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7/1『ナビする妖精』
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AI搭載の人工妖精が自販機で買えるようになった。
妖精は様々なことをナビゲートしてくれる。
目的地までの分かれ道、ひとつに絞れないメニュー、ときには人生の分岐点。
妖精が選んでくれたほうが必ずしも正しいかって言ったらそうじゃないけど、優柔不断で決断力がない人間が助かることに違いはない。
人工妖精は太陽光で充電できて電源コード不要。防風、防水加工されているし、初期段階である程度充電されているから買ってすぐに使用できる。
でも機械だからまれに故障する。
リペアセンターで修理してもらえるけれど、経年劣化でいずれ回収され、レアメタルや使用可能な部品が取り外されたのちに役目を終える。
機械とはいえ会話もできるし知識も増えるし、所有者によって違う育ち方をするから愛着が湧く。だから修理を重ねて永く付き合っていきたいけれど……繊細な技術故に耐久度も高くなく、なかなかに難しいらしい。
天然の妖精が来てくれたら最高だけど、最近では滅多に見かけない希少種だから難しく、多くの人の憧れである。
僕も御多分に漏れず妖精に憧れて、わざわざ電車を乗り継いで行った人工妖精自動販売機で妖精を一体買った。
模倣する種族が何種類かあって迷ったけど、“飛ぶことができる可愛い女の子の妖精”の定番『ティンカー・ベル』型を選んだ。
彼女は光を振り撒きながら空を飛び、手に持ったステッキで僕の行く道を示してくれる。
今日も彼女と近所を散歩しつつ、太陽光で充電してもらう。
バッテリー残量が低下してくると飛べなくなってしまうから、いまは肩に乗せて『ナビ』と『おしゃべり』モードに切替中。
見た目は天然妖精にソックリだけど見分けがつくよう、喋る前に電子音が流れる。
ポポン♪『次の道を、左に曲がるよ⭐︎』
みたいな感じ。
彼女と喋りながら歩いていたら、仲間がいると思って天然の妖精が近づいてきた。彼女と同じティンク族だ。
うわぁ、本物初めて見る! でもあまりジロジロ見ると嫌がられそうだから、言葉を交わすだけで我慢した。
「こんにちは」
「こんにちは、初めまして」
「えぇ、初めまして。あなたもこんにちは」
ポポン♪『こんにちは!』
「あら、アンドロイドなのね。なぁんだ」
「うん、そう。ごめんね、紛らわしくて」
「ううん? 別に騙そうと思ってやってるわけじゃないんだし、いいのよ」
ティンク族はそれでも離れていかず、肩に乗った人工妖精と会話してる。僕の歩く速さに合わせて飛んでくれてるけど、ホバリング状態が続いてなんだか疲れそう……。
「行く方向一緒なら、乗ってく?」
空いてる方の肩をポンポン叩いてみた。
「そうね。疲れたし、借りようかしら」
妖精は僕の肩にちょこんと座った。人工妖精ほどの重さは感じない。
「その子、名前は?」
「つけてないんだ。万が一故障してお別れ、ってなったら、すごく悲しいから」
「あら、そうなの。繊細なのね」
「うん、最新テクノロジーだからね」
「その子もだけど、あなたが」
「僕? 初めて言われた、そんなの」
「見た目は私たちと一緒だけど、中身は機械なのでしょう? あなたたちが普段使ってる家電なんかと同じじゃないの?」
「カテゴリは同じだけど、見た目が妖精で、会話したり相談したりしてたら、そりゃ情は移るよ」
「へぇ~……」
なんだか視線を感じる。ティンク族が僕を凝視しているみたい。
「あなたの妖精は、その子だけ?」
「うん」
「決めた」
ティンク族は僕の肩を飛び立って、目の前で空中停止した。
「私もあなたのパートナーになる」
「えっ! いいの?」
「うん。あなたなら私のこと、雑に扱わなさそうだし」
「そりゃ……言い方悪いけど【天然妖精】のキミを雑に扱うなんてしないよ。っていうかするやついるの?」
「いるのよ。私はそいつから逃げてきたの。網で無理やり捕まえたうえにリードまで付けられて……」
「うわ、そりゃあ窮屈だね」
「そう。だから逃げてきたんだけど、この辺りは仲間も少ない土地みたいだし、喋る相手がほしいなーって思ってたのよね」
「僕でよければ、ぜひ」
「よーし、決まり! これからよろしく!」ティンク族は空中で飛び跳ねるように喜びを表現して、「あなたも。これからよろしくね、先輩♪」僕の肩に乗る【人工妖精】と握手し、『ラズベリル』という呼称だと自己紹介してくれた。
希少な宝石の名称だそうで、ピンク色に染まった頬と色が似ているから、という理由で名付けられたらしい。
ラズベリルは母や妹の壊れたアクセサリー、父が壊した眼鏡なんかを修理してくれた。家族は可愛い新家族に大喜び。
