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3/29『浮遊するトーラサンペ』
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マリモって小さな瓶に入った2~3センチくらいの球体のイメージだったんだけど……本場で見た自然のマリモ、マジでけぇ!
持って帰りたいって思ったけど、天然記念物だからダメなんだって。
なんかいい物件紹介してくれそうなのになー。
帰り道に見かけた土産物屋に入ってみる。
指を銜えんばかりに顎に当て、陳列棚を眺めた。
土産物屋で売っているマリモは養殖らしくて、想像してたのと同じような瓶に想像通りのサイズでちょこんと入ってた。
えー、これ、天然のアレと同じくらいになるのかなー。
瓶のそばには『マリモのご飯』とかいう液体。マリモに必要な栄養素が入ってるとか。
うーん、うーんと悩んでいたら、店員さんがやってきた。いわゆる“おばちゃん”な見た目だ。
「いかがですか~? マリモ。可愛いですよね~」
「そうですね。でもやっぱ、天然物の迫力には負けますね」
「あら、湖行ってらしたの?」
「えぇ。こーんなの」とマリモの大きさを手で表現する。「たくさん見てきました」
「あらそぉ。それじゃここのは物足りないわよねぇ」
おばちゃんはなにかを含んだ物言いをした。
「あー、まぁ……」
不思議に思っていると、おばちゃんはそっと近寄ってくる。
「お兄さん、クチ固い?」
「え……どうだろう。普通……?」
「じゃあいいかな」
こっちこっちと手招きするおばちゃんに連れてかれて店内にある階段をくだる。
おばちゃんが重たそうに開けたドアの向こうに、部屋があった。地下室だ。
室内では映画なんかでよく見る培養槽が怪しく光っている。中には大きなマリモが……ってでかすぎね⁈ 俺と同じくらいのサイズのやつあんだけど。
その人間サイズのマリモは、部屋の中央、ひときわ大きな培養層に浮いている。
「この大きいのが“始祖”。すべてのマリモのはじまり」
「……ほんもの?」
「そう」おばちゃんは誇らしげに答える。「ここいら一帯の湖に生息してるマリモは、ぜーんぶこの“始祖”から生まれたの」
え、マリモってそうやって繁殖してるの?
聞いたことないけど、別の説も知らないから否定もできない。
「最近じゃ地球温暖化で天然のマリモが枯れちゃうかも、なんて話があってねぇ。緑の指を持つ人に育ててもらって、こっそり自然に還してるの」
「え、それって……大丈夫な」
「大丈夫!」
おばちゃん店員は食い気味に回答した。あ、怪しい……。
「ほら、おばちゃんももういい年でしょぉ?」
いや、知らんけど。
「誰かこの“始祖”の面倒見てくれる人いないかなーって探しててね? もちろんこのお店もなんだけど」
「はぁ」
「お兄さん、ど?」
「いや、俺会社員なんで……」
「あらぁ、週末だけでもいいのよぉ。いない間はおばちゃん頑張るからさぁ」
「毎週末ここまで来るのはちょっと、交通費が」
「月額三万円までなら出るわよ、お給料と一緒に」
「足らないですね。観光で来てて、飛行機じゃないと帰れないとこに住んでるんで」
「あらそぉ、それは残念」
おばちゃんは案外あっさり引き下がってくれた。
「だったら大きなマリモは譲れないんだけど、お土産用のやつ、買ってく?」
「あ、そうですね。欲しいかも」
おばちゃんは俺を引き連れて店舗フロアまで戻った。途中でまかれて培養層部屋に閉じ込められたらどうしよう、って思ったけど、そんなことはされなかった。
おばちゃんに見繕ってもらって、小さなマリモが入った瓶を2個購入。
「さっきのこと、誰にも言わないでね。誰かに言うと、あなたが妄想家だと思われちゃうから」
口外無用の理由が納得の内容すぎて、首を縦に振った。
お礼を言って店をあとにする。
歩いて最寄り駅まで行く途中で振り返って見たら、湖もお店もちゃんとあった。なにか不思議な出来事に巻き込まれたわけじゃなかったって、ちょっとだけ落胆した。
帰宅して荷解きを終えた。さすがに眠くて、すぐに寝てしまった。
翌朝、朝食の支度をしながら昨日のことを思い返す。
どこまで本当かわかんないけど、ちょっと興味あったなー。
培養槽の光景を思い出して、少しだけ後悔する。でも断っちゃったし~と見たテーブルの上の瓶。
中のマリモが昨日見た時より倍くらいになってるような……いや、気のせい。気のせいだ。ということにしたい……。
もしかしたら、人間と同じくらいの大きさになって、どこかのキャラクターみたいになったりして、なんて想像したら、自分の口から乾いた笑い声が漏れた。
いつか俺よりでかくなったら、いい物件紹介してくれないかな。
持って帰りたいって思ったけど、天然記念物だからダメなんだって。
なんかいい物件紹介してくれそうなのになー。
帰り道に見かけた土産物屋に入ってみる。
指を銜えんばかりに顎に当て、陳列棚を眺めた。
土産物屋で売っているマリモは養殖らしくて、想像してたのと同じような瓶に想像通りのサイズでちょこんと入ってた。
えー、これ、天然のアレと同じくらいになるのかなー。
瓶のそばには『マリモのご飯』とかいう液体。マリモに必要な栄養素が入ってるとか。
うーん、うーんと悩んでいたら、店員さんがやってきた。いわゆる“おばちゃん”な見た目だ。
「いかがですか~? マリモ。可愛いですよね~」
「そうですね。でもやっぱ、天然物の迫力には負けますね」
「あら、湖行ってらしたの?」
「えぇ。こーんなの」とマリモの大きさを手で表現する。「たくさん見てきました」
「あらそぉ。それじゃここのは物足りないわよねぇ」
おばちゃんはなにかを含んだ物言いをした。
「あー、まぁ……」
不思議に思っていると、おばちゃんはそっと近寄ってくる。
「お兄さん、クチ固い?」
「え……どうだろう。普通……?」
「じゃあいいかな」
こっちこっちと手招きするおばちゃんに連れてかれて店内にある階段をくだる。
おばちゃんが重たそうに開けたドアの向こうに、部屋があった。地下室だ。
室内では映画なんかでよく見る培養槽が怪しく光っている。中には大きなマリモが……ってでかすぎね⁈ 俺と同じくらいのサイズのやつあんだけど。
その人間サイズのマリモは、部屋の中央、ひときわ大きな培養層に浮いている。
「この大きいのが“始祖”。すべてのマリモのはじまり」
「……ほんもの?」
「そう」おばちゃんは誇らしげに答える。「ここいら一帯の湖に生息してるマリモは、ぜーんぶこの“始祖”から生まれたの」
え、マリモってそうやって繁殖してるの?
聞いたことないけど、別の説も知らないから否定もできない。
「最近じゃ地球温暖化で天然のマリモが枯れちゃうかも、なんて話があってねぇ。緑の指を持つ人に育ててもらって、こっそり自然に還してるの」
「え、それって……大丈夫な」
「大丈夫!」
おばちゃん店員は食い気味に回答した。あ、怪しい……。
「ほら、おばちゃんももういい年でしょぉ?」
いや、知らんけど。
「誰かこの“始祖”の面倒見てくれる人いないかなーって探しててね? もちろんこのお店もなんだけど」
「はぁ」
「お兄さん、ど?」
「いや、俺会社員なんで……」
「あらぁ、週末だけでもいいのよぉ。いない間はおばちゃん頑張るからさぁ」
「毎週末ここまで来るのはちょっと、交通費が」
「月額三万円までなら出るわよ、お給料と一緒に」
「足らないですね。観光で来てて、飛行機じゃないと帰れないとこに住んでるんで」
「あらそぉ、それは残念」
おばちゃんは案外あっさり引き下がってくれた。
「だったら大きなマリモは譲れないんだけど、お土産用のやつ、買ってく?」
「あ、そうですね。欲しいかも」
おばちゃんは俺を引き連れて店舗フロアまで戻った。途中でまかれて培養層部屋に閉じ込められたらどうしよう、って思ったけど、そんなことはされなかった。
おばちゃんに見繕ってもらって、小さなマリモが入った瓶を2個購入。
「さっきのこと、誰にも言わないでね。誰かに言うと、あなたが妄想家だと思われちゃうから」
口外無用の理由が納得の内容すぎて、首を縦に振った。
お礼を言って店をあとにする。
歩いて最寄り駅まで行く途中で振り返って見たら、湖もお店もちゃんとあった。なにか不思議な出来事に巻き込まれたわけじゃなかったって、ちょっとだけ落胆した。
帰宅して荷解きを終えた。さすがに眠くて、すぐに寝てしまった。
翌朝、朝食の支度をしながら昨日のことを思い返す。
どこまで本当かわかんないけど、ちょっと興味あったなー。
培養槽の光景を思い出して、少しだけ後悔する。でも断っちゃったし~と見たテーブルの上の瓶。
中のマリモが昨日見た時より倍くらいになってるような……いや、気のせい。気のせいだ。ということにしたい……。
もしかしたら、人間と同じくらいの大きさになって、どこかのキャラクターみたいになったりして、なんて想像したら、自分の口から乾いた笑い声が漏れた。
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