日々の欠片

小海音かなた

文字の大きさ
上 下
66 / 366

3/7『花粉とモテの関連性』

しおりを挟む
 なぜかこの時期だけモテる。
 長年の謎だったんだけどようやくわかった。
 花粉のせいで弱ってるからだ。

 いつもの私は“シャキシャキ”というか“チャキチャキ”というか。仲の良い友達に言わせると“がさつ”らしい。
 言いたいことは言っちゃうし、人のことバンバン叩くしおしゃべりだし。
 それが本来の自分だから、そこを否定されちゃうとちょっと悲しい。
 親戚に『黙ってれば美人』って言われてガチギレしたこともあるし、そういう、『女の子なんだから』みたいのそろそろやめない? 時代遅れだよと思う。
 マスクしてるから気づかないだけで、鼻かみすぎて赤いしボロボロなんだけどなぁ。目元がかわいきゃいいんかね。
 でもまぁ、いつもより呼吸が浅いから頭ボーッとするし、ダルくて力を入れるのもおっくうだから、優しくしてもらえるのはありがたいかな。なんてボーッと考えてたら時間が過ぎて行った。

 ようやく春が終わって。
 私はいつものシャキシャキ、チャキチャキした自分に戻る。そうそう、これこれ。あー、呼吸が楽!
 うひょー! って叫びながらむやみに走り回りたい気分だけど、様子がおかしい人だと思われたくないからグッとこらえて学校へ行く。挨拶してきた男子たちは、私がマスクしてないのを見てガッカリしてた。
 そうだよ、また“ガサツな私”に元通りだよ。
 小学生の私だったら手に持った荷物でビシバシ叩いてたかもだけど、私ももう高校生。頭の中で歯をむき出して『いー!』ってするだけに留まる。なんて大人なんだろう!
 軽い足取りで学校の敷地内へ。
 右になにかの気配を感じてとっさに鞄でガードしたら、強い衝撃と共に地面に球体が落ちた。
「いって……!」
 転がったのはサッカーボール。誰かが蹴ったやつが私めがけて飛んできたらしい。
「おいー」
 鞄で避けてなかった頭直撃だよ。あっぶなー!
 拾ったボールを蹴り返そうとしたら、飛んできた方向から誰か走ってきた。
「ごめん! ぶつかってない⁈ 大丈夫⁈」
 慌てて来たのは見たことない顔。服装からしてサッカー部の人だ。
「うん……鞄は、若干壊れたっぽいけど」
 留め具の部分にクリーンヒットしたようで、パカッと開いている。
「うわ! ごめんなさい! あの、それは弁償するので連絡先を……いや、怪我してないかが先か。痛いところとかは?」
「手がちょっと……」
 衝撃を吸収したからか少し痺れてる。でも別に、骨が折れたとかそういう感じじゃ……
「!」
 手中のボールが地面に落ちる。先輩が私の手を取ったから。
「わ、赤くなってる。ほんとごめん。冷やそう」
「あ、や、だ、大丈夫、です」
 いつもなら手を引いて離れるだろうけど、なぜかそれができない。
 この人の手、心地いい。
「そう? もしあとから痛くなったりしたら、絶対に言ってね」
「う、うん」
「連絡先……は、いまなにも持ってないから……学年とクラス、教えてもらっていいかな?」
「えっと、二年の……」
 私の所属クラスを聞いたその人は自己紹介してボールを回収して、コートに戻っていった。
 私はしばらくその場から動けなくて、先輩が去った方向をじっと見ていた。
「おーはよっ。どしたの? ボーッとして」
 友人の声で我に返る。
「あ? や。なんでも」
「そ? マスクしないで平気なの? ウルウルしてるけど」
「えっ。ウルウル……してる?」
「してる。まだモテ期続行しそうな感じ」
「そ、そうかな……」
 いまの自分は普段の自分と違う。もちろん、花粉症だった自分とも。

 初恋

 なんて二文字が脳内に浮かぶ。
 どうしよう、私。先輩のこと、好きになったかも。
 もし私がずっとウルウルの状態でいたら、ずっと“モテ期”のままで、先輩にも好きになってもらえるかな……。

 その日を境にまたモテだしたんだけど、先輩以外に優しくされても、感謝するだけでドキドキはしなくて……。
 はぁ。
 思わず“アンニュイな溜息”が漏れる。
 明日は先輩と約束した“新しいカバンを買いに行く”日。
 あぁどうしよう。なに着て行こう。メイクとかしたほうがいいかなぁ。あ、でもメイク道具なんてもってない……。
 はぁ。
 溜息に見かねた友人がやってきた。
「なに? 恋?」
「えっ、う」
「わっかりやすいなー。相談乗らせてよ。そういう話だいすき」
「……茶化さない?」
「茶化すわけないでしょ! とりあえず今日の帰り、どっか寄ろ」
「うん」
 そうして、私は幼馴染に初めての恋の相談を持ち掛けることになった。
 お小遣いをはたいて服とかメイク道具とかをそろえてレクチャー受けて、いざ出陣。待ち合わせの場所には少し早く着いてしまった。
 深呼吸して、記憶を呼び戻す。
 花粉の時期の自分を見習って、少しでも可愛く思ってもらえるように。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

彡(゚)(゚)あれ?ワイは確かにマリアナ沖で零戦と共に墜とされたはずやで・・・・・?(おーぷん2ちゃんねる過去収録のSS)

俊也
キャラ文芸
こちらは、私が2015年、おーぷん2ちゃんねるのなんでも実況J(おんJ) にて執筆、収録された、いわゆるSSの再録です。 当時身に余るご好評を頂いた、いわば架空戦記の処女作と申しますか。 2ちゃん系掲示板やなんJ、おんJの独特の雰囲気が色々ありましょうが、お楽しみ頂ければ幸いです。 お後、架空戦記系としては姉妹作「新訳 零戦戦記」 「総統戦記」も目をお通し頂ければ幸いです。 お時間なくば取り急ぎ「お気に入り登録」だけでも頂けましたらm(_ _)m

二階建て空中楼閣のF

鳥丸唯史(とりまるただし)
ライト文芸
扇ヶ谷家のモットー『日々精進』から逃げるようにして始まった大学生活。 住む部屋を探しに行きついたのは謎の不動産屋トウキョウスカイホーム。 おすすめ物件は空を飛んでいる家。 宇宙喫茶で働く宇宙人と、ギタリストの自称天使とシェアハウスだ。 大学では魔術愛好会の会長に恋をされ、空からは鳥人間が落ちてくる。 諦めたはずのベーシストの夢と共に翻弄されながら、俺は非日常生活を強いられ続けるしかないのか? ※約22万文字です。 ※小説家になろうに改稿前のがあります。 ※たまにコピペがミスったりやらかしてます。気がつき次第修正してます(感想受け付けていないせいで気づくのが遅い)

北と南の真ん中に立つ私

池田 瑛
ライト文芸
○ログアウトが出来ない仮想空間で生きることになった「俺」は、冒険者として生きることになった。 ●「僕」は、平凡な高校生活を過ごしている。友達以上、恋人未満な幼なじみの詩織との変化が無いような日々。 別世界で生きる「俺」と「僕」の運命は交差することはない。だけど、「私」は、そんな運命を拒絶する。これは「私」の罪物語。

掌編怪奇

荒瀬ヤヒロ
ホラー
男子高校生のちょっとだけ怪奇な日常。 1000文字程度の掌編。木曜更新。

藤堂正道と伊藤ほのかのおしゃべり

Keitetsu003
ライト文芸
 このお話は「風紀委員 藤堂正道 -最愛の選択-」の番外編です。  藤堂正道と伊藤ほのか、その他風紀委員のちょっと役に立つかもしれないトレビア、雑談が展開されます。(ときには恋愛もあり)  *小説内に書かれている内容は作者の個人的意見です。諸説あるもの、勘違いしているものがあっても、ご容赦ください。

旧・透明少女(『文芸部』シリーズ)

Aoi
ライト文芸
 自殺した姉マシロの遺書を頼りに、ヒマリは文芸部を訪れる。自殺前に姉が書いたとされる小説『屋上の恋を乗り越えて』には、次のような言葉があった。 「どうか貴方の方から屋上に来てくれませんか? 私の気持ちはそこにあります」  3人が屋上を訪れると、そこには彼女が死ぬ前に残した、ある意外な人物へのメッセージがあった……  恋と友情に少しばかりの推理を添えた青春現代ノベル『文芸部』シリーズ第一弾!

ただ、笑顔が見たくて。

越子
ライト文芸
時は明治。秋田県阿仁集落に辰巳というマタギの青年がいた。 彼には子供の頃から一緒に過ごしたハナという女性がいたが、ハナは四年前に身売りされてしまう。 いつまでもハナを忘れる事ができず憂鬱気味な辰巳に、マタギ仲間の平次は苛立ちを覚えていたが、とある依頼で熊撃ちをしたところに転機が訪れた。 ハナは盛岡の女郎屋にいるとのことだった。 ハナに会いたい一心で、辰巳は平次と共に盛岡へ向かう。 彼らの行動は全て「もう一度、笑顔が見たい」――ただ、それだけだった。

美味しいコーヒーの愉しみ方 Acidity and Bitterness

碧井夢夏
ライト文芸
<第五回ライト文芸大賞 最終選考・奨励賞> 住宅街とオフィスビルが共存するとある下町にある定食屋「まなべ」。 看板娘の利津(りつ)は毎日忙しくお店を手伝っている。 最近隣にできたコーヒーショップ「The Coffee Stand Natsu」。 どうやら、店長は有名なクリエイティブ・ディレクターで、脱サラして始めたお店らしく……? 神の舌を持つ定食屋の娘×クリエイティブ界の神と呼ばれた男 2人の出会いはやがて下町を変えていく――? 定食屋とコーヒーショップ、時々美容室、を中心に繰り広げられる出会いと挫折の物語。 過激表現はありませんが、重めの過去が出ることがあります。

処理中です...