日々の欠片

小海音かなた

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4/8『カリカリ』

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 猫とふたり暮らしをはじめて早数年。
 話しかける相手が猫しかいなくて、人とするように会話してたら、えらいもんで猫も人間語を理解してきた。
 覚えている、もしくは反応する単語は、たいがい猫(自分)に都合のいい、食事系か褒める系か遊ぶ系の言葉。
 たまに危ないことやって叱ってもどこ吹く風。でも頭がいいから同じことを頻繁にやるようなことはしない。
 今日はお給料日だったから奮発して、普段の食事には出さない、ちょっと高級なおやつ系ドライフードをお土産に帰宅した。
「ただいまー」
「にゃぁーん」
 部屋の奥からフローリングを小走りに進む足音。
「はいただいまー。今日もお留守番ありがとねー」
 すり寄る猫を蹴らないように気をつけながら、荷物を持ってキッチンへ。
 買い込んできた自分用の食材を冷蔵庫に入れ、猫用の食べ物をこっそりストック棚へ……
「にゃー!」
「あ、バレた」
 もう外装を見るだけでどんな食べ物なのかわかるらしい。人間にわからないだけで、匂いがするのかも。
「お風呂あがったらごはんにするよ?」
「にゃー!」
「食べ過ぎにならない?」
「にゃー!」
 もう引き下がる気はないらしい。うーん、少しだったらいいか。と手を洗って猫用の食器を出して、湿気ないように分けられた小袋を開けてカラカラと中身を出した。
 キャットタワーの隙間から今か今かと瞳を輝かせる猫。可愛い。
「はいどーぞ」
 決められたごはんの場所に置いたら、キャットタワーから私の背中をわざわざ経由してカリカリを食べに移動した。
 うーん、可愛い。
「じゃあちょっと、お風呂行ってくるね」
 声をかけるけど返事はない。ゆらゆら揺れるしっぽが返事の代わりらしい。
 お風呂に入っているとドアの外からずっと呼び掛けてくるのだけど、ごはんを食べている間は声が聞こえない。
 人間の入浴<自分の食事、なのだろう。
 焦らず入れていいっちゃいいけど、若干寂しかったりもする。すりガラス越しに見える猫の顔って、なんとも言えず可愛いんだよね。
 お風呂からあがったら、猫の夕飯と人間(私)の夕飯の時間。
 今日はお風呂上りに晩酌しようと思って、新発売のおつまみ系スナックを買ってきた。
 髪を乾かして部屋着を着て、猫にご飯をあげて自分の分もイソイソと準備する。
 つまみ用のお菓子を開封する。湿気ないように分けられた小袋から小皿にカラカラ……なんか既視感。
 さっき出した猫用おやつと形状が似てる。猫もそれを感じたのか、ごはんを食べたばかりなのにリサーチしにきた。
「ヒト用だよ」
 言いながら一粒つまんでかがせてみる。あれ? 興味津々。あ、チーズ味だからか。
「ごめん、しょっぱいからダメだ」
 猫の頭を撫でて、つまんだ一粒をほおばる。かみ砕くと中からチーズがトロッと出てくる。さっき見たパッケージに描かれてる猫用おやつとまったく一緒の構造。
 さすがに違うと思うけど、味も一緒だったりして……。
 興味が湧いて、猫用おやつの小袋に残ってた一粒を、こっそりもらって食べてみる。脳内に浮かぶのはテレビでたまに見るテロップの文言。
【※マネしないでください。】
 まぁ自己責任だな、なんて考えつつかみ砕いた。うん、美味しくない。やっぱり味付けがね、猫用と人間用じゃ違うよね。
 口直しに人間用のおつまみを食べたら、食感は似た感じだった。
 隣で猫も食後のおやつとして、入浴前に出したカリカリを食べてる。
 同じものを食べてる気がしてなんだか嬉しくなって、猫と同じようにカリカリ音を立てて噛んだら、ちょっと迷惑そうな顔された。
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