日々の欠片

小海音かなた

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3/8『ビールと一緒にそそぐ愛』

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 郵便受けに不在票が入ってた。
(あっ!)
 すぐに思い当って足早に宅配ボックスへ。
(来た来た)
 ずしりと重いそれは彼女への誕生日プレゼント。前から欲しがってたけど悩みに悩んで買わなかったやつ。
 強くないのにお酒が好きで、すぐに酔っぱらってヘロヘロになっちゃう可愛い彼女。あんまり飲ませすぎると体調悪くしちゃうから、いつもは適度にって止めてる。でもこれを贈ったらそういうの言えないかなぁ、なんて思いつつ、結局ポチッてしまった。
 一緒に住んでると隠せる場所もないから誕生日当日に届くようにして、彼女が仕事に行ってる間に回収しようと今日は午後休にした。そのおかげで彼女に見つかることなく受け取り完了。
 帰っても誰もいない部屋が少し新鮮。彼女が帰ってくる前に部屋を飾ろう。
 風船はヘリウムガスで浮かせようかと思ったけど、浮力がなくなってくると寂しい気持ちになるから普通に酸素を入れて天井から吊るした。壁にも色々貼り付けて……おぉー、なんかオシャレ。いいねぇ。
 次に料理……と行きたいところだけど、残念ながら全然できない。だからデリバリーを予約済み。
 でも一品くらいは、と思って、市販のスポンジケーキをデコレーションすることにした。スポンジケーキを出して、生クリームを泡立てる。うわ、もうこんな時間。
 彼女が普通のことみたいにやってくれてるから普段わからないけど、自分でやると彼女のすごさを実感する。
 今日は体調悪くならない程度に酔ってもらって、後片付け全部ひとりでやろう。
 なんてことを考えながら、生クリームをぺたぺた。彼女が好きなイチゴも挟んでクリーム塗って、上にまたスポンジケーキ。あとは周りに塗るだけ、なんだけど、これが想像以上に難しい。
 悪戦苦闘して塗り終えたけど、あんまりキレイにはならなかった。
 ロウソクやマジパンで飾って、一応完成。乾燥防止にボウルをかぶせて冷蔵庫へ。
 あとはなんだ……と部屋を見回してたら、玄関でドアを開錠する音が聞こえた。やばい、帰ってきちゃった。
 もうできることはただひとつ。
 部屋の電気を消す。
「ただいまー」
 え、いるのバレた? そういえば靴置きっぱなしじゃね?
 って思ったけど、別に俺に向かって言ったわけじゃないみたい。誰もいなくても挨拶する彼女、可愛いんだけど。
 彼女が内カギを施錠し、廊下を歩いてリビングへ……あ、クラッカー。いやいいか、驚かせるだけだわ。
 毎年喜んでくれるし今年もきっと喜んでくれるだろうってわかってるけど、それでもドキドキするんだよなー。
 リビングのドアを開けて電気のスイッチを入れて「えっ」彼女が声をあげた。
「お誕生日おめでとー!」
「ひゃっ! えっ! わー! ありがとう!」
 なにに驚いたのか自分でもわかってない様子の彼女が、左右に身体を動かしてハワハワしてる。あー可愛い。
「荷物ちょうだい?」
「ありがとう。とりあえずこれを冷蔵庫に」
「ありゃ、今日の分? デリ頼んじゃった、ごめん」
「全然。生ものないし、明日食べよ」
「うん」
 返事しつつ冷蔵庫へ向かう。
「片づけとくから着替えておいで」
「ありがとう」
 彼女が部屋へ行ったスキに食材をすべて冷蔵庫へ。“ケーキを出す前に彼女に冷蔵庫を開けさせない作戦”成功。
 彼女が着替え終えたところでデリバリーが届いた。蓋は空けずにテーブルに乗せて、ディナーの準備完了。
「まずはお誕生日、おめでとう」
 さっき届きたての箱をテーブルに置いた。
「ありがとう~。えー、なんだろう」
 ワクワクしながら包みを丁寧に開けた彼女の顔に、驚きと嬉しさがにじむ。
「え……飲んでいいの?」
「ほどほどにね。でも今日は二人きりだから、体調悪くならない程度までならいいよ」
「えー、嬉しい~」
「中身セットして乾杯しよ」
「うん」
 二人で説明書を読みながら設置して、早速グラスに注いでみる。
「「おぉー!」」
 プロが注いだみたいな泡の比率!
 乾杯して、彼女がビールを飲むところを見守る。
「んー! 美味しい!」
「良かった」
 満足そうな顔の彼女を見て、嬉しさが広がる。安心して自分も一口。確かに旨い。
「あ、ケーキあるから、その分お腹空けといてね」
「はぁい」
 二人でディナーを食べ終え、酔い始めた彼女から一旦ビールを回収してケーキに合うよう紅茶を出す。
 不格好なケーキを見て、彼女が思いのほか喜んだ。
「これって手作り?」
「市販のスポンジケーキにデコレーションしただけ。ごめん」
「なんで! すごく嬉しい! ありがとう!」
 毎年この笑顔を見るたび、本当に嬉しくなる。
 ケーキを食べ終わって今度はワインで乾杯。あぁ幸せ。
 この先も一生、喜んでもらえるように頑張ろう。と誓って、ソファに横たわる彼女を見守りつつ後片付けを始めた。
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