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9/24『これから風に乗るキミへ』
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生えたてほやほやの綿毛を揺らして、新種子がドアをくぐる。
「こんにちは~……」
「はーい、こんにちは。移住申請ですかね? こちらどうぞ」
老成した樹木が受付カウンターの中で返事をした。新種子に着席を促してから対応に入る。
「あ、はい。今度初めて飛ぶことになって、それで……」
「それはそれは、おめでとうございます」
「ありがとうございます。……初めての経験で、どうしたらいいかわからなくて」
「みなさんほとんどそうですよ、ご心配なく。そのためにここ、【緑の窓口】があるのですから」
「そうですか」
新種子は安心したように表情を緩ませた。
「どの辺りの土地からとか、どの花から生まれて飛び立つかはもうお決まりですか?」
「場所はまだ……花の種類は、タンポポかガーベラがいいなぁと思ってるんですけど、やっぱり人気ですか?」
「そうですねー、有名どころなので、ちょっとお待ちいただくことになるかもしれませんー」
受付係は端末を操作しながら受け答える。
「やっぱりそうですよねー」
「草花にこだわりがなければ、ヤナギの木なんか人気ですよ。あと、アザミの綿毛は大きく、一部の人間の方達からはケサランパサランの正体なのではないかー、なんて噂されてますね」
「あの伝説の。へぇ~、それもいいなぁ」
「一応こちらで派遣先をご覧いただけますので、ご参考にされてください」
「ありがとうございます。すみません、決めてから来ればよかったですね」
「いえいえ、みなさんそうですよ。こちらをご覧になられて進路変更する方もいらっしゃいますし、折角デビューするのでしたらねぇ? お好みの植物へ派遣されるのが一番ですから」
受付担当の樹木はニコニコと穏やかに微笑みながら、新種子の動向を見守る。
「ケサランパサランに間違われたら、人間に回収されたりしますでしょうか」
「あぁ、たまーに聞きますね。箱に入れられ、忘れられてしまったり」
「ですよねー……」
「一定期間発芽できなければ、その綿毛は役目を終えるので、またこちらに戻ってこれますけどね」
「経験値はゼロのまま、ですか?」
「ゼロではないですが、数値はそれぞれですね。通常の綿毛として飛び立ち、根を張るまでのそれより高く出るかたもいますし……その辺はみなさんの経験と個体差によるようです」
「うーん、せっかく初めて生まれるなら、根は生やしたいかなー」
「そうですねぇ。早めに何度か経験を積まれたいのなら、草花がオススメですね。我々の仲間ですと、根を張り育ったあとが長い。たまに途中で戻ってくる方もおりますが、転居を繰り返したいのでしたら草花のほうが圧倒的に展開が早いです」
「そっか、そうですよね。やっぱり今回は花にします」
「えぇえぇ、お勧めいたします。では、旅立つ地域と花の種類を選びましょうか」
「はい!」
頭にポヤポヤの白い綿毛を被り、風に乗って安住の地を探す旅に出る。
これはその第一歩。
地上に生まれるために、新種子は専用ドアから根を渡り、茎の内部へ入っていった。
そうして、期待しながら待ち続けるのだ。花が役目を終え、種子を生み出すその日まで――。
「こんにちは~……」
「はーい、こんにちは。移住申請ですかね? こちらどうぞ」
老成した樹木が受付カウンターの中で返事をした。新種子に着席を促してから対応に入る。
「あ、はい。今度初めて飛ぶことになって、それで……」
「それはそれは、おめでとうございます」
「ありがとうございます。……初めての経験で、どうしたらいいかわからなくて」
「みなさんほとんどそうですよ、ご心配なく。そのためにここ、【緑の窓口】があるのですから」
「そうですか」
新種子は安心したように表情を緩ませた。
「どの辺りの土地からとか、どの花から生まれて飛び立つかはもうお決まりですか?」
「場所はまだ……花の種類は、タンポポかガーベラがいいなぁと思ってるんですけど、やっぱり人気ですか?」
「そうですねー、有名どころなので、ちょっとお待ちいただくことになるかもしれませんー」
受付係は端末を操作しながら受け答える。
「やっぱりそうですよねー」
「草花にこだわりがなければ、ヤナギの木なんか人気ですよ。あと、アザミの綿毛は大きく、一部の人間の方達からはケサランパサランの正体なのではないかー、なんて噂されてますね」
「あの伝説の。へぇ~、それもいいなぁ」
「一応こちらで派遣先をご覧いただけますので、ご参考にされてください」
「ありがとうございます。すみません、決めてから来ればよかったですね」
「いえいえ、みなさんそうですよ。こちらをご覧になられて進路変更する方もいらっしゃいますし、折角デビューするのでしたらねぇ? お好みの植物へ派遣されるのが一番ですから」
受付担当の樹木はニコニコと穏やかに微笑みながら、新種子の動向を見守る。
「ケサランパサランに間違われたら、人間に回収されたりしますでしょうか」
「あぁ、たまーに聞きますね。箱に入れられ、忘れられてしまったり」
「ですよねー……」
「一定期間発芽できなければ、その綿毛は役目を終えるので、またこちらに戻ってこれますけどね」
「経験値はゼロのまま、ですか?」
「ゼロではないですが、数値はそれぞれですね。通常の綿毛として飛び立ち、根を張るまでのそれより高く出るかたもいますし……その辺はみなさんの経験と個体差によるようです」
「うーん、せっかく初めて生まれるなら、根は生やしたいかなー」
「そうですねぇ。早めに何度か経験を積まれたいのなら、草花がオススメですね。我々の仲間ですと、根を張り育ったあとが長い。たまに途中で戻ってくる方もおりますが、転居を繰り返したいのでしたら草花のほうが圧倒的に展開が早いです」
「そっか、そうですよね。やっぱり今回は花にします」
「えぇえぇ、お勧めいたします。では、旅立つ地域と花の種類を選びましょうか」
「はい!」
頭にポヤポヤの白い綿毛を被り、風に乗って安住の地を探す旅に出る。
これはその第一歩。
地上に生まれるために、新種子は専用ドアから根を渡り、茎の内部へ入っていった。
そうして、期待しながら待ち続けるのだ。花が役目を終え、種子を生み出すその日まで――。
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