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7/7『とくさつ!』
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壊されるのわかってるけどこだわって作る私と、壊すのわかってるから念入りにリハする彼。
需要と供給? っていうのかな。利害は一致してる。
私も彼も、画面に映ったときの見栄えを常に気にかける。
少しでもリアルに、少しでも細かく。
その信念を私はジオラマに、彼は動きに注ぎ続けていた。
私は特撮美術の世界で、彼はスーツアクターの世界で、それぞれ上を目指している。
彼と出会ったのは小学生のとき。たまたま近所に住んでいて、たまたま同じクラスで、たまたま名字の頭文字が五十音内で近かったから、隣の席になることが多かった。
男女の関係とか気にせず気の合う仲間同士で遊ぶような年齢だったから、彼とも良く連れ立って遊んでいた。
お互いの家に行ってお互いの家族にも可愛がられて、親同士は「いつかふたりで結婚しちゃうのかしら」とか話してた気がする。んなわきゃないっつの。
あるとき、彼のお兄さんに見せてもらった特撮ヒーロー映画が、私たちの心にぶっ刺さった。
でも見ていたところが全く違った。
彼は街中でヒーロー相手に暴れる怪獣に、私はその怪獣に壊されるのが腹立つくらい精巧な街並みに、とてつもなく興味を惹かれた。
そのころはそういうものを作る仕事があるなんて知りもしなくて、ただただどうなってるんだろうって考えながら、テレビにかじりついて凝視していた。
少しずつ成長して体つきも変わって、男女で仲良くしていると冷やかされるお年頃になって、彼とも疎遠になった。子供の頃の友達なんて、案外そんなもんだ。
目指す将来が違っていたから高校も別々になって、卒業直後に彼の父親が転勤することになって家も離れた。
お互い連絡先は知っていたけど連絡を取りあうほど仲良くもなくて、お互いの状況を知る術もなくなった。
そうして私は【壊される建物を作るため】の勉強をしに専門学校へ進む。道のりは簡単ではなかったけど、なんとかいまの会社に就職できて、念願だった“特撮美術スタッフ”として働いている。
彼と再会したのはその仕事現場でだった。
お互い成長してたからどっちも最初気づかなくて、最初っていうかつい最近まで気づいてなくて、撮影していた戦隊ドラマの最終回を無事撮り終えたあとの打ち上げで、いまの道を選ぶキッカケを語り合ったとき、もしかして? ってなった。
二人で急に「「うおー!」」って声を上げて驚かれて、上司に少し叱られた。
どっちも仕事を選べるような立場じゃないから、またいずれ機会があったらって別れたのに、次の現場でも一緒になった。案外狭い世界だから、そんなに珍しくもない事柄かもしれない。
幼馴染ってこともあって良く飲みに行くようになった。自分では体験することのないスーツアクター側の意見をたくさんもらった。壊す側に立ってみないと見えないこともあって、たくさん勉強できたし刺激にもなった。
私はこれまで以上に心血を注げるようになったその仕事が、より大好きになった。それは彼も同じだったよう。
特撮美術班がどんな風に作成しているか、どんな想いを持っているか。それを知ると動きに違いが出るという。
実際に私たちが一緒に手掛けた回はマニアたちの間で評判になっていて、ネット上に書かれた賛辞を読みつつ酌み交わす酒は美味かった。
同年代の女の子たちみたいに綺麗に着飾ったりネイルに凝ったりはできないけど、その分、これから壊されてしまう街並みを綺麗に飾り、細部に凝ることが私の楽しみだった。
偶然の再会に燃え上がる恋心……なんてものは私たちの間にはないんだけど、なんならあいつ、結婚して子供もいるし。ただなんか、同志に巡り会えた感じはある。
壊されるのわかってるけどこだわって作る私と、壊すのわかってるから念入りにリハする彼。
その利害の一致が、より良い作品を作ることにかける情熱を燃え上がらせる。
私たちは仕事上で最高のパートナー。
もっと素晴らしい作品が作れるように追及したい。これからどんどん人脈を増やしていつか、自分たちの理想の物語を創りあげようというのが共通の目標になった。
今日も現場に赴く。
これから破壊される街並みを築く。儚いから美しい、精巧な建造物に、惜しみない愛を込めて。
需要と供給? っていうのかな。利害は一致してる。
私も彼も、画面に映ったときの見栄えを常に気にかける。
少しでもリアルに、少しでも細かく。
その信念を私はジオラマに、彼は動きに注ぎ続けていた。
私は特撮美術の世界で、彼はスーツアクターの世界で、それぞれ上を目指している。
彼と出会ったのは小学生のとき。たまたま近所に住んでいて、たまたま同じクラスで、たまたま名字の頭文字が五十音内で近かったから、隣の席になることが多かった。
男女の関係とか気にせず気の合う仲間同士で遊ぶような年齢だったから、彼とも良く連れ立って遊んでいた。
お互いの家に行ってお互いの家族にも可愛がられて、親同士は「いつかふたりで結婚しちゃうのかしら」とか話してた気がする。んなわきゃないっつの。
あるとき、彼のお兄さんに見せてもらった特撮ヒーロー映画が、私たちの心にぶっ刺さった。
でも見ていたところが全く違った。
彼は街中でヒーロー相手に暴れる怪獣に、私はその怪獣に壊されるのが腹立つくらい精巧な街並みに、とてつもなく興味を惹かれた。
そのころはそういうものを作る仕事があるなんて知りもしなくて、ただただどうなってるんだろうって考えながら、テレビにかじりついて凝視していた。
少しずつ成長して体つきも変わって、男女で仲良くしていると冷やかされるお年頃になって、彼とも疎遠になった。子供の頃の友達なんて、案外そんなもんだ。
目指す将来が違っていたから高校も別々になって、卒業直後に彼の父親が転勤することになって家も離れた。
お互い連絡先は知っていたけど連絡を取りあうほど仲良くもなくて、お互いの状況を知る術もなくなった。
そうして私は【壊される建物を作るため】の勉強をしに専門学校へ進む。道のりは簡単ではなかったけど、なんとかいまの会社に就職できて、念願だった“特撮美術スタッフ”として働いている。
彼と再会したのはその仕事現場でだった。
お互い成長してたからどっちも最初気づかなくて、最初っていうかつい最近まで気づいてなくて、撮影していた戦隊ドラマの最終回を無事撮り終えたあとの打ち上げで、いまの道を選ぶキッカケを語り合ったとき、もしかして? ってなった。
二人で急に「「うおー!」」って声を上げて驚かれて、上司に少し叱られた。
どっちも仕事を選べるような立場じゃないから、またいずれ機会があったらって別れたのに、次の現場でも一緒になった。案外狭い世界だから、そんなに珍しくもない事柄かもしれない。
幼馴染ってこともあって良く飲みに行くようになった。自分では体験することのないスーツアクター側の意見をたくさんもらった。壊す側に立ってみないと見えないこともあって、たくさん勉強できたし刺激にもなった。
私はこれまで以上に心血を注げるようになったその仕事が、より大好きになった。それは彼も同じだったよう。
特撮美術班がどんな風に作成しているか、どんな想いを持っているか。それを知ると動きに違いが出るという。
実際に私たちが一緒に手掛けた回はマニアたちの間で評判になっていて、ネット上に書かれた賛辞を読みつつ酌み交わす酒は美味かった。
同年代の女の子たちみたいに綺麗に着飾ったりネイルに凝ったりはできないけど、その分、これから壊されてしまう街並みを綺麗に飾り、細部に凝ることが私の楽しみだった。
偶然の再会に燃え上がる恋心……なんてものは私たちの間にはないんだけど、なんならあいつ、結婚して子供もいるし。ただなんか、同志に巡り会えた感じはある。
壊されるのわかってるけどこだわって作る私と、壊すのわかってるから念入りにリハする彼。
その利害の一致が、より良い作品を作ることにかける情熱を燃え上がらせる。
私たちは仕事上で最高のパートナー。
もっと素晴らしい作品が作れるように追及したい。これからどんどん人脈を増やしていつか、自分たちの理想の物語を創りあげようというのが共通の目標になった。
今日も現場に赴く。
これから破壊される街並みを築く。儚いから美しい、精巧な建造物に、惜しみない愛を込めて。
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