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10/1『Trick or Treat』
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月末に向けて店内にハロウィン装飾を設置し始めた。
毎日少しずつ増やしていって、ハロウィン当日に完成! お披露目! というスケジュールだ。
最初は目立たないところから、ガーランドを吊るしたりオブジェを飾ったり。
パッと見わからない小さい飾りを徐々に、というのがここ数年の通例。
気づいてくれたお客さんが会計のときこっそり回答してくれるのも毎年の楽しみ。正解したからってなにか賞品があるわけでもないんだけど、毎日更新される間違い探しみたいで楽しいらしい。
しかしここ数日、謎の現象が起きている。
飾った覚えのない装飾品が増えているのだ。
たいがい開店準備中に気づくんだけど……予算のこともあるし、飾った人はちゃんと引き継ぎしてほしい。
今日も出勤後、開店準備のためにフロアの照明を点けて店内を一周……まただ。
店舗の正面出入口あたりに、買った覚えも置いた覚えもないオブジェ。電源コードもないのに薄っすら光ってクスクス笑ってる。なんだか楽しそうだし撤去して置いておく場所もないしで、そのまま飾っておくことにした。
大中小で積み重なるカボチャランタンは、来客のたびに『イラッシャイマセ』と言ってケタケタ笑う。声をかけると、小粋なジョークを交えて返答をしてくれる。内容が毎回違うから、録音されたものではない様子。
「あのカボチャランタンすごいわねぇ! どこに売ってるの?」
「飾った人に聞いたんですけど、内緒って言われちゃいました~」
「そうなのー。自分で調べてみるわ。ありがとね」
「はいー」
ヘラヘラの笑顔でお客さんを送り出したら
「誰よ、飾った人って」
横で聞いてた店長が小声で言ってくる。
「知らないですよ。ああ言うしかなかったんですもん」
従業者全員が知らないと言ったカボチャたち。お客さんにウケてるしいっか。とはならない。
営業時間外に設置されているなら、それは不法侵入である。セキュリティシステムが働かないのは大問題だ。
安全を確保するために、見知らぬ装飾が増えた翌日は防犯カメラの映像を確認するんだけど、人影は映らない。一瞬画面が乱れたあとに、突如として謎の装飾品が増えているのだ。
「また見てるんですか?」
事務所で映像を確認していたら、休憩中のスタッフがやってきた。
「だって怪奇現象じゃん、どうしたらいいやら」
どれどれ、と見に来たスタッフが「あぁ」と声をあげた。
「え、なに」
「いるじゃないですか、こことここ」
スタッフが指さした画面には無人の店内。
「え? なんもないよ」
そう言った矢先、画面が乱れ、スタッフが示した場所に新しい装飾品が現れた。
「ほら」
「え、なにこれ」
スタッフがふふっと笑う。
「別に悪いやつらじゃないですけど、困るならどこかにお菓子置くといいですよ」
「お菓子?」
「知りません?『お菓子をくれなきゃいたずらするぞー』って」
「トリックオアトリートでしょ? それは知ってるけど……え、これいたずらなの?」
「やつらはそう思ってるみたいですけど」
やつらって誰よ……。
「飾りが増えるのに困ってるわけじゃなく、どう返却したらいいかわからないのがさぁ」
腕を組んで言った言葉に、スタッフがまた笑う。
「ハロウィン終わったら勝手に消えますよ」
「そうなの? ならいいけど……」
最近ちょっと面白いなと感じてきてたけど、お客さんの質問に答えられないのはちょっと困るから、事務所とバックヤードの、あまり人目のつかないところに個包装のお菓子を入れたかごを置いてみた。
翌日確認したら、かごの中のお菓子はなくなっていて、装飾も増えてなかった。
驚いた店長がやってくる。
「どうやったの? 犯人捕まえた?」
「いえ、霊感があるらしいスタッフの子が、お菓子置いたらやめるんじゃないかって提案してくれて」
「そんな子いるんだ。名前は?」
「えっと……こう、色白で細身で、目の色がちょっと赤茶色い感じの中性的な……」
外見の特徴を思い出しながら伝えたら、店長が首をかしげた。
「誰それ」
「え。やめてくださいそういうの」
「いやマジで。入構証用に撮った写真データあるけど、見る?」
「み、見ます」
事務所に置かれている店舗用スマホに、従業者全員の写真が記録されていた。でもその中にこないだのスタッフの姿はなくて……防犯カメラの映像を再生したけど、私が一人で喋っている姿しか録画されていなかった。
「えぇ……?」
「お菓子欲しかったんだねぇ。週一ペースで置いておいたら? そのくらいなら俺買うよ」
「駄菓子でいいなら私も買いますが」
楽しいいたずらを仕掛けてくれたお礼にお菓子を置くようになったら、何故かわからないけどお店が繁盛しだして、ハロウィン終了と同時に謎の装飾は消えた。