気まぐれな性質の天然妖精だからいつかふらりとどこかへ旅立ってしまうかもしれない。けれど、いずれ思い出になったとしても、妖精たちとの生活は僕の宝物になるだろう。
妖精は様々なことをナビゲートしてくれる。
目的地までの分かれ道、ひとつに絞れないメニュー、ときには人生の分岐点。
妖精が選んでくれたほうが必ずしも正しいかって言ったらそうじゃないけど、優柔不断で決断力がない人間が助かることに違いはない。
人工妖精は太陽光で充電できて電源コード不要。防風、防水加工されているし、初期段階である程度充電されているから買ってすぐに使用できる。
でも機械だからまれに故障する。
リペアセンターで修理してもらえるけれど、経年劣化でいずれ回収され、レアメタルや使用可能な部品が取り外されたのちに役目を終える。
機械とはいえ会話もできるし知識も増えるし、所有者によって違う育ち方をするから愛着が湧く。だから修理を重ねて永く付き合っていきたいけれど……繊細な技術故に耐久度も高くなく、なかなかに難しいらしい。
天然の妖精が来てくれたら最高だけど、最近では滅多に見かけない希少種だから難しく、多くの人の憧れである。
僕も御多分に漏れず妖精に憧れて、わざわざ電車を乗り継いで行った人工妖精自動販売機で妖精を一体買った。
模倣する種族が何種類かあって迷ったけど、“飛ぶことができる可愛い女の子の妖精”の定番『ティンカー・ベル』型を選んだ。
彼女は光を振り撒きながら空を飛び、手に持ったステッキで僕の行く道を示してくれる。
今日も彼女と近所を散歩しつつ、太陽光で充電してもらう。
バッテリー残量が低下してくると飛べなくなってしまうから、いまは肩に乗せて『ナビ』と『おしゃべり』モードに切替中。
見た目は天然妖精にソックリだけど見分けがつくよう、喋る前に電子音が流れる。
ポポン♪『次の道を、左に曲がるよ⭐︎』
みたいな感じ。
彼女と喋りながら歩いていたら、仲間がいると思って天然の妖精が近づいてきた。彼女と同じティンク族だ。
うわぁ、本物初めて見る! でもあまりジロジロ見ると嫌がられそうだから、言葉を交わすだけで我慢した。
「こんにちは」
「こんにちは、初めまして」
「えぇ、初めまして。あなたもこんにちは」
ポポン♪『こんにちは!』
「あら、アンドロイドなのね。なぁんだ」
「うん、そう。ごめんね、紛らわしくて」
「ううん? 別に騙そうと思ってやってるわけじゃないんだし、いいのよ」
ティンク族はそれでも離れていかず、肩に乗った人工妖精と会話してる。僕の歩く速さに合わせて飛んでくれてるけど、ホバリング状態が続いてなんだか疲れそう……。
「行く方向一緒なら、乗ってく?」
空いてる方の肩をポンポン叩いてみた。
「そうね。疲れたし、借りようかしら」
妖精は僕の肩にちょこんと座った。人工妖精ほどの重さは感じない。
「その子、名前は?」
「つけてないんだ。万が一故障してお別れ、ってなったら、すごく悲しいから」
「あら、そうなの。繊細なのね」
「うん、最新テクノロジーだからね」
「その子もだけど、あなたが」
「僕? 初めて言われた、そんなの」
「見た目は私たちと一緒だけど、中身は機械なのでしょう? あなたたちが普段使ってる家電なんかと同じじゃないの?」
「カテゴリは同じだけど、見た目が妖精で、会話したり相談したりしてたら、そりゃ情は移るよ」
「へぇ~……」
なんだか視線を感じる。ティンク族が僕を凝視しているみたい。
「あなたの妖精は、その子だけ?」
「うん」
「決めた」
ティンク族は僕の肩を飛び立って、目の前で空中停止した。
「私もあなたのパートナーになる」
「えっ! いいの?」
「うん。あなたなら私のこと、雑に扱わなさそうだし」
「そりゃ……言い方悪いけど【天然妖精】のキミを雑に扱うなんてしないよ。っていうかするやついるの?」
「いるのよ。私はそいつから逃げてきたの。網で無理やり捕まえたうえにリードまで付けられて……」
「うわ、そりゃあ窮屈だね」
「そう。だから逃げてきたんだけど、この辺りは仲間も少ない土地みたいだし、喋る相手がほしいなーって思ってたのよね」
「僕でよければ、ぜひ」
「よーし、決まり! これからよろしく!」ティンク族は空中で飛び跳ねるように喜びを表現して、「あなたも。これからよろしくね、先輩♪」僕の肩に乗る【人工妖精】と握手し、『ラズベリル』という呼称だと自己紹介してくれた。
希少な宝石の名称だそうで、ピンク色に染まった頬と色が似ているから、という理由で名付けられたらしい。
ラズベリルは母や妹の壊れたアクセサリー、父が壊した眼鏡なんかを修理してくれた。家族は可愛い新家族に大喜び。
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