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6/29『小さな星の、一輪の薔薇。』
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小さな星に咲くたった一輪のバラ。ほかの星ではありふれた花でも、その小さな星ではとても貴重なもの。
ボクにとってのキミもそう。
なんで私? って言うけど、ボクにはキミがかけがえのない存在なんだ。それをキミに伝えるには、ボクの言葉じゃ足らなくて。
知りうる言葉のすべてをもってしても、ボクの気持ちを全部伝えることはできない。
キミはいつも楽しいおしゃべりをしてくれる。うるさいなんて思ったことはない。ただ、キミの考えていることが聞けて、素敵な声を聴けて、ボクは嬉しくなる。
キミが望むなら風よけの衝立やガラスドーム、他にもなんだって用意するよ。だからずっとボクのそばにいてほしいんだ。
ボクがもしこの星を旅立つことになっても、キミを独りになんかしない。一緒に行こうって、きっと手を取る。
キミと離れたいなんて絶対に思わないから、だからずっと、この世界で二人きりで生きていきたい。
そう思っていたのに、ボクたちのユートピアは、突如壊されてしまった。
「……お目覚めですか」
さっきまで見えていた世界が、目の前から消えていた。
「ここは……」
「病院ですよ、柊木大佑さん。あぁ、無理に起きないでください? 自力で動けるような状態ではないので」
周囲には白衣を着た人々。話しかけてくる男はスーツ姿だ。
「申し遅れました、こういう者です」警察手帳を見せて、男が自己紹介をした。「今日はひとまず確認だけ。体調が安定したら、また伺います」
では、と短く締めて、男はドアの向こうへ消えた。
ボクが見つけた世界は壊され、ボクらは現実世界に戻されてしまった。
こっちの世界ではどのくらい時間が経ったのだろう。ボクの身体からは、手や足を動かす力が失われているようだった。
この世界の身体がこうなるのなんてわかっていた。もうあの世界から戻るつもりはなかったから、それでいいと思っていた。
あのままエミちゃんと二人、麗しい世界と一緒に滅びてしまいたかったのに。それがボクらに与えられた幸せだと思っていたのに……。
体力の回復が進むと、四肢の機能回復のためのリハビリと、警察の事情聴取が始まった。
「あんたが監禁した女性ね、もう少し発見が遅かったら命を落としていたそうだよ」
「監禁なんて……ボクはただあの空間に招待しただけで」
「ログアウト方法を完全になくした空間、ね」
「あそこに彼女が来たのは彼女の意思だ。ボクはなにも」
「するつもりはなかった、と」
「……彼女に聞いてください。ボクたちはあの空間で、確かに愛し合っていた。……そうだ、彼女はどこに」
「お教えできません。少なくとも、この病院内にはいませんよ」
睨み合うボクら。しかしそれは、ボクの頭痛で中断した。
「長い間、特殊な電子空間と繋がれていたため、脳にダメージを受けています。あまり込み入った会話はご遠慮ください」
医師に促され、警察の男は渋々病室をあとにした。
そうだよ、ボクらはあの空間で、何度も何度も愛し合った。彼女だって、最初のうちは抵抗していたけど、次第に受け入れてくれるようになったじゃないか。
ボクたちは心も身体も繋がった、二人でひとつの存在だったじゃないか。
あの美しい世界が綻び始めたのはいつ頃だっただろう。
厳重なセキュリティを解き、無理やり介入してきたあいつら……武装したやつらに取り押さえられたボク。その視界の片隅に、彼女を介抱する男の姿が見えた。かりそめの姿をしていたけれど、あれはきっと、現実世界で彼女を捉えていた【彼氏】だ。
彼女のアカウントを使って別れを告げたのに、いつまでもしつこいんだよ。
最後に見た彼女が泣いていたのは、きっとボクとの別れが辛かったから。そうに違いない。
早く新しい二人の住処を探さなければならないのに、退院後に連れていかれたのは警察だった。事情聴取はまだ終わっていなかったみたいだ。
何度言ったらわかるんだろう。あの世界でボクらは愛し合って、通じ合っていたって。
後日、弁護士を通じて文書が送られてきた。ストーカー規制法に則り、彼女へ近づくことを禁止する、というような内容だった。
ストーカーはボクじゃなくて【彼氏】のほうだろう。
そう返答したのに、判定が覆ることはなかった。
ボクたちがいかに愛し合っていたかを証明してほしいと彼女に伝えてもらったが、彼女の記憶はあいまいで、回答はもらえなかった。
監禁罪についても同じで、彼女の証言はもちろん、罪に問われるほどの証拠もなく、ボクは不起訴で釈放された。
久しぶりに帰った家は少し埃っぽかったけど、あの世界へ行ったときと同じままだった。
通信を遮断するために電源を落とされたらしいパソコンを起動させ、また新たな世界を探しに出る。
壊されたボクらの楽園を、再建するために――。
ボクにとってのキミもそう。
なんで私? って言うけど、ボクにはキミがかけがえのない存在なんだ。それをキミに伝えるには、ボクの言葉じゃ足らなくて。
知りうる言葉のすべてをもってしても、ボクの気持ちを全部伝えることはできない。
キミはいつも楽しいおしゃべりをしてくれる。うるさいなんて思ったことはない。ただ、キミの考えていることが聞けて、素敵な声を聴けて、ボクは嬉しくなる。
キミが望むなら風よけの衝立やガラスドーム、他にもなんだって用意するよ。だからずっとボクのそばにいてほしいんだ。
ボクがもしこの星を旅立つことになっても、キミを独りになんかしない。一緒に行こうって、きっと手を取る。
キミと離れたいなんて絶対に思わないから、だからずっと、この世界で二人きりで生きていきたい。
そう思っていたのに、ボクたちのユートピアは、突如壊されてしまった。
「……お目覚めですか」
さっきまで見えていた世界が、目の前から消えていた。
「ここは……」
「病院ですよ、柊木大佑さん。あぁ、無理に起きないでください? 自力で動けるような状態ではないので」
周囲には白衣を着た人々。話しかけてくる男はスーツ姿だ。
「申し遅れました、こういう者です」警察手帳を見せて、男が自己紹介をした。「今日はひとまず確認だけ。体調が安定したら、また伺います」
では、と短く締めて、男はドアの向こうへ消えた。
ボクが見つけた世界は壊され、ボクらは現実世界に戻されてしまった。
こっちの世界ではどのくらい時間が経ったのだろう。ボクの身体からは、手や足を動かす力が失われているようだった。
この世界の身体がこうなるのなんてわかっていた。もうあの世界から戻るつもりはなかったから、それでいいと思っていた。
あのままエミちゃんと二人、麗しい世界と一緒に滅びてしまいたかったのに。それがボクらに与えられた幸せだと思っていたのに……。
体力の回復が進むと、四肢の機能回復のためのリハビリと、警察の事情聴取が始まった。
「あんたが監禁した女性ね、もう少し発見が遅かったら命を落としていたそうだよ」
「監禁なんて……ボクはただあの空間に招待しただけで」
「ログアウト方法を完全になくした空間、ね」
「あそこに彼女が来たのは彼女の意思だ。ボクはなにも」
「するつもりはなかった、と」
「……彼女に聞いてください。ボクたちはあの空間で、確かに愛し合っていた。……そうだ、彼女はどこに」
「お教えできません。少なくとも、この病院内にはいませんよ」
睨み合うボクら。しかしそれは、ボクの頭痛で中断した。
「長い間、特殊な電子空間と繋がれていたため、脳にダメージを受けています。あまり込み入った会話はご遠慮ください」
医師に促され、警察の男は渋々病室をあとにした。
そうだよ、ボクらはあの空間で、何度も何度も愛し合った。彼女だって、最初のうちは抵抗していたけど、次第に受け入れてくれるようになったじゃないか。
ボクたちは心も身体も繋がった、二人でひとつの存在だったじゃないか。
あの美しい世界が綻び始めたのはいつ頃だっただろう。
厳重なセキュリティを解き、無理やり介入してきたあいつら……武装したやつらに取り押さえられたボク。その視界の片隅に、彼女を介抱する男の姿が見えた。かりそめの姿をしていたけれど、あれはきっと、現実世界で彼女を捉えていた【彼氏】だ。
彼女のアカウントを使って別れを告げたのに、いつまでもしつこいんだよ。
最後に見た彼女が泣いていたのは、きっとボクとの別れが辛かったから。そうに違いない。
早く新しい二人の住処を探さなければならないのに、退院後に連れていかれたのは警察だった。事情聴取はまだ終わっていなかったみたいだ。
何度言ったらわかるんだろう。あの世界でボクらは愛し合って、通じ合っていたって。
後日、弁護士を通じて文書が送られてきた。ストーカー規制法に則り、彼女へ近づくことを禁止する、というような内容だった。
ストーカーはボクじゃなくて【彼氏】のほうだろう。
そう返答したのに、判定が覆ることはなかった。
ボクたちがいかに愛し合っていたかを証明してほしいと彼女に伝えてもらったが、彼女の記憶はあいまいで、回答はもらえなかった。
監禁罪についても同じで、彼女の証言はもちろん、罪に問われるほどの証拠もなく、ボクは不起訴で釈放された。
久しぶりに帰った家は少し埃っぽかったけど、あの世界へ行ったときと同じままだった。
通信を遮断するために電源を落とされたらしいパソコンを起動させ、また新たな世界を探しに出る。
壊されたボクらの楽園を、再建するために――。
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