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10/15『チャチャチャ』
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夜中、人間が寝静まった頃、子供部屋の片隅でおもちゃたちが動き出す。みたいな物語には、肯定派と否定派がいると思う。
彼氏は人形が動いてくれてたらいいのになぁってうっとりしながら言う人種。
私は、人を模った置物などが苦手なので、本気でご遠慮願いたい人種。
人の形をしてなきゃいいかっていうとそういうわけでもなく、やっぱりおもちゃが自我を持って動くとかには憧れられない。その自我がどこから生まれたものなのかわからないから、得体が知れない怖さを感じる。
肯定派の彼は超有名アニメ全般が好きで事あるごとに一緒に見たいというのだけど、私はあの世界観が得意ではなくて応えられない。だって怖いんだもの。
アニメを制作しているのと同じ会社がテーマパークも運営してるんだけど、そこに住んでるその国の生き物たちも怖くて見れない。
たまに街中でチラシを配ったりしている“名もなきクマちゃん”とか“名もなきウサギちゃん”みたいなヒトたちも怖い。見かけたら目を逸らしてそそくさとその場を去るくらい怖い。
以前彼にその旨伝えたはずなんだけど、その感覚がわからない彼的にはあまり深刻だと思ってないようで、度々誘われる。ほだされていつか誘いに乗ると思ってるのかもしれないけど、ごめん。その未来は一生来ないよ。
街を一緒に歩いているとき、“そういうヒトたち”から逃げる姿も見てるはずなんだけどなー。街中にいるあのヒトたちと、あの国にいるあのヒトたちは違う種族だと思ってるのかもだけど、同じだよ、同じカテゴリ。私にとってはどっちも恐怖の対象。
趣味のこと以外は優しくて頼もしくて素敵な彼氏だから、別れたくはないのだけど……。
今日はこれまでにないやる気を見せて来た。
「じゃーん、どれがいい?」
仕事から帰ってきた彼の手に、扇状に広げた数枚のメディアケース。全部あの会社が制作している【名作アニメ】だ。
じゃーん、じゃないよ……。うぅ、ジャケット絵だけでもう怖い……。
「ごめん、一緒には見れない」
「いっつもそうやって言うけどさ、見たことあるの?」
「ないよ」
怖くて見れないんだよ。
「じゃあ絶対食わず嫌いなだけだって。一回見たらハマるって」
こいつ無理強いって言葉知らないのかな。
「本当にごめん、そういう問題じゃないんだ。だから、見るなら一人でどうぞ」
「キミはいつでもそうやって、僕の趣味をないがしろにするよね」
「ないがしろにしてるんじゃなくて」
「僕がキミの趣味をそうやって否定したら、キミは悲しくないの?」
「え……うん。人それぞれ好みはあるし……」
そう答えたら彼が大きくため息をついた。
「新しいものを受け入れられないんだね」
だからぁ。
強めの口調が出そうになるのをこらえて、口を開く。
「いままで気を悪くするかと思って言えてなかったからハッキリ言うけど、私、その国のヒトたちが怖いんだ。好き嫌いじゃなくて、見ると恐怖心が湧いてくるの。それはもうどうしようもないの。あなたがその世界を好きって知ってから克服しようとしたけど無理だったの。だから申し訳ないけど、誘ってもらっても応じられない。ごめん」
正直に言って頭を下げた。これで理解してもらえなかったら、もうその時はそれまでだって覚悟を決めて。
世間的には私が少数派だとわかってる。だからこそ、肩身が狭くて理解されづらいってことも重々承知してる。ましてやその世界が好きな人にとってみれば、私のこの感覚は理解できないだろう。でも、だからこそ、これがわかってもらえたら、私たちは一歩前に進めるんじゃないかって思ってたんだ。
だけど彼は顔に【理解できない】と書いて、黙ってしまった。
あぁ、まぁ、そうなるよね……。それでも彼とこの先ずっと一緒にいるんだとしたら、ここは越えなければならない壁なんだ。
その日は会話もろくにせず、お互いの部屋でそれぞれ過ごした。同棲してから初めてのことだった。
ショックだったよなーそりゃ。自分が好きなものを理解してもらえないってショックだよ。でも自分が苦手なことを理解してもらえないのもショックなんだよ。
いつもは嬉しい土曜の朝なのに気が重い。
リビングのドアを開けたら、彼がテレビでDVDを視ていた。
「……っ!」
ダメだ、やっぱり怖い。
思わず顔を背けた私を見て彼が言った。「本当だったんだ」
「ウソついてどうするの」
「面倒だって言えないのかと」
「面倒なくらいだったら良かったよ。そういうわけなので、幻滅したなら今後の話し合いを」
「幻滅はしてない。無理強いしてごめん。でも俺の生き甲斐でもあるこの趣味を我慢するのは無理だ」
