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5/12『るんぱっぱ』
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子供のころは田んぼ脇の水路でザリガニ釣りしたもんだけどねぇ。
なんて爺さんの言葉が浮かんだ。
通りかかった橋の下に、水路があったからだ。
さすがにザリガニなんていないよなー、なんてちょっと覗き込んでみたら、なにかと目があった。
「かっ……ぱ……?」
自分の口から出てきたその妖怪の名前の通り、河童が水路の中からこちらを見あげている。緑の肌、黄色のクチバシ、背中に甲羅、頭に皿、手にはザリガニ。
へぇ、河童ってザリガニ食うんだ。っていやいや、河童? リアルにいるんだっけ? え? 幻覚? 夢? いや、今朝起きたよな。
当然の如く混乱しながら河童を凝視していたら、河童はこちらにザリガニを差し出した。
食べる?
と口が動く。
食べない、の意思表示として首を横に振ったら、
そっかぁ。
と口が動いて、河童は水の中に潜って消えた。
なにいまの。俺河童と会話してた? いや、気のせいだよ、きっとそうだ。
橋から下を覗き込む俺を心配してか、巡回中の警察官が声をかけてきた。「どうしました? 大丈夫ですか?」
「あ、はい、大丈夫です。すみません。ザリガニとか、いるかなーって」
橋の下を指さしたら、警察官も水路を覗き込んだ。
「あー、いかにもいそうな水路だねー。落ちないように気を付けて~」
「はい、すんません」
気さくに手を振る警察官に頭を下げて、目的のない散歩を再開する。
河童の行先が気になって水路を辿って歩いていたら、細長い地形の公園に出た。いわゆる“緑道公園”というやつだ。
水路はだんだん広くなって川になって、その先はボート乗り場がある池に続いていた。
川の中腹に水位を示す模造の木の杭が五本、等間隔に並んで立っていて、その一本ずつの上に河童の像が一体ずつ乗っかってた。
そうそう、さっき見たのもこの“定番の河童”の感じだった。肌が緑色で亀っぽい甲羅背負って頭に皿乗っかっててさ、って写真を撮ろうとして気づいた。
五体の河童像の真ん中の一体が、手にザリガニを持っている。
他の四体とは違う質感の河童をマジマジと見つめたら、その河童の口が動いた。
食べる?
その河童、よっぽどいいヤツなのか、それとも何度も薦めたくなるほどザリガニが旨いのか……。
ありがたいけど受け取れるような距離じゃないから、丁重にお断りした。
お気持ちだけ、いただいておきます。
写真、いいすか?
口パクと手振りで聞いたら河童はうなずいて、左手でピースをし、右手に持ったザリガニのハサミもかざしてくれた。ダブルピースのように見えて可愛らしい。
シャッターを押して『ありがとうございます』と口を動かしたら、河童は嬉しそうに笑った。
写真には俺が肉眼で見たままの映像が映っていた。いい写真だから一人で見るにはもったいないけど……合成とか虚偽を疑われそうだったから、誰にも見せられなかった。
河童本人 (人じゃないけど)には見て貰えば良かったな。って思って、後日、緑道公園へ赴いたら、河童像は四体しかいなかった。五本ある杭の真ん中にはなにも乗っていない。
どっか遊びに行ったのかと思って水の中を探すように見ていたら、公園の管理をしてるっぽいおじさんに声をかけられた。
「どうしました?」
「あ、えっと……真ん中だけ、河童いないんだなって」
「あぁ」おじさんは笑って「またどっかにメシ食いに行ってんじゃないかな」指を立ててぐるりと回した。「あの河童になんかされた?」
「え? いえ、えっと……ザリガニ食うかって、薦められました」
冗談にしては面白くない本当のことを答えたらおじさんは笑って、
「そりゃ気に入られたもんだ。また会いに来てやってよ。あの河童、寂しがりだからさ」
って言い残して去っていった。
……俺が知らない間に、河童は言い伝えじゃなく、実在する生き物になってたみたいだ。
もっとちゃんとニュースみたり世間のこと知るようにしないとな……って考えながら緑道公園を歩いた。
遊歩道脇に植えられた木の新緑は、河童の肌の色に似ていてキレイだった。
なんて爺さんの言葉が浮かんだ。
通りかかった橋の下に、水路があったからだ。
さすがにザリガニなんていないよなー、なんてちょっと覗き込んでみたら、なにかと目があった。
「かっ……ぱ……?」
自分の口から出てきたその妖怪の名前の通り、河童が水路の中からこちらを見あげている。緑の肌、黄色のクチバシ、背中に甲羅、頭に皿、手にはザリガニ。
へぇ、河童ってザリガニ食うんだ。っていやいや、河童? リアルにいるんだっけ? え? 幻覚? 夢? いや、今朝起きたよな。
当然の如く混乱しながら河童を凝視していたら、河童はこちらにザリガニを差し出した。
食べる?
と口が動く。
食べない、の意思表示として首を横に振ったら、
そっかぁ。
と口が動いて、河童は水の中に潜って消えた。
なにいまの。俺河童と会話してた? いや、気のせいだよ、きっとそうだ。
橋から下を覗き込む俺を心配してか、巡回中の警察官が声をかけてきた。「どうしました? 大丈夫ですか?」
「あ、はい、大丈夫です。すみません。ザリガニとか、いるかなーって」
橋の下を指さしたら、警察官も水路を覗き込んだ。
「あー、いかにもいそうな水路だねー。落ちないように気を付けて~」
「はい、すんません」
気さくに手を振る警察官に頭を下げて、目的のない散歩を再開する。
河童の行先が気になって水路を辿って歩いていたら、細長い地形の公園に出た。いわゆる“緑道公園”というやつだ。
水路はだんだん広くなって川になって、その先はボート乗り場がある池に続いていた。
川の中腹に水位を示す模造の木の杭が五本、等間隔に並んで立っていて、その一本ずつの上に河童の像が一体ずつ乗っかってた。
そうそう、さっき見たのもこの“定番の河童”の感じだった。肌が緑色で亀っぽい甲羅背負って頭に皿乗っかっててさ、って写真を撮ろうとして気づいた。
五体の河童像の真ん中の一体が、手にザリガニを持っている。
他の四体とは違う質感の河童をマジマジと見つめたら、その河童の口が動いた。
食べる?
その河童、よっぽどいいヤツなのか、それとも何度も薦めたくなるほどザリガニが旨いのか……。
ありがたいけど受け取れるような距離じゃないから、丁重にお断りした。
お気持ちだけ、いただいておきます。
写真、いいすか?
口パクと手振りで聞いたら河童はうなずいて、左手でピースをし、右手に持ったザリガニのハサミもかざしてくれた。ダブルピースのように見えて可愛らしい。
シャッターを押して『ありがとうございます』と口を動かしたら、河童は嬉しそうに笑った。
写真には俺が肉眼で見たままの映像が映っていた。いい写真だから一人で見るにはもったいないけど……合成とか虚偽を疑われそうだったから、誰にも見せられなかった。
河童本人 (人じゃないけど)には見て貰えば良かったな。って思って、後日、緑道公園へ赴いたら、河童像は四体しかいなかった。五本ある杭の真ん中にはなにも乗っていない。
どっか遊びに行ったのかと思って水の中を探すように見ていたら、公園の管理をしてるっぽいおじさんに声をかけられた。
「どうしました?」
「あ、えっと……真ん中だけ、河童いないんだなって」
「あぁ」おじさんは笑って「またどっかにメシ食いに行ってんじゃないかな」指を立ててぐるりと回した。「あの河童になんかされた?」
「え? いえ、えっと……ザリガニ食うかって、薦められました」
冗談にしては面白くない本当のことを答えたらおじさんは笑って、
「そりゃ気に入られたもんだ。また会いに来てやってよ。あの河童、寂しがりだからさ」
って言い残して去っていった。
……俺が知らない間に、河童は言い伝えじゃなく、実在する生き物になってたみたいだ。
もっとちゃんとニュースみたり世間のこと知るようにしないとな……って考えながら緑道公園を歩いた。
遊歩道脇に植えられた木の新緑は、河童の肌の色に似ていてキレイだった。
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