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10/19『回る幸せ』
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「……目ぇ回んないの」
「回りそうになったら瞼閉じてる」
「そう」
彼女はドラム式洗濯機の前に座り、中の回転をずっと眺めている。
忙しい日は洗濯してる間に他のことしてるけど、今日みたいに余裕がある日はよく洗濯機の回転を眺めてる。
見ていると、ちゃんと洗われてる実感が湧くんだとか。
彼女は日常の中に“楽しい”を見つける天才。
彼女といるとなにげない毎日が輝くように楽しいで溢れる。
道端に咲いてる季節の花や、水浴びをする小鳥たちを見つけてはニコニコ眺め、どこからか漂ってきた金木犀の香りにもいち早く気づく。発生源を探しに行って散歩が少し横道に逸れたり、入ったことのない路地まで行って隠れ家っぽいカフェを見つけたり。
彼女の日常は、きっと僕が見てるそれよりも輝いてるんだろうなと思って聞いてみたことがある。
そしたら彼女は少しキョトンとして、自分にとってはそれが普通だからあんまりわかんないって答えた。
そうか、確かにそういうもんかもしれない。
彼女は普段から、ストレッチしながら床拭きしたり、ダンスしながら風呂掃除したりと毎日楽しそう。
彼女の真似して掃除とか洗濯してみたけど、彼女ほど楽しくできない。彼女の性格とかが関係してるのかなって思って聞いてみた。
「家事は得意じゃないし面倒だから、少しでも楽しくしたくて歌ったり踊ったり、筋伸ばしたりしてる」
「え、そうなの? 楽しいからそうなってるのかと思ってた」
「ぜーんぜん。でも楽しそうにやった方が、同じように作業してても捗る気がするんだよね」
「なるほど、それは見習わないとだ」
「そんな大したことじゃないよ」
彼女は笑うけど、すごいことだと思う。僕にはそんな風に、ポジティブに物事を捉える能力がないから。
彼女といると毎日が楽しい。僕は彼女にそのお返しができているだろうか。
それは勇気が出なくて聞けなかったけど、彼女と一緒に楽しめるように、僕もステップ踏みながら家具のホコリを取ったり、歌を歌いながら洗濯を干してたら、あまり積極的にやろうとは思えなかった家事が楽しく感じてきた。
なるほど。彼女が言ってたのはこういうことだったんだなって、ようやくわかり始めた。
そしていまでは、二人で並んでドラム式洗濯機の中を眺めるようになった。
「うーん、やっぱ目ぇ回るね」
「訓練だよ訓練」
「訓練かー。どうやればいいやら」
「最初は休み休みでいいからね、ちょっとずつね」
「うん、じゃあちょっと休憩」
瞼を閉じても目の前で洗濯物が回る光景が見えるよう。
若干の気持ち悪さを感じながら、固くなった首と肩をほぐしていたら、隣で彼女がヘヘッて笑った。
「なに?」
「んー? 二人で見るの、楽しいね」
なんて彼女が言うから、うっかり今日を洗濯機記念日にしてしまいそうになった。
「回りそうになったら瞼閉じてる」
「そう」
彼女はドラム式洗濯機の前に座り、中の回転をずっと眺めている。
忙しい日は洗濯してる間に他のことしてるけど、今日みたいに余裕がある日はよく洗濯機の回転を眺めてる。
見ていると、ちゃんと洗われてる実感が湧くんだとか。
彼女は日常の中に“楽しい”を見つける天才。
彼女といるとなにげない毎日が輝くように楽しいで溢れる。
道端に咲いてる季節の花や、水浴びをする小鳥たちを見つけてはニコニコ眺め、どこからか漂ってきた金木犀の香りにもいち早く気づく。発生源を探しに行って散歩が少し横道に逸れたり、入ったことのない路地まで行って隠れ家っぽいカフェを見つけたり。
彼女の日常は、きっと僕が見てるそれよりも輝いてるんだろうなと思って聞いてみたことがある。
そしたら彼女は少しキョトンとして、自分にとってはそれが普通だからあんまりわかんないって答えた。
そうか、確かにそういうもんかもしれない。
彼女は普段から、ストレッチしながら床拭きしたり、ダンスしながら風呂掃除したりと毎日楽しそう。
彼女の真似して掃除とか洗濯してみたけど、彼女ほど楽しくできない。彼女の性格とかが関係してるのかなって思って聞いてみた。
「家事は得意じゃないし面倒だから、少しでも楽しくしたくて歌ったり踊ったり、筋伸ばしたりしてる」
「え、そうなの? 楽しいからそうなってるのかと思ってた」
「ぜーんぜん。でも楽しそうにやった方が、同じように作業してても捗る気がするんだよね」
「なるほど、それは見習わないとだ」
「そんな大したことじゃないよ」
彼女は笑うけど、すごいことだと思う。僕にはそんな風に、ポジティブに物事を捉える能力がないから。
彼女といると毎日が楽しい。僕は彼女にそのお返しができているだろうか。
それは勇気が出なくて聞けなかったけど、彼女と一緒に楽しめるように、僕もステップ踏みながら家具のホコリを取ったり、歌を歌いながら洗濯を干してたら、あまり積極的にやろうとは思えなかった家事が楽しく感じてきた。
なるほど。彼女が言ってたのはこういうことだったんだなって、ようやくわかり始めた。
そしていまでは、二人で並んでドラム式洗濯機の中を眺めるようになった。
「うーん、やっぱ目ぇ回るね」
「訓練だよ訓練」
「訓練かー。どうやればいいやら」
「最初は休み休みでいいからね、ちょっとずつね」
「うん、じゃあちょっと休憩」
瞼を閉じても目の前で洗濯物が回る光景が見えるよう。
若干の気持ち悪さを感じながら、固くなった首と肩をほぐしていたら、隣で彼女がヘヘッて笑った。
「なに?」
「んー? 二人で見るの、楽しいね」
なんて彼女が言うから、うっかり今日を洗濯機記念日にしてしまいそうになった。
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