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8/27『冷たく、甘い。』
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初めてのデート。
いよいよ会話も尽きてきて、さてどうしようと考えていたら、
「そこのオフタリさん、おいしいジェラートはイカガ?」
と声をかけられた。
舗装された川沿いの道端に、可愛らしい移動式店舗。英国出身と思われる背の高い男性が中から笑顔でこちらを見ている。
「食べる?」
「うん、食べたい」
「バニーラ、チョッコレイト、ストゥルベリー、ドレがいいデスかー?」
「じゃあウチ、ストロベリー」
「僕、バニラ、お願いします」
「はぁい、バニーラとストゥルベリーね」
店員さんが手際よくジェラートをカップに入れた。
「おヒトツ300円ねー」
「はい。持ってて?」
「ん」
彼女にふたつのカップを渡して手をふさぎ、600円を払った。
「アリガトウゴザイマース」
「ありがとうございます」
「ありがとーございます」
二人でそれぞれお礼を言って、移動しつつ彼女からアイスを受け取る。
「あとで払うね」
「いいよ、全然」
「えー、マジで? ありがとー。ごちそうさま」
「うん。ベンチ座る?」
「そだね」
川沿いのベンチに座る……前に、ポケットからハンカチを出して彼女が座るであろう位置に敷いた。
「いーよ、汚れちゃうし」
「洗えばいいだけだから」
「……ありがと」
彼女は少し照れ臭そうに微笑んで、そっとハンカチの上に座った。
日差しと緊張による熱がこもった身体に、冷たいジェラートが沁みる。
「おいしいね」
「うん」
目の前に川があるからか、吹いてくる風が涼しい。紅色に染まっていた彼女の頬も、だんだん冷めてきたようだ。
「来てくれてありがとう、今日」
「? うん。だって約束してたし」
「そうなんだけど……」
まさか彼女が僕の誘いに応じてくれるなんて思ってもなかったから、本当に嬉しい。
「ウチさぁ、楽しみにしてたんだよ。まさかキミから誘ってくれると思ってなかったし」
「意外だった?」
「んー。ウチら、ガッコであんま喋ったことないじゃん? グループも違うしさ」
「そうだね」
「ギャルと真面目? 正反対っつかさ」
「え? キミもお友達も真面目でしょ? じゃなきゃ制服アレンジとかできないでしょ」
「えぇ? 変わってんね、視点」
「成績いいからそういう……煌びやかなカッコでも先生に注意されないんでしょ? 周りに迷惑かけるでもなく個性を出せてるのは凄いと思う」
「ちょ、やめてよー、照れるし」
「ごめん」
「ってかキラビヤカとかウケる」
「派手とはまた違うなぁって」
「まぁね。派手過ぎて絡まれんのもウザいから、適度にね」
「やっぱあるんだ」
「あるよー。チャラい人にめっちゃ声かけられんの」
「え。ちゃんと断れてる?」
「もちもち。ウチら、誰でもいーわけじゃないからさ」
「なんか困ったら言って。助けに行く」
「えー、マジで?」
「うん」
「そういや運動できるもんね。勉強もできて真面目なのに」
「関係ないでしょ」
おかしくなって笑ったら、彼女がへにゃりと相好を崩した。あまりの可愛さに心臓が跳ねる。
「やっと笑ったー」
「え……笑えてなかった?」
「笑えてたけど、いつもと違ってた。ちょっと、緊張? みたいな」
「そりゃ、ねぇ、するよ。うん」
「えー? ウチなんかに気ぃつかうことないしー」
「つかうよ、そりゃ」
「……なんで?」
彼女が首をコテンと寝かせた。
僕の答えを予想しているような、期待しているような、そんな瞳がこちらを向いている。
「なんでって……」
視線の熱を紛らわせるために、少し溶け始めているジェラートをすくって食べた。口の中でほどけるバニラが、僕の言葉を甘くする。
「好きなコの前では、かっこいい自分でいたいから……」
彼女はまた頬を赤く染めて、溶けかけのジェラートを慌てて食べる。
僕も同じようにして、カップの中身をカラにした。
「ウチも……」
冷えたはずの頬を赤くして、彼女が口を開いた。
使い終えたカップとスプーンを、移動式店舗横のゴミ袋に入れた。
僕らの変化を察知した店員さんが、僕にウインクした。
僕は満面の笑みでお礼を言う。
「グラーツィエ!」
「Prego!」
少し離れたところで待っていた彼女の手を取り歩き出すと、彼女が小さく「あ」と言った。
「ボーノでした~!」
空いている手でジェラート屋さんに手を振ると、あちらも嬉しそうに笑みを浮かべて手を振り、僕らを見送ってくれた。
* * *
ジェラート売りが歌うように客を呼ぶ。
「みなさーん、ジェラートはいかが~? このジェラート、トクベツねー。ハズカシくてツタエられないキモチ? コトバ? このジェラートたべればスナオにいえるよ~。オイシイよ~」
道行く人たちはその歌を聞き、笑顔をこぼして集い始めた。
Tutti felici e contenti.
いよいよ会話も尽きてきて、さてどうしようと考えていたら、
「そこのオフタリさん、おいしいジェラートはイカガ?」
と声をかけられた。
舗装された川沿いの道端に、可愛らしい移動式店舗。英国出身と思われる背の高い男性が中から笑顔でこちらを見ている。
「食べる?」
「うん、食べたい」
「バニーラ、チョッコレイト、ストゥルベリー、ドレがいいデスかー?」
「じゃあウチ、ストロベリー」
「僕、バニラ、お願いします」
「はぁい、バニーラとストゥルベリーね」
店員さんが手際よくジェラートをカップに入れた。
「おヒトツ300円ねー」
「はい。持ってて?」
「ん」
彼女にふたつのカップを渡して手をふさぎ、600円を払った。
「アリガトウゴザイマース」
「ありがとうございます」
「ありがとーございます」
二人でそれぞれお礼を言って、移動しつつ彼女からアイスを受け取る。
「あとで払うね」
「いいよ、全然」
「えー、マジで? ありがとー。ごちそうさま」
「うん。ベンチ座る?」
「そだね」
川沿いのベンチに座る……前に、ポケットからハンカチを出して彼女が座るであろう位置に敷いた。
「いーよ、汚れちゃうし」
「洗えばいいだけだから」
「……ありがと」
彼女は少し照れ臭そうに微笑んで、そっとハンカチの上に座った。
日差しと緊張による熱がこもった身体に、冷たいジェラートが沁みる。
「おいしいね」
「うん」
目の前に川があるからか、吹いてくる風が涼しい。紅色に染まっていた彼女の頬も、だんだん冷めてきたようだ。
「来てくれてありがとう、今日」
「? うん。だって約束してたし」
「そうなんだけど……」
まさか彼女が僕の誘いに応じてくれるなんて思ってもなかったから、本当に嬉しい。
「ウチさぁ、楽しみにしてたんだよ。まさかキミから誘ってくれると思ってなかったし」
「意外だった?」
「んー。ウチら、ガッコであんま喋ったことないじゃん? グループも違うしさ」
「そうだね」
「ギャルと真面目? 正反対っつかさ」
「え? キミもお友達も真面目でしょ? じゃなきゃ制服アレンジとかできないでしょ」
「えぇ? 変わってんね、視点」
「成績いいからそういう……煌びやかなカッコでも先生に注意されないんでしょ? 周りに迷惑かけるでもなく個性を出せてるのは凄いと思う」
「ちょ、やめてよー、照れるし」
「ごめん」
「ってかキラビヤカとかウケる」
「派手とはまた違うなぁって」
「まぁね。派手過ぎて絡まれんのもウザいから、適度にね」
「やっぱあるんだ」
「あるよー。チャラい人にめっちゃ声かけられんの」
「え。ちゃんと断れてる?」
「もちもち。ウチら、誰でもいーわけじゃないからさ」
「なんか困ったら言って。助けに行く」
「えー、マジで?」
「うん」
「そういや運動できるもんね。勉強もできて真面目なのに」
「関係ないでしょ」
おかしくなって笑ったら、彼女がへにゃりと相好を崩した。あまりの可愛さに心臓が跳ねる。
「やっと笑ったー」
「え……笑えてなかった?」
「笑えてたけど、いつもと違ってた。ちょっと、緊張? みたいな」
「そりゃ、ねぇ、するよ。うん」
「えー? ウチなんかに気ぃつかうことないしー」
「つかうよ、そりゃ」
「……なんで?」
彼女が首をコテンと寝かせた。
僕の答えを予想しているような、期待しているような、そんな瞳がこちらを向いている。
「なんでって……」
視線の熱を紛らわせるために、少し溶け始めているジェラートをすくって食べた。口の中でほどけるバニラが、僕の言葉を甘くする。
「好きなコの前では、かっこいい自分でいたいから……」
彼女はまた頬を赤く染めて、溶けかけのジェラートを慌てて食べる。
僕も同じようにして、カップの中身をカラにした。
「ウチも……」
冷えたはずの頬を赤くして、彼女が口を開いた。
使い終えたカップとスプーンを、移動式店舗横のゴミ袋に入れた。
僕らの変化を察知した店員さんが、僕にウインクした。
僕は満面の笑みでお礼を言う。
「グラーツィエ!」
「Prego!」
少し離れたところで待っていた彼女の手を取り歩き出すと、彼女が小さく「あ」と言った。
「ボーノでした~!」
空いている手でジェラート屋さんに手を振ると、あちらも嬉しそうに笑みを浮かべて手を振り、僕らを見送ってくれた。
* * *
ジェラート売りが歌うように客を呼ぶ。
「みなさーん、ジェラートはいかが~? このジェラート、トクベツねー。ハズカシくてツタエられないキモチ? コトバ? このジェラートたべればスナオにいえるよ~。オイシイよ~」
道行く人たちはその歌を聞き、笑顔をこぼして集い始めた。
Tutti felici e contenti.
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