日々の欠片

小海音かなた

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10/4『果てなき夢』

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「へー、思ってたより空気濃いんすね」
「最近ドームをリフォームしたんですよ~」
「あぁー、なるほど。工事大変そう」
「そうみたいですね。大きいのをかぶせて、古いのをちょっとずつ解体して、資源として再利用したらしいですよ」
「あー、資材運ぶのも大変ですもんねー」
「運送コストがねぇ。なんせ38万光年以上離れてますからねぇ」
 不動産屋が移した視線の先に、地球が浮かんでいた。

 人類が月を開発し始めてから数十年。人が住むための環境も整い、往復便の料金も手頃になってきたため、別荘利用や移住目的で月を訪れる人が多くなった。
 居住空間の重力や酸素を保つために建てられた大きな透明のドームの中で、人類は暮らしている。
 ドームは全部で5層あり、万が一ドームのどこかに隕石や宇宙ゴミなどが当たって破損したとしても、内部の空気は漏れることなく安全を保てる。内部衝撃で破損したとしても同様で、修復している間も危険がない。
 劣化による事故が起こると生死にかかわるので、それを防ぐために定期的にメンテナンスやリフォームが行われている。

「そのリフォームで内部敷地が広くなったおかげで、新規物件が増えたわけでして」
「なるほど」
 月に設置できる住居は数が限られている。土地はあるが生活するための設備と環境が整っていないのだ。
 今回のドームリフォームは、居住空間を広くするという目的もあり、通常よりも大規模な範囲で行われた。
「お客様がご希望なされている、地球が見える物件というのが、この辺りの地区になりますね」
「ドーム近いんですね」
「新規開拓地ですとどうしても……まぁ危険はないとされているので」
 まぁ、ドームと言っても肉眼ではほぼ見えぬほどに透明度は高いし、もし事故があったとしたらドームの内部全体に一瞬で影響が及ぶから、中心部だろうと端っこだろうとあまり関係ない。
 住宅ばかりが増えてインフラ施設があまりなく、買い物や移動がちょっと不便なくらいだ。
「見晴らしは素晴らしいですね」
「遮蔽物がありませんからね」
「もしまたドームが新しくなったら、外側に物件増えますかね?」
「そうですね、更に外側に広がることになると思いますが、現時点で予定がないので数年か、数十年か先になるのでは……あくまで個人的予想になりますけど」
「ですよね」
 景色を眺めながら案内された室内へ。広くも狭くもない、地球上の物件と同じような造りのワンルーム。トイレやシャワー、キッチンもあるが、資源が限られているため地球ほど自由に水やガスなどの燃料は使えない。そして光熱費がバカ高い。
「うおー、すげぇ景色」
 カーテンのない窓から、地球が見えた。
「この地区ですと、地球で言う朝から夕方にかけてこの光景が見られます」
「へぇー」
 悩むけど、この景色が楽しめるのなら契約してもいいかもな。
「他の物件も見学できます?」
「はい、もちろん」
 ここは一旦キープして、別のところも内見させてもらうことにした。

 そのうちに地球と同様の重力を発生させる装置を作り、大気を発生させる予定があるそうで、そうなれば月の土地全体に住居を広げることができる。
 いまは人数制限されている月での出産が解除されれば、更に人口が増えるだろう。
 投資の意味も込めていまのうちに月の物件を買っておくのは将来の自分のためにもなりそうだ。
 
「よし、決めました」

 そうしてワタシは月に別荘を購入した。
 仕事はまだ地球上の会社勤めだから、長い休暇が取れた時に使うつもり。
 いずれ月に移住できたらいいけど、できなくてもこれから開発が進み需要が高まれば良い資産になるだろう。

 夢は広がるばかりだ。
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