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5/24『グルグルの甘々』
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「伊達巻食べたい」
「えぇ? 売ってるかなぁ」
「食べたい。無性に食べたい」
珍しく駄々をこねる彼女。なだめるために触れた頭頂部が熱い。頬も心なしか熱を帯びている。メイクかと思った頬の赤さは、どうやらメイクじゃないっぽい。
「ちょっと熱測ってて。その間にスーパー行ってくる」
「んー」
体温計を渡して冷却シートを彼女のおでこに貼り、スマホと鍵を掴んでダッシュでスーパーへ。伊達巻なんて正月にしか売ってないイメージだけど、正月もとっくに終わってるし、最悪なかったら手作りか⁈ と覚悟を決めたけど、練り物コーナーにかまぼこと並んで売られていた。良かった。
伊達巻と、万が一風邪だった場合にと色々買い込む。帰り際に見かけたドラッグストアの前で、また別の可能性がひとつ浮かんだ。
もしかして……いやいや、まさか。でも……。
散々悩んで、でも万が一のこともあるし、そういえば風邪薬あったっけ? ってなって、荷物を抱えてドラッグストアへ入店。
解熱剤が入った風邪薬と……妊娠検査薬を持ってレジへ。まさかこういうのを買うときが来るとは。
職場にたまたま奥さんが妊娠したって人がいて、その人の話を聞いてたから知識としてあったけど、知らなかったらただの風邪として扱ってたかもしれない。いやいや、まだ“可能性”ってだけで、そうと決まったわけでは。
もしそうだったとしたらどうしよう、ってシミュレーションしながら家路につく。
平静を装うために玄関ドアの前で深呼吸。そして室内へ。
「ただいま」
「おかえりぃ」
さっきよりもぼんやりとした表情の彼女。
「伊達巻あったから買ってきたけど、その前に体温計見せて」
買い物袋を彼女のそばに置いて、手を出した。
「うー、微熱だった」
表示されているのは【37.5℃】の文字。
「とりあえず、欲しい物あれば出して。食べる用意するから」
「うー。これは?」
「あ、それは……」
買い物袋の中に放り込んだドラッグショップの紙袋。中身を見て彼女が驚いた。
「……ありがとう。でもこれは、多分大丈夫」細長い小箱を彼女がそっと持ち、空いた手でお腹をさすった。「えっと、いま真っ最中、だから」
「あ、あぁ、そう……」
ホッとしたようなガッカリしたような……結婚願望とか子供欲しいとか意識したことなかったけど、この気持ちはどういう感情なんだろう。
「風邪ってわけでもないのかな?」
「うーん、PMSかなぁ、とは思うけど……」
彼女自身もなにが原因かわかっていない様子。とりあえず薬を飲むのは見送って、食べたがってた伊達巻を切って、スポーツドリンクと一緒に出した。
冷えたスポドリを飲んだら、顔の赤みは少しおさまったように見える。
出してみて改めてスポドリと伊達巻の相性の良さを考えてみるが、彼女は気にしていないよう。美味しそうに伊達巻を頬張っている。
季節外れに食べる伊達巻、案外悪くない。でも俺は暖かいお茶と合わせたいかも。
茶葉あったっけか? そもそも急須がないか? なんて考えながら食べていたら、
「恥ずかしくなかった?」
彼女が小首をかしげながら言った。きっと検査薬のことだろう。
「ちょっとね。でも、間違えて薬飲んだら大変って思って」
「ふふっ」
「早とちりしてごめん」
「ううん、ありがとう。優しいね」
「いや……まぁ」
なんだかんだで、どこかで覚悟を決めていたらしい俺は、少し拍子抜けしたような気分だ。
「いつか使うときのために、取っておく」
「うん、そうして」
まずはその前に結婚だし、さらに前にプロポーズとか色々あるけど、それは改めて考えることにして、いまは甘くてふわふわの伊達巻を彼女と二人で堪能することにした。
やっぱり伊達巻にはお茶だねって彼女が緑茶を淹れてくれて、初めて急須と茶葉の場所を知った。これからは積極的に家事ができるようになろうって思いながら、元気になってきた彼女と一緒に、もう少しで来る夏の予定を提案し合った。
「えぇ? 売ってるかなぁ」
「食べたい。無性に食べたい」
珍しく駄々をこねる彼女。なだめるために触れた頭頂部が熱い。頬も心なしか熱を帯びている。メイクかと思った頬の赤さは、どうやらメイクじゃないっぽい。
「ちょっと熱測ってて。その間にスーパー行ってくる」
「んー」
体温計を渡して冷却シートを彼女のおでこに貼り、スマホと鍵を掴んでダッシュでスーパーへ。伊達巻なんて正月にしか売ってないイメージだけど、正月もとっくに終わってるし、最悪なかったら手作りか⁈ と覚悟を決めたけど、練り物コーナーにかまぼこと並んで売られていた。良かった。
伊達巻と、万が一風邪だった場合にと色々買い込む。帰り際に見かけたドラッグストアの前で、また別の可能性がひとつ浮かんだ。
もしかして……いやいや、まさか。でも……。
散々悩んで、でも万が一のこともあるし、そういえば風邪薬あったっけ? ってなって、荷物を抱えてドラッグストアへ入店。
解熱剤が入った風邪薬と……妊娠検査薬を持ってレジへ。まさかこういうのを買うときが来るとは。
職場にたまたま奥さんが妊娠したって人がいて、その人の話を聞いてたから知識としてあったけど、知らなかったらただの風邪として扱ってたかもしれない。いやいや、まだ“可能性”ってだけで、そうと決まったわけでは。
もしそうだったとしたらどうしよう、ってシミュレーションしながら家路につく。
平静を装うために玄関ドアの前で深呼吸。そして室内へ。
「ただいま」
「おかえりぃ」
さっきよりもぼんやりとした表情の彼女。
「伊達巻あったから買ってきたけど、その前に体温計見せて」
買い物袋を彼女のそばに置いて、手を出した。
「うー、微熱だった」
表示されているのは【37.5℃】の文字。
「とりあえず、欲しい物あれば出して。食べる用意するから」
「うー。これは?」
「あ、それは……」
買い物袋の中に放り込んだドラッグショップの紙袋。中身を見て彼女が驚いた。
「……ありがとう。でもこれは、多分大丈夫」細長い小箱を彼女がそっと持ち、空いた手でお腹をさすった。「えっと、いま真っ最中、だから」
「あ、あぁ、そう……」
ホッとしたようなガッカリしたような……結婚願望とか子供欲しいとか意識したことなかったけど、この気持ちはどういう感情なんだろう。
「風邪ってわけでもないのかな?」
「うーん、PMSかなぁ、とは思うけど……」
彼女自身もなにが原因かわかっていない様子。とりあえず薬を飲むのは見送って、食べたがってた伊達巻を切って、スポーツドリンクと一緒に出した。
冷えたスポドリを飲んだら、顔の赤みは少しおさまったように見える。
出してみて改めてスポドリと伊達巻の相性の良さを考えてみるが、彼女は気にしていないよう。美味しそうに伊達巻を頬張っている。
季節外れに食べる伊達巻、案外悪くない。でも俺は暖かいお茶と合わせたいかも。
茶葉あったっけか? そもそも急須がないか? なんて考えながら食べていたら、
「恥ずかしくなかった?」
彼女が小首をかしげながら言った。きっと検査薬のことだろう。
「ちょっとね。でも、間違えて薬飲んだら大変って思って」
「ふふっ」
「早とちりしてごめん」
「ううん、ありがとう。優しいね」
「いや……まぁ」
なんだかんだで、どこかで覚悟を決めていたらしい俺は、少し拍子抜けしたような気分だ。
「いつか使うときのために、取っておく」
「うん、そうして」
まずはその前に結婚だし、さらに前にプロポーズとか色々あるけど、それは改めて考えることにして、いまは甘くてふわふわの伊達巻を彼女と二人で堪能することにした。
やっぱり伊達巻にはお茶だねって彼女が緑茶を淹れてくれて、初めて急須と茶葉の場所を知った。これからは積極的に家事ができるようになろうって思いながら、元気になってきた彼女と一緒に、もう少しで来る夏の予定を提案し合った。
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