日々の欠片

小海音かなた

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5/3『だんしゃらない』

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 断捨離に向いてない。
 いらないと思って捨てたものが数か月後必要になって、買おうとしてもすでに廃盤になっていて買えない。なんてことを数回経験して思い知った。
 断捨離に向いてない。
 “いつか使う”は本当に使うことがある、って知ってしまったら、物が捨てられなくなってしまった。ホントのゴミは捨ててるから別にゴミ屋敷にはなってないし、ちょっと収納に困ってるだけ。……っていうのは言い訳なんだよな、きっと。でも仕方ない。結局最終的に“全部大事”なんだもん。
 なんて考えながら眠ろうとしたら、枕元になにかが立った。
 お化けかな。どうせ金縛りとかになってるんでしょ? って考えに反して身体は自由に動く。
 “なにか”に対峙するように姿勢を変えたら、“なにか”はニコニコしてこちらを見ていた。この姿、なんだか見覚えあるような……?
「なにか……ご用ですか」
『ご用というか、お礼です。むやみにモノを捨てないでくれて、ありがとうございます』
「あ、いえ……捨てられないってだけで……えっと、もったいないおばけ、さんとかです?」
『あぁ、まぁ、そのようなものです』
 なんともハッキリしない答え。なにか言えない事情でもあるのか、モジモジしている雰囲気が伝わってくる。
「なにか不都合でもありました?」
『いえ……置いていただいている分際で非常に差し出がましいのですが、出番を待っているモノたちが住所を欲しがっておりまして』
「住所……整理整頓をご希望、ということですか?」
『えぇえぇ、そうです。貴方様のお時間とかご体調とか色々あるかと存じておりますが、所在なさげなモノたちもおりまして……』
「あぁ、それはすみません。少しずつになると思いますが、進めていきます」
『ありがとうございます。モノたちも喜びます』
 周囲で“キャイキャイ”音がして部屋を見渡すと、山積みになった本や小物類が心なしか喜んでいるように感じた。途端にちょっとした不安が渦巻く。
「もしかしたら、片づけていくうちに不要になったりするかも……」
『それはかまいません。不要でしたら処分していただくのも大丈夫です』
「いやぁ……」
 感情を持っていると知った以上、ますます捨てにくくなったんだけど。
『貴方様がたのように確固とした“感情”を持っているわけではございません。概念といいますか思念といいますか……。しかし不要になった時点でそのモノの役目は終わっているのです。どうしても気になられるようでしたら、破棄する前にワタクシめが手続きをいたしますので』
「仏像とかの魂抜きみたいな感じ?」
『そこまで大きな儀式ではございませんが、天の世界で使われることを少し早める手続き、とお考えいただければ』
「よくわかんないけど、そういう制度なんだ?」
『えぇ。現世でお役目を終えたモノのうち、まだ使用できるモノは常世で再利用されるのです。そちらで全うできますので、どうかお気になさらずに』
「わかりました。片づけは近日中に開始するので、お待ちいただければ」
『ありがとうございます。もしお困りの際は、あちらにお声がけいただければと思います』
 “なにか”が指したその先には――
 ♪テレレレン、ペレレン♪ ♪テレレレン、ペレレン♪
 目覚まし用のアラーム音が聞こえる。
 ♪テレレレン、ペレ……スマホを操作して止めて、目覚めたのだと気づく。え、寝てた?
 慌てて起き上がって枕元を見るが、もうなにもいない。急な動きに耐えられなかった三半規管が眩暈を起こした。
「うぅ……」
 しばらくおとなしくして静まったところで、“なにか”が指した方向を見た。そこにいたのは、ソフビでできた貯金箱。確かなんかのイベントでもらった『ゴミ減量』促進のイメージキャラクターが模されたやつ。枕元に立った“なにか”と同じ見た目だ。
 なるほど。だから“むやみにものを捨てずにありがとう”なわけか。
 困ったらアレに声をかけろってことだよね。じゃあアレは捨てずにとっておいて……。
 のそのそと布団から起きて、日課である朝ノートにさっきの体験と片づけの計画を書き始める。希望通りにできるかわからないけど、せっかくだしチマチマ進めてみよう。
 そんで、風水的に“縁起がいい部屋”になって、金運とかあがったらいいなー。
 斜め上から笑い声が聞こえた気がして見上げたら、ソフビの貯金箱が嬉しそうに微笑んでいた。
 まずはあのヒトの“住所”を決めよう。
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