258 / 366
9/15『狐のスカウト』
しおりを挟む
「この度は大変お世話になりました」
「うむ、良く頑張ってまっとうしたな」
「おかげさまで、なんとか」
勤めていた会社が急に倒産し、人生お先真っ暗、という状況で出会ったのが、こちらの神様が祀られた神社だった。
カルマの解消と困難を乗り越える力をつけるための人生だったようだが、なんで俺のときに、という気持ちでいっぱいだった。
俺だって金持ちの家に生まれて裕福な環境でのびのび過ごしたかったよ。前世が裕福な生活だったから今度は貧乏に挑戦、という気持ちもわかるけど、苦しい人生を生きる人格の身にもなってほしい。
寿命が尽きかけたいま、それらはもう全部過去のことになった。
「若い頃はやさぐれておったが、ずいぶん好々爺になったものだ」
「自分でもこんなに丸く落ち着くとは思っていなかったです」
ふふふ、と神様が笑う。きっとこの未来も見えていたんだろうな。
「あのとき神様にお会いしていなかったら、いまこうしていなかったと思うと……本当に感謝の気持ちでいっぱいです」
「うんうん、気づいてくれて良かったよ」
「あまり長居してもなんなので、そろそろおいとまします」
「そうか。まぁまたいつか、近いうちに再会できるのではないかな」
「そうだと嬉しいです。生まれ変わったら、とかになるんですかね?」
それとなく聞いてみたら、神様はやはり「ふふふ」と優しく笑っておられた。
やがてワタシの身体は寿命を迎え、魂が解き放たれた。しばらく現世に滞在したのち、天上界へと戻った。
生きているときには忘れていた様々な記憶が蘇る。あの苦労も、ちゃんと乗り越えることができたからいまのワタシはこんなにも輝けている。
受け入れてくれた身体に感謝し、助けてくれたあの神様にも感謝した。
天上界での生活は穏やかそのもの。金銭は必要ないから働く必要もなく、負の感情もないから苛立つことも憤ることもない。
ただ好きなことをして好きなように過ごして、好きな人たちと会う。
あー、これは覚えてたら地上の生活嫌になっちゃうわー。
魂の向上のために修行も時折行うけれど、なんのためにやっているのかが明確だから頑張ることができる。
そんな日々を続け、地上界で言う“五十回忌”を終えた頃、見覚えのある狐の眷属さんがワタシの所へやって来た。
「邪魔するぞ」
「うわ、ご無沙汰してます」
「うむ、達者でなにより」
「どうなさったんですか、こんなところまで」
「スカウトに来たのだ」
「すかうと……って、あの?」
「そうだ。お前がうちの神社に来るようになってから目をつけていたのだ。声もかけたが、そろそろ思い出せるだろう?」
「えぇ?」
天界に戻ってからの担当と守護霊との反省会でもそんな話は出てなかったのだけど……。
腕を組み、んん~? と唸って首を傾げたら急に思い出した。
神社で参拝したあと境内を散歩しているときに、確かに声をかけられていた。
『あちらに戻ってひと段落したら、修行をしに来ないか?』と。
生前のワタシは霊感などなくその声を聞くことができなかったけれど、魂はしっかり聞いていて、落ち着いたら考えさせてくださいと返答していた。
あの神社は本当に大好きでお世話になったからお手伝いできるのなら行きたい。
こちらの安寧とした日々にも少し退屈してきたし……また転生するよりはいいのだろうか。
「修行してみて、やはり違ったと感じたならここに戻ってくることも可能だ。お前の意思に任せるぞ」
眷属さんの言葉に、うぅーん、と悩んで、決めた。
「こんにちは」
「おぉおぉ、よう来たよう来た」
「ご無沙汰しておりました」
「うんうん、達者でなにより」
「はい。あの……生前ご挨拶したとき、神様は知ってらしたんですか? スカウトのこと」
「うむ。先の楽しみは取っておいたほうがいいと思ってのぅ」
「そうでしたか。ご恩をお返しできるように頑張ります」
「ほほほ、いいのだよそんなのは。頑張ればお主自身が神になれる可能性もあるからな。まずは眷属として働いてみておくれ」
「はい」
神様とお話ししている間、迎えに来てくれた眷属さんは近くに座ってニコニコしていた。
そうか、こんな進路もあるんだな。
生前通いなれた神社の境内は、現実世界で見えていたのとは違う風景だった。
いや、建物や景観は同じなのだけど、見えている“存在”が違う。
神様をはじめ、眷属さんがたくさんいて、忙しそうに働いている。
声をかけてくれた眷属さんは、この神社の眷属さんたちを束ねるリーダー的存在らしく、ワタシのことを新人研修生として教育してくれた。
参拝者の願いを叶える仕事は地上界の仕事と全然違うけど、とても楽しい。
向いているかもしれないからしばらく頑張ってみようと、久しぶりに生き生きした気持ちになった。
「うむ、良く頑張ってまっとうしたな」
「おかげさまで、なんとか」
勤めていた会社が急に倒産し、人生お先真っ暗、という状況で出会ったのが、こちらの神様が祀られた神社だった。
カルマの解消と困難を乗り越える力をつけるための人生だったようだが、なんで俺のときに、という気持ちでいっぱいだった。
俺だって金持ちの家に生まれて裕福な環境でのびのび過ごしたかったよ。前世が裕福な生活だったから今度は貧乏に挑戦、という気持ちもわかるけど、苦しい人生を生きる人格の身にもなってほしい。
寿命が尽きかけたいま、それらはもう全部過去のことになった。
「若い頃はやさぐれておったが、ずいぶん好々爺になったものだ」
「自分でもこんなに丸く落ち着くとは思っていなかったです」
ふふふ、と神様が笑う。きっとこの未来も見えていたんだろうな。
「あのとき神様にお会いしていなかったら、いまこうしていなかったと思うと……本当に感謝の気持ちでいっぱいです」
「うんうん、気づいてくれて良かったよ」
「あまり長居してもなんなので、そろそろおいとまします」
「そうか。まぁまたいつか、近いうちに再会できるのではないかな」
「そうだと嬉しいです。生まれ変わったら、とかになるんですかね?」
それとなく聞いてみたら、神様はやはり「ふふふ」と優しく笑っておられた。
やがてワタシの身体は寿命を迎え、魂が解き放たれた。しばらく現世に滞在したのち、天上界へと戻った。
生きているときには忘れていた様々な記憶が蘇る。あの苦労も、ちゃんと乗り越えることができたからいまのワタシはこんなにも輝けている。
受け入れてくれた身体に感謝し、助けてくれたあの神様にも感謝した。
天上界での生活は穏やかそのもの。金銭は必要ないから働く必要もなく、負の感情もないから苛立つことも憤ることもない。
ただ好きなことをして好きなように過ごして、好きな人たちと会う。
あー、これは覚えてたら地上の生活嫌になっちゃうわー。
魂の向上のために修行も時折行うけれど、なんのためにやっているのかが明確だから頑張ることができる。
そんな日々を続け、地上界で言う“五十回忌”を終えた頃、見覚えのある狐の眷属さんがワタシの所へやって来た。
「邪魔するぞ」
「うわ、ご無沙汰してます」
「うむ、達者でなにより」
「どうなさったんですか、こんなところまで」
「スカウトに来たのだ」
「すかうと……って、あの?」
「そうだ。お前がうちの神社に来るようになってから目をつけていたのだ。声もかけたが、そろそろ思い出せるだろう?」
「えぇ?」
天界に戻ってからの担当と守護霊との反省会でもそんな話は出てなかったのだけど……。
腕を組み、んん~? と唸って首を傾げたら急に思い出した。
神社で参拝したあと境内を散歩しているときに、確かに声をかけられていた。
『あちらに戻ってひと段落したら、修行をしに来ないか?』と。
生前のワタシは霊感などなくその声を聞くことができなかったけれど、魂はしっかり聞いていて、落ち着いたら考えさせてくださいと返答していた。
あの神社は本当に大好きでお世話になったからお手伝いできるのなら行きたい。
こちらの安寧とした日々にも少し退屈してきたし……また転生するよりはいいのだろうか。
「修行してみて、やはり違ったと感じたならここに戻ってくることも可能だ。お前の意思に任せるぞ」
眷属さんの言葉に、うぅーん、と悩んで、決めた。
「こんにちは」
「おぉおぉ、よう来たよう来た」
「ご無沙汰しておりました」
「うんうん、達者でなにより」
「はい。あの……生前ご挨拶したとき、神様は知ってらしたんですか? スカウトのこと」
「うむ。先の楽しみは取っておいたほうがいいと思ってのぅ」
「そうでしたか。ご恩をお返しできるように頑張ります」