お互い我慢はしなくていいから折衷案を、ということになった。
別れると言う話が出なくて良かったけど、肯定派と否定派の折衷案、上手に出せるかなぁ。
彼氏は人形が動いてくれてたらいいのになぁってうっとりしながら言う人種。
私は、人を模った置物などが苦手なので、本気でご遠慮願いたい人種。
人の形をしてなきゃいいかっていうとそういうわけでもなく、やっぱりおもちゃが自我を持って動くとかには憧れられない。その自我がどこから生まれたものなのかわからないから、得体が知れない怖さを感じる。
肯定派の彼は超有名アニメ全般が好きで事あるごとに一緒に見たいというのだけど、私はあの世界観が得意ではなくて応えられない。だって怖いんだもの。
アニメを制作しているのと同じ会社がテーマパークも運営してるんだけど、そこに住んでるその国の生き物たちも怖くて見れない。
たまに街中でチラシを配ったりしている“名もなきクマちゃん”とか“名もなきウサギちゃん”みたいなヒトたちも怖い。見かけたら目を逸らしてそそくさとその場を去るくらい怖い。
以前彼にその旨伝えたはずなんだけど、その感覚がわからない彼的にはあまり深刻だと思ってないようで、度々誘われる。ほだされていつか誘いに乗ると思ってるのかもしれないけど、ごめん。その未来は一生来ないよ。
街を一緒に歩いているとき、“そういうヒトたち”から逃げる姿も見てるはずなんだけどなー。街中にいるあのヒトたちと、あの国にいるあのヒトたちは違う種族だと思ってるのかもだけど、同じだよ、同じカテゴリ。私にとってはどっちも恐怖の対象。
趣味のこと以外は優しくて頼もしくて素敵な彼氏だから、別れたくはないのだけど……。
今日はこれまでにないやる気を見せて来た。
「じゃーん、どれがいい?」
仕事から帰ってきた彼の手に、扇状に広げた数枚のメディアケース。全部あの会社が制作している【名作アニメ】だ。
じゃーん、じゃないよ……。うぅ、ジャケット絵だけでもう怖い……。
「ごめん、一緒には見れない」
「いっつもそうやって言うけどさ、見たことあるの?」
「ないよ」
怖くて見れないんだよ。
「じゃあ絶対食わず嫌いなだけだって。一回見たらハマるって」
こいつ無理強いって言葉知らないのかな。
「本当にごめん、そういう問題じゃないんだ。だから、見るなら一人でどうぞ」
「キミはいつでもそうやって、僕の趣味をないがしろにするよね」
「ないがしろにしてるんじゃなくて」
「僕がキミの趣味をそうやって否定したら、キミは悲しくないの?」
「え……うん。人それぞれ好みはあるし……」
そう答えたら彼が大きくため息をついた。
「新しいものを受け入れられないんだね」
だからぁ。
強めの口調が出そうになるのをこらえて、口を開く。
「いままで気を悪くするかと思って言えてなかったからハッキリ言うけど、私、その国のヒトたちが怖いんだ。好き嫌いじゃなくて、見ると恐怖心が湧いてくるの。それはもうどうしようもないの。あなたがその世界を好きって知ってから克服しようとしたけど無理だったの。だから申し訳ないけど、誘ってもらっても応じられない。ごめん」
正直に言って頭を下げた。これで理解してもらえなかったら、もうその時はそれまでだって覚悟を決めて。
世間的には私が少数派だとわかってる。だからこそ、肩身が狭くて理解されづらいってことも重々承知してる。ましてやその世界が好きな人にとってみれば、私のこの感覚は理解できないだろう。でも、だからこそ、これがわかってもらえたら、私たちは一歩前に進めるんじゃないかって思ってたんだ。
だけど彼は顔に【理解できない】と書いて、黙ってしまった。
あぁ、まぁ、そうなるよね……。それでも彼とこの先ずっと一緒にいるんだとしたら、ここは越えなければならない壁なんだ。
その日は会話もろくにせず、お互いの部屋でそれぞれ過ごした。同棲してから初めてのことだった。
ショックだったよなーそりゃ。自分が好きなものを理解してもらえないってショックだよ。でも自分が苦手なことを理解してもらえないのもショックなんだよ。
いつもは嬉しい土曜の朝なのに気が重い。
リビングのドアを開けたら、彼がテレビでDVDを視ていた。
「……っ!」
ダメだ、やっぱり怖い。
思わず顔を背けた私を見て彼が言った。「本当だったんだ」
「ウソついてどうするの」
「面倒だって言えないのかと」
「面倒なくらいだったら良かったよ。そういうわけなので、幻滅したなら今後の話し合いを」
「幻滅はしてない。無理強いしてごめん。でも俺の生き甲斐でもあるこの趣味を我慢するのは無理だ」
お互い我慢はしなくていいから折衷案を、ということになった。
別れると言う話が出なくて良かったけど、肯定派と否定派の折衷案、上手に出せるかなぁ。
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