちは店主のために土産話や自家製果実などを持ち寄った。
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