日々の欠片

小海音かなた

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10/7『事足りる』

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 うーん、いいな。でもさすがに色気なさすぎか。
 陳列棚を眺めながら、周囲の人にバレないようにそっと服の中に手を入れ、自分の腹を触る。冷たい。
 そうだよね、冷えてるよね、知ってた。
 別にお腹を壊してるとかそういうのじゃなくて、冷え性なのだ。そして冷えていると脂肪をたくわえ、太ってしまうのだ。
 それが嫌でなにかいい方法はないかなぁ、とランジェリーショップに立ち寄って見つけたのが、腹巻きだった。
 オシャレだったりキャミソールっぽいやつだったり可愛いものも多いけど、私が惹かれたのは超有名浮世絵がプリントされているものだった。
 お腹に歌舞伎役者。いいと思うんだけどなぁ。でもさすがに色気なさすぎか。
 と最初に戻る。
 いや、別に色気がなくたっていいか、見せる相手もいないし。
 よぅし、買っちゃえ。
 久々の衝動買いにテンションがあがる。
 家に帰ってお風呂に入りながら腹巻きを手洗いし、お風呂終わりに乾燥させて装着。あったかい。
 部屋着のシャツをめくって、姿見に自分を写す。お腹で見得を切る歌舞伎者。うん、いいじゃない。男性が見たらどうかと思うだろうけど。
 よしよし、これで私のお腹は冷えなくなったぞ。
 しばらく使ってみて、肌に合うようだったら洗い替えに何枚か買い足そう。
 とか思っていたら、あっという間に増えちゃった、歌舞伎役者。
 いまではタンスの引き出しにずらり。まさかのシリーズ化されていて、うっかり買い揃えてしまったため一週間毎日違う歌舞伎役者をお腹に従えている。
 同じ絵師の風景画シリーズもあってそっちも気になってるけど、三十六枚もあっても……という気持ちで踏みとどまっている。
 誰かに見せるつもりはないけど、こういうの見て一緒に笑ってくれるパートナーが見つかるといいなー、なんて。
 今のところは、歌舞伎役者に日替わりパートナーとしてお腹を守ってもらえれば満足なのであった。
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