来年もまた、来てくれるかなぁ。
毎日少しずつ増やしていって、ハロウィン当日に完成! お披露目! というスケジュールだ。
最初は目立たないところから、ガーランドを吊るしたりオブジェを飾ったり。
パッと見わからない小さい飾りを徐々に、というのがここ数年の通例。
気づいてくれたお客さんが会計のときこっそり回答してくれるのも毎年の楽しみ。正解したからってなにか賞品があるわけでもないんだけど、毎日更新される間違い探しみたいで楽しいらしい。
しかしここ数日、謎の現象が起きている。
飾った覚えのない装飾品が増えているのだ。
たいがい開店準備中に気づくんだけど……予算のこともあるし、飾った人はちゃんと引き継ぎしてほしい。
今日も出勤後、開店準備のためにフロアの照明を点けて店内を一周……まただ。
店舗の正面出入口あたりに、買った覚えも置いた覚えもないオブジェ。電源コードもないのに薄っすら光ってクスクス笑ってる。なんだか楽しそうだし撤去して置いておく場所もないしで、そのまま飾っておくことにした。
大中小で積み重なるカボチャランタンは、来客のたびに『イラッシャイマセ』と言ってケタケタ笑う。声をかけると、小粋なジョークを交えて返答をしてくれる。内容が毎回違うから、録音されたものではない様子。
「あのカボチャランタンすごいわねぇ! どこに売ってるの?」
「飾った人に聞いたんですけど、内緒って言われちゃいました~」
「そうなのー。自分で調べてみるわ。ありがとね」
「はいー」
ヘラヘラの笑顔でお客さんを送り出したら
「誰よ、飾った人って」
横で聞いてた店長が小声で言ってくる。
「知らないですよ。ああ言うしかなかったんですもん」
従業者全員が知らないと言ったカボチャたち。お客さんにウケてるしいっか。とはならない。
営業時間外に設置されているなら、それは不法侵入である。セキュリティシステムが働かないのは大問題だ。
安全を確保するために、見知らぬ装飾が増えた翌日は防犯カメラの映像を確認するんだけど、人影は映らない。一瞬画面が乱れたあとに、突如として謎の装飾品が増えているのだ。
「また見てるんですか?」
事務所で映像を確認していたら、休憩中のスタッフがやってきた。
「だって怪奇現象じゃん、どうしたらいいやら」
どれどれ、と見に来たスタッフが「あぁ」と声をあげた。
「え、なに」
「いるじゃないですか、こことここ」
スタッフが指さした画面には無人の店内。
「え? なんもないよ」
そう言った矢先、画面が乱れ、スタッフが示した場所に新しい装飾品が現れた。
「ほら」
「え、なにこれ」
スタッフがふふっと笑う。
「別に悪いやつらじゃないですけど、困るならどこかにお菓子置くといいですよ」
「お菓子?」
「知りません?『お菓子をくれなきゃいたずらするぞー』って」
「トリックオアトリートでしょ? それは知ってるけど……え、これいたずらなの?」
「やつらはそう思ってるみたいですけど」
やつらって誰よ……。
「飾りが増えるのに困ってるわけじゃなく、どう返却したらいいかわからないのがさぁ」
腕を組んで言った言葉に、スタッフがまた笑う。
「ハロウィン終わったら勝手に消えますよ」
「そうなの? ならいいけど……」
最近ちょっと面白いなと感じてきてたけど、お客さんの質問に答えられないのはちょっと困るから、事務所とバックヤードの、あまり人目のつかないところに個包装のお菓子を入れたかごを置いてみた。
翌日確認したら、かごの中のお菓子はなくなっていて、装飾も増えてなかった。
驚いた店長がやってくる。
「どうやったの? 犯人捕まえた?」
「いえ、霊感があるらしいスタッフの子が、お菓子置いたらやめるんじゃないかって提案してくれて」
「そんな子いるんだ。名前は?」
「えっと……こう、色白で細身で、目の色がちょっと赤茶色い感じの中性的な……」
外見の特徴を思い出しながら伝えたら、店長が首をかしげた。
「誰それ」
「え。やめてくださいそういうの」
「いやマジで。入構証用に撮った写真データあるけど、見る?」
「み、見ます」
事務所に置かれている店舗用スマホに、従業者全員の写真が記録されていた。でもその中にこないだのスタッフの姿はなくて……防犯カメラの映像を再生したけど、私が一人で喋っている姿しか録画されていなかった。
「えぇ……?」
「お菓子欲しかったんだねぇ。週一ペースで置いておいたら? そのくらいなら俺買うよ」
「駄菓子でいいなら私も買いますが」
楽しいいたずらを仕掛けてくれたお礼にお菓子を置くようになったら、何故かわからないけどお店が繁盛しだして、ハロウィン終了と同時に謎の装飾は消えた。
来年もまた、来てくれるかなぁ。
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