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7/2『心の鎧戸』
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私の心にはシャッターが設置されている。
まずは様子見。初対面の人には半分くらい閉めた状態でご挨拶。あ、ダメだってわかったらガラガラぴしゃん。たまにガチャリ。
三十年弱生きて来た中で、閉じたシャッターが再び開くことはなかった。
会った瞬間に鍵まで閉まる場合もあって、さすがにそれは感じ悪いかな? と反省して少し開けたりしてみるけど、結局やっぱ無理ってなる。
自分の精神を守るためのガードだから、必要な設備なのだと納得してる。けど。
はふ……と息を吐いて空を見上げた。今日も良く晴れてる。
信号に進めと促されて横断歩道を渡ると、目の前に職場が見えた。
彼がいると思うと少し足取りが重いけど……休むわけにはいかない。
重い従業員扉を開けて、ビルの中へ入った。
彼は数か月前に採用されたアルバイトで、私より一回り年下の男子大学生。
うちの会社は事務と接客の2業種あって、バイトは接客チームにしかいない。
私がいる事務チームは、私より世代がちょっと上のパートの主婦の方々と、社員のおじさん店長だけ。
彼は元気で人懐っこくて、先輩スタッフともすぐに打ち解けたし、店長や主婦の方々にも好かれてる。
私は、といえば、そんな明るさを持つ彼に気後れして人見知りが発生し、挙動不審になっている。
笑いかけられては心臓が跳ね、無意識に視線を逸らしてしまう。彼の声が聞こえてくると落ち着かなくて、なにかしらの用事を見つけて席を立ち、身を隠す。シフトが被らない日はホッとして、でも少しだけ寂しくて……。
ある時ふと、その感情に該当するであろう単語が思い浮かんで、一気に耳が熱くなった。
これはアレか? あの魚の名前と同じアレなのか?
あまりにも久しぶりの感情すぎて特定ができない。そして、自覚したくない。
だって十二歳も年下なんだよ? まだ大学生だよ? 明日にでも辞めちゃうかもしれないんだよ? しかもあんなモテそうなコ、無理だよ、そんなの。
そうやって自分の感情を打ち消そうとしてるのに、彼は私に優しくしてくれる。これ以上避けてたら私が悪い人みたいじゃないか。と考えていた矢先、店長に聞かれた。
「ねぇ矢崎さん、駒上(コマガミ)くんのこと、苦手?」
「えっ、いえ。……そう見えますか」
「うーん、なんか、避けてるような~、逃げてるような~」
なんて答えていいかわからず、口を開けたままフリーズしていたら店長がそれに気づいた。
「あ、ごめん、おせっかいだよね。ただ、働きにくかったら大変かなと思って」
「いえ、それは全然。私が人見知り発動してるだけなので」
「そっか。ならいいんだ。駒上くんしょんぼりしてたから、ちょっと気になって」
「うわ、すみません。今度会ったら、頑張って伝えます」
「ムリに頑張らなくても大丈夫だけど……うん、お願いします」
色々な人に申し訳なくなってソワソワしちゃって、その日のうちに行動に出た。
お昼休憩でビルを出た駒上くんを追って声をかける。
「こ、駒上、さん」
「はっ、い! 矢崎さん、お疲れ様です」
驚いて、でもすぐ笑顔になった駒上くんの了承を得て、近くのお店で一緒にご飯を食べることになった。
がっつりランチを選んだ駒上くんとは対照的に、緊張で固形物が喉を通らなさそうな私はアイスピーチティーを注文した。
オーダーしたものが来る前に話を切り出す。
「その、いきなりなんだけど……駒上くんのこと、嫌ってる、とかじゃないから」
「えっ。あっ。もしかして店長がなにか言いました?」
「あー……うん。なんか、ごめんなさい」
「いえ! だったらいいんです。嫌われてるのかなって、寂しかっただけなので」
「逆。逆です、それは」
「逆……」
「はい。あー、うーん」
さすがにこの流れで告るのは違うとわかるので言葉を濁したが、その先に適切な言葉が見つからない。
「あの……」
悩んでいたら、駒上くんが口を開いた。
「今度の休み、二人でどこか遊びに行きませんか」
「ぅえっ⁈ いや、それは、悪いし」
「悪い?」
「その、彼女さんとかに」
「いませんよ。いたら女性を誘わないです」
「……そっか……そうだよね……じゃあ、ぜひ……」
了承の返事に、駒上くんはとても嬉しそうな笑顔を見せた。
休みの日になって、駒上くんと二人でお出かけした。緊張したけどすごく楽しくて、あー、やっぱりこれはアレだなって実感した。
その帰り道、彼は私に【気持ち】を伝えてくれた。
彼は私の心のシャッターをそっとノックして、内側から開けるまで辛抱強く待ってくれた優しい人。
そんな優しい彼は幸せそうに微笑みながら、私の手をそっと握って隣にいてくれる。
心のシャッターが撤去されることはないけれど、彼には合鍵を渡してもいいかなって思ってる。
そんな水曜の昼下がり。
まずは様子見。初対面の人には半分くらい閉めた状態でご挨拶。あ、ダメだってわかったらガラガラぴしゃん。たまにガチャリ。
三十年弱生きて来た中で、閉じたシャッターが再び開くことはなかった。
会った瞬間に鍵まで閉まる場合もあって、さすがにそれは感じ悪いかな? と反省して少し開けたりしてみるけど、結局やっぱ無理ってなる。
自分の精神を守るためのガードだから、必要な設備なのだと納得してる。けど。
はふ……と息を吐いて空を見上げた。今日も良く晴れてる。
信号に進めと促されて横断歩道を渡ると、目の前に職場が見えた。
彼がいると思うと少し足取りが重いけど……休むわけにはいかない。
重い従業員扉を開けて、ビルの中へ入った。
彼は数か月前に採用されたアルバイトで、私より一回り年下の男子大学生。
うちの会社は事務と接客の2業種あって、バイトは接客チームにしかいない。
私がいる事務チームは、私より世代がちょっと上のパートの主婦の方々と、社員のおじさん店長だけ。
彼は元気で人懐っこくて、先輩スタッフともすぐに打ち解けたし、店長や主婦の方々にも好かれてる。
私は、といえば、そんな明るさを持つ彼に気後れして人見知りが発生し、挙動不審になっている。
笑いかけられては心臓が跳ね、無意識に視線を逸らしてしまう。彼の声が聞こえてくると落ち着かなくて、なにかしらの用事を見つけて席を立ち、身を隠す。シフトが被らない日はホッとして、でも少しだけ寂しくて……。
ある時ふと、その感情に該当するであろう単語が思い浮かんで、一気に耳が熱くなった。
これはアレか? あの魚の名前と同じアレなのか?
あまりにも久しぶりの感情すぎて特定ができない。そして、自覚したくない。
だって十二歳も年下なんだよ? まだ大学生だよ? 明日にでも辞めちゃうかもしれないんだよ? しかもあんなモテそうなコ、無理だよ、そんなの。
そうやって自分の感情を打ち消そうとしてるのに、彼は私に優しくしてくれる。これ以上避けてたら私が悪い人みたいじゃないか。と考えていた矢先、店長に聞かれた。
「ねぇ矢崎さん、駒上(コマガミ)くんのこと、苦手?」
「えっ、いえ。……そう見えますか」
「うーん、なんか、避けてるような~、逃げてるような~」
なんて答えていいかわからず、口を開けたままフリーズしていたら店長がそれに気づいた。
「あ、ごめん、おせっかいだよね。ただ、働きにくかったら大変かなと思って」
「いえ、それは全然。私が人見知り発動してるだけなので」
「そっか。ならいいんだ。駒上くんしょんぼりしてたから、ちょっと気になって」
「うわ、すみません。今度会ったら、頑張って伝えます」
「ムリに頑張らなくても大丈夫だけど……うん、お願いします」
色々な人に申し訳なくなってソワソワしちゃって、その日のうちに行動に出た。
お昼休憩でビルを出た駒上くんを追って声をかける。
「こ、駒上、さん」
「はっ、い! 矢崎さん、お疲れ様です」
驚いて、でもすぐ笑顔になった駒上くんの了承を得て、近くのお店で一緒にご飯を食べることになった。
がっつりランチを選んだ駒上くんとは対照的に、緊張で固形物が喉を通らなさそうな私はアイスピーチティーを注文した。
オーダーしたものが来る前に話を切り出す。
「その、いきなりなんだけど……駒上くんのこと、嫌ってる、とかじゃないから」
「えっ。あっ。もしかして店長がなにか言いました?」
「あー……うん。なんか、ごめんなさい」
「いえ! だったらいいんです。嫌われてるのかなって、寂しかっただけなので」
「逆。逆です、それは」
「逆……」
「はい。あー、うーん」
さすがにこの流れで告るのは違うとわかるので言葉を濁したが、その先に適切な言葉が見つからない。
「あの……」
悩んでいたら、駒上くんが口を開いた。
「今度の休み、二人でどこか遊びに行きませんか」
「ぅえっ⁈ いや、それは、悪いし」
「悪い?」
「その、彼女さんとかに」
「いませんよ。いたら女性を誘わないです」
「……そっか……そうだよね……じゃあ、ぜひ……」
了承の返事に、駒上くんはとても嬉しそうな笑顔を見せた。
休みの日になって、駒上くんと二人でお出かけした。緊張したけどすごく楽しくて、あー、やっぱりこれはアレだなって実感した。
その帰り道、彼は私に【気持ち】を伝えてくれた。
彼は私の心のシャッターをそっとノックして、内側から開けるまで辛抱強く待ってくれた優しい人。
そんな優しい彼は幸せそうに微笑みながら、私の手をそっと握って隣にいてくれる。
心のシャッターが撤去されることはないけれど、彼には合鍵を渡してもいいかなって思ってる。
そんな水曜の昼下がり。
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