日々の欠片

小海音かなた

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8/15『お土産を持って』

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 カードキーを挿して受付すると、専用スペースに小さな包みとモニターが現れた。画面中央でプツンと光の粒が弾けて左右上下に広がり、画面が点灯する。
『あら、いらっしゃい』
「久しぶり」
『元気してた?』
「うん、まぁまぁ」
『おとーさーん。……カズキ。カズキ来てくれた』
 母さんが斜め後方に向かって呼びかけると、画面端から父さんが姿を現した。
『よぉ』
「どうも。久しぶり」
『なんだ、もうそんな時期か』
「うん、お盆だよ」
『そうか、早いなぁ』
『こっちだと時間の感覚が鈍くなってねぇ』
 そう笑う母さんは、俺が最期に会ったときよりだいぶと若い。父さんも母さんに合わせて見た目年齢を調整しているようだ。
『今日はどうした』
「いや、だから、お墓参り……」
『あぁ、そうか』
『いやぁだお父さんったら、ボケちゃったの?』
 父と母は笑い合う。
 両親の後ろに映っているのは、実家の居間だ。
「懐かしい」
『そっちで正式に“処分”してくれたから、おんなじ状態でこっちに届いたのよ、ありがとね』
『大変だっただろ』
「結局業者さんにほとんど任せちゃったから、俺は立ち会っただけだよ」
『それでも助かったわぁ。急なことで悪かったわね』
「そっちが謝ることじゃないでしょ」
『そうだぞ。僕らだって被害者なわけだから』
『まぁねぇ』
 いま目の前のモニターに映っている両親は三年前、事故に巻き込まれて他界した。
 あまりに突然で驚いたけれど、落ち込む間もなく様々な手続きを済ませ、両親を天に送った。
 しばらくして、一通の封筒が届いた。それは天界からの送付物。中には天に帰った故人と通話するためのカードキーが入っていた。
 故人のお墓 (うちは永代供養の集合住居型納骨堂)まで出向いてアクセスすれば、天界にいる故人とビデオ通話ができるのだ。
「これお供え。お裾分けするなら“処分”するけど」
『どうしようかしら。カズキがいいなら』
「いいよ。俺は帰りに同じの買えるし」
『そう? じゃあありがたく、ご近所さんといただこうかな』
『毎回悪いな』
「いいよ。好きだったでしょ、これ」
 老舗の和菓子屋で買った、きな粉、こしあん、つぶあんのおはぎ各一個ずつ。封を開けてテーブルに置いたら、すぐに両親の元に届いた。
「あとペットボトルのだけど、お茶。まだあったかいよ」
 こちらも開栓しておはぎの横に置く。
『夏なのにホットの売ってるのねぇ』
「コンビニとか自販機でね。需要あるみたいだよ」
『へぇ、時代は変わるもんだなぁ』
「まだ三年しか経ってないよ」
『そうだけどさ』
『そうだ! サァちゃん元気?』
「うん、元気だよ。連れてこようかと思ったんだけど」
 サァちゃんことサァヤは実家で飼ってたトイプードルだ。面倒を見ていた両親が他界したから、独り立ちしていた俺が引き取ることにした。
『今日そっち暑そうじゃない、だいじょぶよ』
『もう慣れたか?』
「うん、だいぶ。散歩いったりメシ食ったり……あとで映像送るわ」
『あらー、ありがとう。楽しみにしてる』
『じゃあいまは家にサァヤひとりか』
「いや? 彼女が来てくれたから」
『『えぇっ⁈』』
 俺の言葉に両親が身を乗り出した。
『あんたそんなの一言も言わなかったじゃない!』
『どんなお嬢さんだ? 結婚は? 犬は大丈夫な人か?』
「近い近い……レンズ曇ってるよ」
『お、おぉ』
『あらやだ』
「まだちょっと、あちらのご両親に挨拶してから、こっち来てもらうから」
『そうか。もしかしたら断られるかもしれないしな』
『やだお父さん、縁起悪い』
『ジョークだよジョーク。天界ジョーク』
 すべての意味で笑えない。
「連れてくるときはさすがに前もって連絡するから」
『うん、お願いね』
『なんのお構いもできないけどな』
「うん。そういうわけで、一応その報告も兼ねてお参りに来たって感じ」
『うんうん、ありがとうな』
『色々心配してたけど、それなら安心ね』
「あとで法要のお経あげてもらうけど、俺帰るね」
『うん、また気が向いたらおいで』
『彼女さんにくれぐれもよろしくね』
「うん。じゃあ、また」
 手を振って、カードキーを抜いた。
 画像が消えて細い線になり画面中央に集まって消え、包みとモニターが格納される。
 お供え物に蓋をしてビニール袋に入れ、受付のチャイムを鳴らした。
『はーい』
「すみません、お供え物の“処分”をお願いしたいのですが」
『はいはい。責任もって海にお渡ししますね』
「お願いします」
 建物や物品は燃やす、食料は海に流すと天界に届くシステムになっていて、それを現世では【処分】と呼ぶ。
 実家が燃えるさまは見ていて胸に来るものがあったけど、必要だったし仕方ない。

 家に帰って彼女とサァヤに報告しよう。両親はあちらの世界で、【元気】だったよと。
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