227 / 366
8/15『お土産を持って』
しおりを挟む
カードキーを挿して受付すると、専用スペースに小さな包みとモニターが現れた。画面中央でプツンと光の粒が弾けて左右上下に広がり、画面が点灯する。
『あら、いらっしゃい』
「久しぶり」
『元気してた?』
「うん、まぁまぁ」
『おとーさーん。……カズキ。カズキ来てくれた』
母さんが斜め後方に向かって呼びかけると、画面端から父さんが姿を現した。
『よぉ』
「どうも。久しぶり」
『なんだ、もうそんな時期か』
「うん、お盆だよ」
『そうか、早いなぁ』
『こっちだと時間の感覚が鈍くなってねぇ』
そう笑う母さんは、俺が最期に会ったときよりだいぶと若い。父さんも母さんに合わせて見た目年齢を調整しているようだ。
『今日はどうした』
「いや、だから、お墓参り……」
『あぁ、そうか』
『いやぁだお父さんったら、ボケちゃったの?』
父と母は笑い合う。
両親の後ろに映っているのは、実家の居間だ。
「懐かしい」
『そっちで正式に“処分”してくれたから、おんなじ状態でこっちに届いたのよ、ありがとね』
『大変だっただろ』
「結局業者さんにほとんど任せちゃったから、俺は立ち会っただけだよ」
『それでも助かったわぁ。急なことで悪かったわね』
「そっちが謝ることじゃないでしょ」
『そうだぞ。僕らだって被害者なわけだから』
『まぁねぇ』
いま目の前のモニターに映っている両親は三年前、事故に巻き込まれて他界した。
あまりに突然で驚いたけれど、落ち込む間もなく様々な手続きを済ませ、両親を天に送った。
しばらくして、一通の封筒が届いた。それは天界からの送付物。中には天に帰った故人と通話するためのカードキーが入っていた。
故人のお墓 (うちは永代供養の集合住居型納骨堂)まで出向いてアクセスすれば、天界にいる故人とビデオ通話ができるのだ。
「これお供え。お裾分けするなら“処分”するけど」
『どうしようかしら。カズキがいいなら』
「いいよ。俺は帰りに同じの買えるし」
『そう? じゃあありがたく、ご近所さんといただこうかな』
『毎回悪いな』
「いいよ。好きだったでしょ、これ」
老舗の和菓子屋で買った、きな粉、こしあん、つぶあんのおはぎ各一個ずつ。封を開けてテーブルに置いたら、すぐに両親の元に届いた。
「あとペットボトルのだけど、お茶。まだあったかいよ」
こちらも開栓しておはぎの横に置く。
『夏なのにホットの売ってるのねぇ』
「コンビニとか自販機でね。需要あるみたいだよ」
『へぇ、時代は変わるもんだなぁ』
「まだ三年しか経ってないよ」
『そうだけどさ』
『そうだ! サァちゃん元気?』
「うん、元気だよ。連れてこようかと思ったんだけど」
サァちゃんことサァヤは実家で飼ってたトイプードルだ。面倒を見ていた両親が他界したから、独り立ちしていた俺が引き取ることにした。
『今日そっち暑そうじゃない、だいじょぶよ』
『もう慣れたか?』
「うん、だいぶ。散歩いったりメシ食ったり……あとで映像送るわ」
『あらー、ありがとう。楽しみにしてる』
『じゃあいまは家にサァヤひとりか』
「いや? 彼女が来てくれたから」
『『えぇっ⁈』』
俺の言葉に両親が身を乗り出した。
『あんたそんなの一言も言わなかったじゃない!』
『どんなお嬢さんだ? 結婚は? 犬は大丈夫な人か?』
「近い近い……レンズ曇ってるよ」
『お、おぉ』
『あらやだ』
「まだちょっと、あちらのご両親に挨拶してから、こっち来てもらうから」
『そうか。もしかしたら断られるかもしれないしな』
『やだお父さん、縁起悪い』
『ジョークだよジョーク。天界ジョーク』
すべての意味で笑えない。
「連れてくるときはさすがに前もって連絡するから」
『うん、お願いね』
『なんのお構いもできないけどな』
「うん。そういうわけで、一応その報告も兼ねてお参りに来たって感じ」
『うんうん、ありがとうな』
『色々心配してたけど、それなら安心ね』
「あとで法要のお経あげてもらうけど、俺帰るね」
『うん、また気が向いたらおいで』
『彼女さんにくれぐれもよろしくね』
「うん。じゃあ、また」
手を振って、カードキーを抜いた。
画像が消えて細い線になり画面中央に集まって消え、包みとモニターが格納される。
お供え物に蓋をしてビニール袋に入れ、受付のチャイムを鳴らした。
『はーい』
「すみません、お供え物の“処分”をお願いしたいのですが」
『はいはい。責任もって海にお渡ししますね』
「お願いします」
建物や物品は燃やす、食料は海に流すと天界に届くシステムになっていて、それを現世では【処分】と呼ぶ。
実家が燃えるさまは見ていて胸に来るものがあったけど、必要だったし仕方ない。
家に帰って彼女とサァヤに報告しよう。両親はあちらの世界で、【元気】だったよと。
『あら、いらっしゃい』
「久しぶり」
『元気してた?』
「うん、まぁまぁ」
『おとーさーん。……カズキ。カズキ来てくれた』
母さんが斜め後方に向かって呼びかけると、画面端から父さんが姿を現した。
『よぉ』
「どうも。久しぶり」
『なんだ、もうそんな時期か』
「うん、お盆だよ」
『そうか、早いなぁ』
『こっちだと時間の感覚が鈍くなってねぇ』
そう笑う母さんは、俺が最期に会ったときよりだいぶと若い。父さんも母さんに合わせて見た目年齢を調整しているようだ。
『今日はどうした』
「いや、だから、お墓参り……」
『あぁ、そうか』
『いやぁだお父さんったら、ボケちゃったの?』
父と母は笑い合う。
両親の後ろに映っているのは、実家の居間だ。
「懐かしい」
『そっちで正式に“処分”してくれたから、おんなじ状態でこっちに届いたのよ、ありがとね』
『大変だっただろ』
「結局業者さんにほとんど任せちゃったから、俺は立ち会っただけだよ」
『それでも助かったわぁ。急なことで悪かったわね』
「そっちが謝ることじゃないでしょ」
『そうだぞ。僕らだって被害者なわけだから』
『まぁねぇ』
いま目の前のモニターに映っている両親は三年前、事故に巻き込まれて他界した。
あまりに突然で驚いたけれど、落ち込む間もなく様々な手続きを済ませ、両親を天に送った。
しばらくして、一通の封筒が届いた。それは天界からの送付物。中には天に帰った故人と通話するためのカードキーが入っていた。
故人のお墓 (うちは永代供養の集合住居型納骨堂)まで出向いてアクセスすれば、天界にいる故人とビデオ通話ができるのだ。
「これお供え。お裾分けするなら“処分”するけど」
『どうしようかしら。カズキがいいなら』
「いいよ。俺は帰りに同じの買えるし」
『そう? じゃあありがたく、ご近所さんといただこうかな』
『毎回悪いな』
「いいよ。好きだったでしょ、これ」
老舗の和菓子屋で買った、きな粉、こしあん、つぶあんのおはぎ各一個ずつ。封を開けてテーブルに置いたら、すぐに両親の元に届いた。
「あとペットボトルのだけど、お茶。まだあったかいよ」
こちらも開栓しておはぎの横に置く。
『夏なのにホットの売ってるのねぇ』
「コンビニとか自販機でね。需要あるみたいだよ」
『へぇ、時代は変わるもんだなぁ』
「まだ三年しか経ってないよ」
『そうだけどさ』
『そうだ! サァちゃん元気?』
「うん、元気だよ。連れてこようかと思ったんだけど」
サァちゃんことサァヤは実家で飼ってたトイプードルだ。面倒を見ていた両親が他界したから、独り立ちしていた俺が引き取ることにした。
『今日そっち暑そうじゃない、だいじょぶよ』
『もう慣れたか?』
「うん、だいぶ。散歩いったりメシ食ったり……あとで映像送るわ」
『あらー、ありがとう。楽しみにしてる』
『じゃあいまは家にサァヤひとりか』
「いや? 彼女が来てくれたから」
『『えぇっ⁈』』
俺の言葉に両親が身を乗り出した。
『あんたそんなの一言も言わなかったじゃない!』
『どんなお嬢さんだ? 結婚は? 犬は大丈夫な人か?』
「近い近い……レンズ曇ってるよ」
『お、おぉ』
『あらやだ』
「まだちょっと、あちらのご両親に挨拶してから、こっち来てもらうから」
『そうか。もしかしたら断られるかもしれないしな』
『やだお父さん、縁起悪い』
『ジョークだよジョーク。天界ジョーク』
すべての意味で笑えない。
「連れてくるときはさすがに前もって連絡するから」
『うん、お願いね』
『なんのお構いもできないけどな』
「うん。そういうわけで、一応その報告も兼ねてお参りに来たって感じ」
『うんうん、ありがとうな』
『色々心配してたけど、それなら安心ね』
「あとで法要のお経あげてもらうけど、俺帰るね」
『うん、また気が向いたらおいで』
『彼女さんにくれぐれもよろしくね』
「うん。じゃあ、また」
手を振って、カードキーを抜いた。
画像が消えて細い線になり画面中央に集まって消え、包みとモニターが格納される。
お供え物に蓋をしてビニール袋に入れ、受付のチャイムを鳴らした。
『はーい』
「すみません、お供え物の“処分”をお願いしたいのですが」
『はいはい。責任もって海にお渡ししますね』
「お願いします」
建物や物品は燃やす、食料は海に流すと天界に届くシステムになっていて、それを現世では【処分】と呼ぶ。
実家が燃えるさまは見ていて胸に来るものがあったけど、必要だったし仕方ない。
家に帰って彼女とサァヤに報告しよう。両親はあちらの世界で、【元気】だったよと。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
新人種の娘
如月あこ
ライト文芸
――「どうして皆、上手に生きてるんだろう」
卑屈な性分の小毬は、ある日、怪我を負った「新人種」の青年を匿うことになる。
新人種は、人に害を成す敵。
匿うことは、犯罪となる。
逃亡、新たな生活、出会い、真実、そして決断。
彼女は何を求め、何を決断するのか。
正義とは、一体何か。
悪とは、一体何か。
小毬という少女が、多くを経験し、成長していく物語。
※この物語は、当然ながらフィクションです。
【新作】読切超短編集 1分で読める!!!
Grisly
現代文学
⭐︎登録お願いします。
1分で読める!読切超短編小説
新作短編小説は全てこちらに投稿。
⭐︎登録忘れずに!コメントお待ちしております。
藤堂正道と伊藤ほのかのおしゃべり
Keitetsu003
ライト文芸
このお話は「風紀委員 藤堂正道 -最愛の選択-」の番外編です。
藤堂正道と伊藤ほのか、その他風紀委員のちょっと役に立つかもしれないトレビア、雑談が展開されます。(ときには恋愛もあり)
*小説内に書かれている内容は作者の個人的意見です。諸説あるもの、勘違いしているものがあっても、ご容赦ください。
隣の古道具屋さん
雪那 由多
ライト文芸
祖父から受け継いだ喫茶店・渡り鳥の隣には佐倉古道具店がある。
幼馴染の香月は日々古道具の修復に励み、俺、渡瀬朔夜は従妹であり、この喫茶店のオーナーでもある七緒と一緒に古くからの常連しか立ち寄らない喫茶店を切り盛りしている。
そんな隣の古道具店では時々不思議な古道具が舞い込んでくる。
修行の身の香月と共にそんな不思議を目の当たりにしながらも一つ一つ壊れた古道具を修復するように不思議と向き合う少し不思議な日常の出来事。
REMAKE~わたしはマンガの神様~
櫃間 武士
ライト文芸
昭和29年(1954年)4月24日土曜の昼下がり。
神戸の異人館通りに住む高校生、手塚雅人の前に金髪の美少女が現れた。
と、その美少女はいきなり泣きながら雅人に抱きついてきた。
「おじいちゃん、会いたかったよ!助けてぇ!!」
彼女は平成29年(2017年)から突然タイムスリップしてきた未来の孫娘、ハルミだったのだ。
こうして雅人はハルミを救うため、60年に渡ってマンガとアニメの業界で生きてゆくことになる。
すべてはハルミを”漫画の神様”にするために!
可不可 §ボーダーライン・シンドローム§ サイコサスペンス
竹比古
ライト文芸
先生、ぼくたちは幸福だったのに、異常だったのですか?
周りの身勝手な人たちは、不幸そうなのに正常だったのですか?
世の人々から、可ではなく、不可というレッテルを貼られ、まるで鴉(カフカ)を見るように厭な顔をされる精神病患者たち。
USA帰りの青年精神科医と、その秘書が、総合病院の一角たる精神科病棟で、或いは行く先々で、ボーダーラインの向こう側にいる人々と出会う。
可ではなく、不可をつけられた人たちとどう向き合い、接するのか。
何か事情がありそうな少年秘書と、青年精神科医の一話読みきりシリーズ。
大雑把な春名と、小舅のような仁の前に現れる、今日の患者は……。
※以前、他サイトで掲載していたものです。
※一部、性描写(必要描写です)があります。苦手な方はお気を付けください。
※表紙画:フリーイラストの加工です。
婚活のサラリーマン
NAOTA
ライト文芸
気がつけば36才になっていた私は、婚活を始めた。
アラフォーサラリーマンが、なかなかうまくいかない婚活に奔走する、少しだけハードボイルドなストーリー。
(この小説はカクヨム様、ノベルデイズ様にも投稿させていただいています。)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる