109 / 366
4/19『雅な竜と普通の人間』
しおりを挟む
街で竜の雛を拾った。
自然に任せろって良く聞くけど、どうしても放っておけなかった。
だってつぶらな瞳でこっち見て、助けてって鳴くんだもん。まだ人間語喋れないみたいだけど、確実にそう言ってた。
「キミは肉食派? 草食派?」
草陰からそっと拾い上げ、聞いてみるけど竜の雛は首をかしげる。うーん、参ったな。
昔だったら飼育してる人もいたけど、いまは条例で禁止されてる。昔の人が乱獲したり異種交配させたりして、在来種は絶滅危惧種に認定されてるとか。
勝手に棲みついたり懐いたりする分にはいいらしいけど、今回のはー……回復したら野生に戻せばいいか。
色々調べてみたけど、新種なのか珍種なのか、情報は得られなかった。
食べるかわからないけど、人間が食べる用の野菜と肉、数種類を買ってみる。
「好きなのどうぞ」
小皿に乗せた食材を雛の前に置いた。
「肉、焼いたほうが良かったかな。あ、でも自然に戻ったときに不便か」
雛はすべての食材の匂いを嗅いで、野菜を選んだ。お、これならあげやすくて助かる。
結局肉には目もくれなかったから、余った分を焼いて自分で食べた。ウマい。
野菜をたっぷり食べた雛は、バスタオルと段ボールで作った寝床でスヤスヤ眠った。
怪我はないみたいだけど……どこかで親とはぐれちゃったんだろうな。うーん、どうしたものかなぁ……。
ネットで色々調べてたら、人と竜が交流するためのサロンに行き着いた。
起こさないように写真を撮って、『迷い竜の雛、預かってます。』というタイトルで、写真と共に見つけた場所と状況、雛の状態、あげたごはんなんかも書く。
万が一、雅な出生だったりしたら、誘拐犯と疑われるかもしれない。そんなの絶対嫌だから、ホントに細かく状況説明を書いてから送信する。
竜の世話なんてしたことないし、情が移るのもなんだし、すぐ見つかるといいけど……。
なんて思った矢先に返信があった。いまから迎えに行く、とのこと。えぇ、早いな! っていうか住所とか書いてないけどどうやって? とマゴマゴしてたら雛が「ピィ!」と窓に向かって鳴いた。え、声めっちゃ可愛い。
「窓? なんかある?」
カーテンを開けるとそこは夜の闇……じゃなくて、なにかでかいもので視界が塞がれてる。
「うお⁈」
慌てて窓を開けたら、雛が飛んでその物体にぶつかった。
『坊、無事だったか』
「ピィ!」
「え」
声は窓のはるか上、頭を出して見ないとわからない位置から聞こえた。
『すまない、坊が世話になっていたようで』
「いえ。わ」
その竜の親は、ニュースなんかで良く見る『竜の総統』、竜王だった。
『人間界への外交時にはぐれてしまい、ずっと探しておったのだ。誘拐かもしれぬと表沙汰にはできず、弱っているからか交信もできず……』
「交信ができるんですか」
『うむ。竜の間でのみだが。詳細を書き添えてくれたおかげで、あらぬ疑いをかけずに済んだ、ありがとう』
「いえ、お返しできて良かったです」
「ピィ!」
「良かったね、お父さんと会えて」
「ピ!」
雛は嬉しそうに竜王にすり寄っている。
『礼は必ず』
「可愛さをいただいたので、お気になさらないでください」
竜王は私の言葉にハハッと笑って、『では』と飛び立った。竜王の羽ばたきで生まれた風は渦を巻いて、竜と共に上空へ消えていった。
……あーぶねー!
緊張感に抑えられていた汗が、一気にドッと出た。威圧感とかそういうの、おそらく最小限に抑えていたんだと思うけど、それでもやっぱり圧が凄かった。雛にタメ口つかっちゃったけど大丈夫だったかな。いや、なにも咎められてないし、大丈夫だよ。それよりあの投稿、消しておいたほうがいいか……とサロンにアクセスしたら、すでに迷い竜の記事は削除されていた。
もうちょっと一緒にいられるかと思ってたから残念だなー、って考えてたんだけど、その残念さは杞憂に終わった。
「また抜け出してきたの?」
「ピィ」
坊は首を横に振る。一応外出許可は取ってきているらしい。
「ならいいけど……どっか行く?」
「ピ!」
最近は人間語も習っているようで、喋るのはまだできないけどヒアリングはほぼ完ぺきのよう。最初に会った時よりも意思疎通がスムーズだ。
「私も竜語、習おうかなぁ」
気まぐれに呟いたら、坊は思いのほか嬉しがってピィピィはしゃぎだした。
おぉ、マジか。じゃあちょっと、参考書でも探すか……。
「ちょっと坊ちゃんとお買い物に出ますね~」
どこかにいるであろう竜の近衛兵に声をかけると、空から竜用の子供服が降ってきた。それで見た目を隠せということらしい。
坊はイソイソとそれを着て、「ピッ!」と私に笑いかけ、肩に乗った。
「よーし、行こう」
部屋を出て、本屋を目指す。通訳できるくらいまでは頑張るか~。
自然に任せろって良く聞くけど、どうしても放っておけなかった。
だってつぶらな瞳でこっち見て、助けてって鳴くんだもん。まだ人間語喋れないみたいだけど、確実にそう言ってた。
「キミは肉食派? 草食派?」
草陰からそっと拾い上げ、聞いてみるけど竜の雛は首をかしげる。うーん、参ったな。
昔だったら飼育してる人もいたけど、いまは条例で禁止されてる。昔の人が乱獲したり異種交配させたりして、在来種は絶滅危惧種に認定されてるとか。
勝手に棲みついたり懐いたりする分にはいいらしいけど、今回のはー……回復したら野生に戻せばいいか。
色々調べてみたけど、新種なのか珍種なのか、情報は得られなかった。
食べるかわからないけど、人間が食べる用の野菜と肉、数種類を買ってみる。
「好きなのどうぞ」
小皿に乗せた食材を雛の前に置いた。
「肉、焼いたほうが良かったかな。あ、でも自然に戻ったときに不便か」
雛はすべての食材の匂いを嗅いで、野菜を選んだ。お、これならあげやすくて助かる。
結局肉には目もくれなかったから、余った分を焼いて自分で食べた。ウマい。
野菜をたっぷり食べた雛は、バスタオルと段ボールで作った寝床でスヤスヤ眠った。
怪我はないみたいだけど……どこかで親とはぐれちゃったんだろうな。うーん、どうしたものかなぁ……。
ネットで色々調べてたら、人と竜が交流するためのサロンに行き着いた。
起こさないように写真を撮って、『迷い竜の雛、預かってます。』というタイトルで、写真と共に見つけた場所と状況、雛の状態、あげたごはんなんかも書く。
万が一、雅な出生だったりしたら、誘拐犯と疑われるかもしれない。そんなの絶対嫌だから、ホントに細かく状況説明を書いてから送信する。
竜の世話なんてしたことないし、情が移るのもなんだし、すぐ見つかるといいけど……。
なんて思った矢先に返信があった。いまから迎えに行く、とのこと。えぇ、早いな! っていうか住所とか書いてないけどどうやって? とマゴマゴしてたら雛が「ピィ!」と窓に向かって鳴いた。え、声めっちゃ可愛い。
「窓? なんかある?」
カーテンを開けるとそこは夜の闇……じゃなくて、なにかでかいもので視界が塞がれてる。
「うお⁈」
慌てて窓を開けたら、雛が飛んでその物体にぶつかった。
『坊、無事だったか』
「ピィ!」
「え」
声は窓のはるか上、頭を出して見ないとわからない位置から聞こえた。
『すまない、坊が世話になっていたようで』
「いえ。わ」
その竜の親は、ニュースなんかで良く見る『竜の総統』、竜王だった。
『人間界への外交時にはぐれてしまい、ずっと探しておったのだ。誘拐かもしれぬと表沙汰にはできず、弱っているからか交信もできず……』
「交信ができるんですか」
『うむ。竜の間でのみだが。詳細を書き添えてくれたおかげで、あらぬ疑いをかけずに済んだ、ありがとう』
「いえ、お返しできて良かったです」
「ピィ!」
「良かったね、お父さんと会えて」
「ピ!」
雛は嬉しそうに竜王にすり寄っている。
『礼は必ず』
「可愛さをいただいたので、お気になさらないでください」
竜王は私の言葉にハハッと笑って、『では』と飛び立った。竜王の羽ばたきで生まれた風は渦を巻いて、竜と共に上空へ消えていった。
……あーぶねー!
緊張感に抑えられていた汗が、一気にドッと出た。威圧感とかそういうの、おそらく最小限に抑えていたんだと思うけど、それでもやっぱり圧が凄かった。雛にタメ口つかっちゃったけど大丈夫だったかな。いや、なにも咎められてないし、大丈夫だよ。それよりあの投稿、消しておいたほうがいいか……とサロンにアクセスしたら、すでに迷い竜の記事は削除されていた。
もうちょっと一緒にいられるかと思ってたから残念だなー、って考えてたんだけど、その残念さは杞憂に終わった。
「また抜け出してきたの?」
「ピィ」
坊は首を横に振る。一応外出許可は取ってきているらしい。
「ならいいけど……どっか行く?」
「ピ!」
最近は人間語も習っているようで、喋るのはまだできないけどヒアリングはほぼ完ぺきのよう。最初に会った時よりも意思疎通がスムーズだ。
「私も竜語、習おうかなぁ」
気まぐれに呟いたら、坊は思いのほか嬉しがってピィピィはしゃぎだした。
おぉ、マジか。じゃあちょっと、参考書でも探すか……。
「ちょっと坊ちゃんとお買い物に出ますね~」
どこかにいるであろう竜の近衛兵に声をかけると、空から竜用の子供服が降ってきた。それで見た目を隠せということらしい。
坊はイソイソとそれを着て、「ピッ!」と私に笑いかけ、肩に乗った。
「よーし、行こう」
部屋を出て、本屋を目指す。通訳できるくらいまでは頑張るか~。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
見習いシスター、フランチェスカは今日も自らのために祈る
通りすがりの冒険者
ライト文芸
高校2年の安藤次郎は不良たちにからまれ、逃げ出した先の教会でフランチェスカに出会う。
スペインからやってきた美少女はなんと、あのフランシスコ・ザビエルを先祖に持つ見習いシスター!?
ゲーマー&ロック好きのものぐさなフランチェスカが巻き起こす笑って泣けて、時にはラブコメあり、時には海外を舞台に大暴れ!
破天荒で型破りだけど人情味あふれる見習いシスターのドタバタコメディー!
REMAKE~わたしはマンガの神様~
櫃間 武士
ライト文芸
昭和29年(1954年)4月24日土曜の昼下がり。
神戸の異人館通りに住む高校生、手塚雅人の前に金髪の美少女が現れた。
と、その美少女はいきなり泣きながら雅人に抱きついてきた。
「おじいちゃん、会いたかったよ!助けてぇ!!」
彼女は平成29年(2017年)から突然タイムスリップしてきた未来の孫娘、ハルミだったのだ。
こうして雅人はハルミを救うため、60年に渡ってマンガとアニメの業界で生きてゆくことになる。
すべてはハルミを”漫画の神様”にするために!
完 余命1週間の私は、1週間だけの恋をする
水鳥楓椛
ライト文芸
私、柊あゆみは、あと1週間しか生きられない。
生まれた意味も、生まれてからやってきたことも、何もかもわからない。
わからないまま死ぬしかない。
でも、そんなのは嫌だ。
私は、余命1週間を迎えた日、屋上で出会った一目惚れの相手にして自殺未遂犯・柏木奏馬に生きる意味を与えることで、自分が生きた証を残すことを決意する。
生きたいけれど生きれない少女と、生きれるけれど死にたい少年の攻防は、少女の死と共に終了する。
少年が決めた未来は………?
僕らは出会う、青く輝く月明かりの下で。
望月くらげ
ライト文芸
二葉は市内で自殺スポットとして有名な鉄橋の上にいた。
このままここから飛び降りて死んでしまおう。
足をかけた二葉に声をかけたのはうっすらと向こう側が透けて見える青年だった。
自分自身を幽霊だという青年レイから死ぬまでの時間をちょうだいと言われた二葉は、タイムリミットである18歳の誕生日までの四週間をレイと過ごすことになる。
レイは死にたいと言う二葉に四週間の間、鉄橋に自殺に来る人を止めてほしいと頼み――。
四週間後、二葉が選んだ選択とは。
そして、レイの運命とは。
これは死ななければいけない少女と幽霊との切ない青春ストーリー
登場人物
水無瀬 二葉(みなせ ふたば)
高校三年生 17歳
18歳になる四週間後までに死ななければいけない
レイ
鉄橋の地縛霊。
自殺した少年の霊らしい。
死のうとした二葉の時間をもらい、ある頼み事をする
一生に一度だけの魔法
炭酸吸い
ファンタジー
才能を目に見える〈階級〉として分けたリーゼロッテ魔法学園に入学したニアは、入学早々いじめに合う。
学園トップの才能を持つフォルティーニャ・ローゼンバーグは、一切魔法の使えないニアを陰でいじめつつ、教師生徒からの評判も上々。
ある日、フォルティーニャが「一生に一度しか使えない魔法」をニアは持っているという噂を聞いてしまい……
すみません、妻です
まんまるムーン
ライト文芸
結婚した友達が言うには、結婚したら稼ぎは妻に持っていかれるし、夫に対してはお小遣いと称して月何万円かを恵んでもらうようになるらしい。そして挙句の果てには、嫁と子供と、場合によっては舅、姑、時に小姑まで、よってかかって夫の敵となり痛めつけるという。ホラーか? 俺は生涯独身でいようと心に決めていた。個人経営の司法書士事務所も、他人がいる煩わしさを避けるために従業員は雇わないようにしていた。なのに、なのに、ある日おふくろが持ってきた見合いのせいで、俺の人生の歯車は狂っていった。ああ誰か! 俺の平穏なシングルライフを取り戻してくれ~! 結婚したくない男と奇行癖を持つ女のラブコメディー。
※小説家になろうでも連載しています。
※本作はすでに最後まで書き終えているので、安心してご覧になれます。
スメルスケープ 〜幻想珈琲香〜
市瀬まち
ライト文芸
その喫茶店を運営するのは、匂いを失くした青年と透明人間。
コーヒーと香りにまつわる現代ファンタジー。
嗅覚を失った青年ミツ。店主代理として祖父の喫茶店〈喫珈琲カドー〉に立つ彼の前に、香りだけでコーヒーを淹れることのできる透明人間の少年ハナオが現れる。どこか奇妙な共同運営をはじめた二人。ハナオに対して苛立ちを隠せないミツだったが、ある出来事をきっかけに、コーヒーについて教えを請う。一方、ハナオも秘密を抱えていたーー。
常に眠気と戦う勇者!それは僕です!
まゆら
ライト文芸
眠気という名のモンスターと常に戦う毎日。
ベッドの甘い誘惑に負けてしまう僕を笑わないで下さい。
あきらめて寝ます!
頭痛いので今日は休んでいいよね?
おやすみなさい。
眠りを愛する全世界の友と眠気に支配されるのを憎む全てのヒトに愛を込めて!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる