日々の欠片

小海音かなた

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6/9『ロックな絵画』

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 心配性の私は、自宅の鍵が閉まっているか不安になって、つい何度も確認してしまう。そういう“症状”には名前が付いているらしいけど、私のこれもそれに該当するのだろうか。

 揺れるものが苦手。着ぐるみが怖い。お札の向きが揃ってないと気持ちが悪い。箱の天地が逆転しているのが許せない。

 この世の中で自分だけが苦手、というわけじゃないのもわかってるけど、あまり理解してもらえないことが多い。全然平気な人もたくさん見て来たし、世の中の大半の人は気にしてないのかもしれない。

 私の中の【ロック】は【lock】。施錠したり固定したり、とにかく守りの姿勢。
 揺り動かしたり揺さぶるって意味の【rock】とは真逆。
 それでもたまに【rock】な行動をしなくては、と思うときがある。
 創作活動だ。
 子供のころから褒められていた絵の技術。上手とか綺麗とかって褒められたことはあるけど、感動するとか感涙するとか、そういう言葉を聞いたことがない。私の絵は、人の心を動かすことができない。
 型にはまった絵を描いているんだろうなぁと思うけど、自分では満足しているし自分の絵が好きだから客観視がうまくできない。
 人生に一度でいいから、人の心を揺さぶるような、誰かの気持ちを動かすような、そんな絵が描いてみたい。けれどどうすればいいのかわからない。
 写実的な絵を描くのが好きで、衝動に任せた行動をしたことがないからダメなのでは? と、一度デタラメに筆を走らせたことがあるけど、ただデタラメな線が書かれたキャンバスになった。決して安くはないキャンバスを一枚無駄にしてしまった、という悲しさで胸がいっぱいになった。違う、こういう心の動かし方をしたいわけじゃない。
 学ぶようなことでもないだろうから、もう私は私のやり方で絵を続けていくしかないんだな、と悟りにも似た感情が芽生えた。
 せめてもう少したくさんの人に自分の絵を見てほしいと思って、SNSを通じて作品を公開し始めた。反応はあまりないけど、いつか目に止めて、引き立ててくれる人がいるんじゃないかって淡い期待を抱いている。
 なにもしないより、やったほうがマシだよなって。
 相互さんや有名絵師さんの投稿を見て、静止画だけだとあんまりキャッチ―じゃないらしいと気づいて、作画風景を撮影して動画で流してみたら、瞬く間に拡散された。なんだか私の描き方が普通じゃない、とのこと。
 昔からこの描き方しかできないし、なんなら小学校の頃とかは親とか先生に「ちゃんと描け」って怒られたくらいなんだけど……いつの間にか短所が長所になっていたようで、なんか嬉しくなった。
 私の絵は、結果じゃなくて過程が人の心を動かすものだったみたい。
 【lock】ばかりしてるんじゃなくて、【rock】に挑戦してみるもんだ。
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