日々の欠片

小海音かなた

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8/13『不便を便利に』

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 昔は、左利きを右利きに矯正させられる人が多かったらしい。
 無理に右利きにしようとすると、いろいろ障害があるっぽいってわかってやめるようになったんだとか。
 でもやっぱり日本ではマイノリティな存在で、左利きだと不便なものやことがたくさんある。
 きっと全部右利きの人が作ってるんだろうな、って思いながら、今日も身体をねじらせて改札を通る。さすがに左右に設置できないんだろうし、多数派のほうを取るのもわかる。でもやっぱり、不便なものは不便だし、不満は溜まるのだ。

 左利きは天才肌な人が多いとか、そんなのは幻想だ。
 利き手が右だろうと左だろうと、勉強しなければ頭が良くなるはずもない。わかってるよ、わかってるけど“左利き神話”にあやかりたいじゃないか。
 などとブツブツ考えながら歩いていたら、通り沿いに【左利き専門店】という看板が見えた。
 入ってみたら、そこには普段微妙に不便だと感じる道具がいくつも陳列されていた。
 天井から吊るされたコーナー案内板は【キッチン】【文房具】【暮らし】のみっつ。
 暮らしってなんだ? と移動して見たら、メジャーや扇子、財布などのいわゆる【日用品】だった。
 ちょっと我慢すればいいだけなんだけど、それでもやっぱり不便だよな、と感じる道具がたくさん並んでる。その全部が【左利きの人が使いやすいもの】。なんだここ、天国か。一人暮らし始める時に出会いたかった。
 使うのにちょっと不便だけど100円 (税別)だしまぁいいか、と妥協して買ったキッチンツールは、しょっちゅう使ってるとやっぱり不満がたまっていく。
 しかし全部この店のものに買い替えるには、ちょっと予算オーバーだなぁ……。
 とりあえず、一番わずらわしく思っていたハサミを買うことにした。キッチン用と普段使い用の二本。
 家に帰っていそいそ開けて、試し切りしてみる。
 なんということでしょう! めっちゃめちゃ切りやすい。いままで使ってた右利き用のとは力の入れ方とかが違うから慣れるまでにちょっとかかりそうだけど、それでもいままで使ってた右利き用のとは全然違う。うおー、感動。
 雰囲気も接客も良かったし、またあのお店行こう。

 そうして、ちょこちょこ買い揃えていった【左利き用道具】は、日々のちょっとした不便や不満を解消してくれた。
 結局、改札機や自販機は右利きの人が使いやすいままだけど、日常のささやかなQOLが向上しただけでも儲けものだ。
 家にあって不便と感じたものはメモを取り、使用頻度の高いものから買い替えることにした。使わなくなった右利き用の道具は右利きしかいない実家に送ろう。
 とメモするために、使わずにしまってた貰い物のメモ帳とペンを取る。
 表紙を開いて思った。
 まずはメモ帳を買おう……。
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