日々の欠片

小海音かなた

文字の大きさ
上 下
198 / 366

7/17『うまれる』

しおりを挟む
 東京には夢があるとか東京の人は冷たいとか、そういうの言うのってみんな東京出身以外の人だと思う。
 というその意見自体が【冷たい】らしくて、やっぱ東京って、と言われた。
 考えている本人が冷たくないと感じているからか、その言動のどこに冷たさがあるのかいまいち理解できないのだけど、突き放しているように聞こえるのだろうな、という感想。
 生まれ育った地元がたまたま東京だったってだけで、夢を掴むのに努力しないとならないのはどこ出身の人でも同じだ。ただ、東京はそのチャンスが訪れる機会が多いってだけ。
 活動拠点にするなら企業の多いこの土地がいいんだろうけど、ネットが普及したいまはあまり意味がないように感じる。
 東京にいて頑張ってたって、夢が必ず掴めるわけではないのにな。

 自転車で自宅近くを走っていると、大きな電波塔が見える。旧国名の語呂合わせと同じ背の高さのタワーは、いつ見ても背筋を伸ばして立っている。
 タワーを横目に進んでいく途中で大きな朝日が見えた。まだ眩しくない、柔らかい光を放つ太陽は、視界中の風景の半分を占めるほどに大きい。
「おぉ……」
 思わず感嘆する。
(来年の初日の出はここで拝もう)
 気の早い予定を立てて自転車を走らせ、朝日を背にひた走る。向かっているのは勤め先。
 本当は……。
 思考と関係なく言葉が脳内を走る。
 本当はずっと、家にいて小説書いてたい。通いの仕事なんかしないでいいような、ただ自分で創った世界の中を探索しているような、そんな生活がしたい。
 だけど私の小説はそこまでのレベルに達していない。
 コンテストに応募しても一次審査も通らない。ただ物語を書いて自己満足してるだけの状況。書きたいものを書けているだけで幸せなのかもしれない。それでも……。

 東京に生まれたからって、東京に住んでるからって、目標に向かって頑張ってるからって……。
 東京以外に帰る場所のない私は、東京の街でひとり、ため息をつく。

 今日もまた、誰かに見つけてもらいたいと願い、文字を紡ぎながら。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

藤堂正道と伊藤ほのかのおしゃべり

Keitetsu003
ライト文芸
 このお話は「風紀委員 藤堂正道 -最愛の選択-」の番外編です。  藤堂正道と伊藤ほのか、その他風紀委員のちょっと役に立つかもしれないトレビア、雑談が展開されます。(ときには恋愛もあり)  *小説内に書かれている内容は作者の個人的意見です。諸説あるもの、勘違いしているものがあっても、ご容赦ください。

旧・透明少女(『文芸部』シリーズ)

Aoi
ライト文芸
 自殺した姉マシロの遺書を頼りに、ヒマリは文芸部を訪れる。自殺前に姉が書いたとされる小説『屋上の恋を乗り越えて』には、次のような言葉があった。 「どうか貴方の方から屋上に来てくれませんか? 私の気持ちはそこにあります」  3人が屋上を訪れると、そこには彼女が死ぬ前に残した、ある意外な人物へのメッセージがあった……  恋と友情に少しばかりの推理を添えた青春現代ノベル『文芸部』シリーズ第一弾!

ただ、笑顔が見たくて。

越子
ライト文芸
時は明治。秋田県阿仁集落に辰巳というマタギの青年がいた。 彼には子供の頃から一緒に過ごしたハナという女性がいたが、ハナは四年前に身売りされてしまう。 いつまでもハナを忘れる事ができず憂鬱気味な辰巳に、マタギ仲間の平次は苛立ちを覚えていたが、とある依頼で熊撃ちをしたところに転機が訪れた。 ハナは盛岡の女郎屋にいるとのことだった。 ハナに会いたい一心で、辰巳は平次と共に盛岡へ向かう。 彼らの行動は全て「もう一度、笑顔が見たい」――ただ、それだけだった。

二階建て空中楼閣のF

鳥丸唯史(とりまるただし)
ライト文芸
扇ヶ谷家のモットー『日々精進』から逃げるようにして始まった大学生活。 住む部屋を探しに行きついたのは謎の不動産屋トウキョウスカイホーム。 おすすめ物件は空を飛んでいる家。 宇宙喫茶で働く宇宙人と、ギタリストの自称天使とシェアハウスだ。 大学では魔術愛好会の会長に恋をされ、空からは鳥人間が落ちてくる。 諦めたはずのベーシストの夢と共に翻弄されながら、俺は非日常生活を強いられ続けるしかないのか? ※約22万文字です。 ※小説家になろうに改稿前のがあります。 ※たまにコピペがミスったりやらかしてます。気がつき次第修正してます(感想受け付けていないせいで気づくのが遅い)

何でも屋 シーズン2

ポテトバサー
ライト文芸
あの「何でも屋」の四人が帰ってきた! といってもシーズン1から続いている長編コメディー! 相変わらずの四人に、相変わらず、いや、パワーアップした依頼人たちが続々とやって来る! 老若男女問わず、本を読む人でも、そうでない人でも楽しめるアッサリコメディー! この機会にお試しあれ! ※シーズン1から読んだほうが楽しめます。無理すればシーズン2からでも大丈夫です(笑)。

ラジオの向こう

諏訪野 滋
ライト文芸
――私は会長だけの書記。彼女が私を欲しいと言ってくれたから―― 地方の私立高校に通う八尋環季は成績優秀だが友人皆無、部屋でラジオを聴くことだけが唯一の趣味という帰宅部女子だった。 そんな彼女は終業式の日、人気実力ともに抜群の生徒会長・白倉莉子に、新生徒会の書記になって欲しいと頼まれる。 白倉の熱意にほだされた環季は、彼女の真意もわからぬままに書記となることを承諾し、副会長に指名された後輩の金澤司とともに三人で生徒会活動を開始した。 様々な活動を通して白倉との友情を、そして金澤への恋心を育んでいく環季にも、やがて卒業の時が近づいてくる…… すれ違う心、戻らない時間。流れるラジオに乗せて互いの恋心を綴る学園恋愛小説。 あの時、手に入れることが出来なかったあなたへ―― 序章 :イントロダクション 第一章:インビテーション 第二章:オリエンテーション 第三章:パーティシペーション 第四章:ディスコミュニケーション 第五章:アイソレーション 第六章:フラストレーション 第七章:セパレーション 第八章:サマーバケーション 第九章:コンフェッション 終章 :グラデュエーション 全45話。 2024.5/26完結しました、ありがとうございました! 表紙提供:虹乃ノラン様

奇快雑集

衣谷 孝三
現代文学
これは、筆者が執筆練習のために思い付いた物語をポンポンと書き連ねた、節操のないショートショート作品集である。 恐らく黒歴史となることは間違い無いだろうが、書きたいのだから致し方ない。 無駄にしていい時間のある者は、是非ともこのアイデアの雑木林に足を踏み入れていただきたい。

【新作】読切超短編集 1分で読める!!!

Grisly
現代文学
⭐︎登録お願いします。 1分で読める!読切超短編小説 新作短編小説は全てこちらに投稿。 ⭐︎登録忘れずに!コメントお待ちしております。

処理中です...