「ほほほ、いいのだよそんなのは。頑張ればお主自身が神になれる可能性もあるからな。まずは眷属として働いてみておくれ」
「はい」
神様とお話ししている間、迎えに来てくれた眷属さんは近くに座ってニコニコしていた。
そうか、こんな進路もあるんだな。
生前通いなれた神社の境内は、現実世界で見えていたのとは違う風景だった。
いや、建物や景観は同じなのだけど、見えている“存在”が違う。
神様をはじめ、眷属さんがたくさんいて、忙しそうに働いている。
声をかけてくれた眷属さんは、この神社の眷属さんたちを束ねるリーダー的存在らしく、ワタシのことを新人研修生として教育してくれた。
参拝者の願いを叶える仕事は地上界の仕事と全然違うけど、とても楽しい。
向いているかもしれないからしばらく頑張ってみようと、久しぶりに生き生きした気持ちになった。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【5】言わぬが花とは言うけれど【完結】
ホズミロザスケ
ライト文芸
高校一年生の佐野悠太(さの ゆうた)はある日初めてできた彼女・岸野深雪(きしの みゆき)に突然「距離を置こう」と言われてしまう。
理由がわからないまま、別れるかもしれない瀬戸際に立たされているそんな時、姉の真綾(まあや)に彼氏が出来、彼を家に招きたいという話になり……。
「いずれ、キミに繋がる物語」シリーズ五作目(登場する人物が共通しています)。単品でも問題なく読んでいただけます。
※当作品は「カクヨム」「小説家になろう」にも同時掲載しております。(過去に「エブリスタ」にも掲載)
怪談 四方山
おばやしりゅうき
ホラー
『怪談 四方山』
ライターとして生計を立てている「私」は、とある「風」にまつわる話を思い出したことをきっかけに、一風変わった怪談を集めた短編集をつくることにした。
しかし、「私」が身近な人物達からそうした話を集めてゆくと、ある奇妙な共通点が浮かび上がりーー
連作(予定)の掌編小説集の一つ。
幽霊話とはほんの少し趣の異なる奇妙な物語をライターの「私」が収集し、短いお話としてまとめた、というストーリー。
実話怪談モノ、と言った所か。
全五編、全て読み終えたところで全体の共通点が浮かび上がるという内容にしようと思っている。
今のところ三編まで完成しているが、一時中断している為、忘れないように(場合によっては供養も兼ねて)投稿。
……やっぱり文量を増やすのが難しいですね。スカスカの内容に一つ一つの話はペラペラの文量なので、ちょっとしたジャンクフードみたいな感じで読んでもらえると嬉しいです……なんて。
他にも小説を投稿するのは初めてなのでよければアドバイスなどもお願いします。
粗暴で優しい幼馴染彼氏はおっとり系彼女を好きすぎる
春音優月
恋愛
おっとりふわふわ大学生の一色のどかは、中学生の時から付き合っている幼馴染彼氏の黒瀬逸希と同棲中。態度や口は荒っぽい逸希だけど、のどかへの愛は大きすぎるほど。
幸せいっぱいなはずなのに、逸希から一度も「好き」と言われてないことに気がついてしまって……?
幼馴染大学生の糖度高めなショートストーリー。
2024.03.06
イラスト:雪緒さま
桜のかえるところ
響 颯
ライト文芸
ほっこり・じんわり大賞エントリー中。桜をキーワードにしたショートショートの連作。♢一話♢……いた! 前から3両目、右側2番目のドア。――いつも見かける彼が目の前にいて慌てる主人公。電車の中での淡い恋の物語。♢二話♢「桜染めってね、花びらじゃなくて芽吹く前の枝を使うんだよ」――桜が大好きな彼女と生まれたばかりの『桜』と僕。家族三人での幸せな生活に訪れた切ない別れの物語。♢三話♢「じいさん! ちょっと来んさい!」 ばーちゃんの切れてる声で目が覚めた。――ちょっとずれてるみかん好きなじーちゃんとそれをいつも怒ってる元気なばーちゃん。八人家族を支えるばーちゃんが突然入院した。夕飯作りを任された高校生の礼の物語。♢四話♢(長くなります)桜の夢。真詞の夢。英霊たちの夢――。現在執筆中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる