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2/21『モノ思ふ猫』
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ワガハイは猫である。名前はまだな「コタ―」あった。
「にゃい」
「あぁ、いたいた。お茶するけど、一緒におやつする?」
「にゃー」
カイヌシは陽が落ちる前に、一度なにかを食べる。太るぞ、と思いつつ、僕も一緒におやつできるから黙認してる。
「コタも少し痩せないとねぇ」
なんて言いながらカイヌシはおやつ用カリカリを皿に出した。
大丈夫だ、お前よりは運動している。
そう思いながらカリカリを食べる。うん、旨い。
僕が犬なら一緒に散歩に行けるんだけど、いや、僕も散歩くらい行けるんだけど、カイヌシはそれを知らないから一緒に運動することはない。僕が人間の言葉を喋れたらカイヌシとの意思疎通も容易なのに、なかなか難しい。
カイヌシは良く僕に「猫又になって長生きしてね~」って言う。実はもう修行中なんだけど、伝える方法がないから言えない。
僕が本当に人間の言葉を喋ったら、カイヌシは豹変して僕を怖がったり、悲しがったり、売り物にするかもしれない。
わからないからちょっと怖い。
それよりも怖いのは、僕が猫又になれたとき、カイヌシが先にいなくなるだろうということ。
家の中でぬくぬく育った“箱入り猫”の僕が、いまさら野良猫のように逞しくなれるとは思えない。だからカイヌシには早く伴侶を見つけて、子孫を残してほしいんだけど……。
横目で見たカイヌシはおやつを食べながらテレビを見て、のほほんとしてる。彼氏を連れて来たこともない。スマホで連絡を取ってる感じもない。お節介なのはわかってるけど、ちょっと由々しき問題である。
僕が犬なら散歩中に良さげな人間と引き合わせられるのになぁ。
「にゃ……にゅにゅ……ふゃー」
「……どうしたの。どっか痛い? 気持ち悪い?」
発声練習をしていたらカイヌシに心配された。
「に……にゃいにょうにゅ」
全然猫語。なにが違うんだ。舌か、喉か、それとも歯?
しかし拙い人語でも伝わったみたいで、カイヌシは満面の笑みを浮かべてる。
「喋れるの? 人間語。遠慮なくどうぞ」
少し期待に満ちたような顔。うーん、カイヌシやっぱそう言うよね。
「にゃねねにゅ。にぇん、にゅうにゅう」
喋れる。練習中。
だけどカイヌシは「ニューニュー? ほしい?」僕が牛乳を欲してると勘違いしたみたい。
「にゃにゃっ」
首を振ったら
「そっか。欲しくなったら教えてね」
ってカイヌシ答えた。意外に通じてる!
嬉しくなってカイヌシがいるところでも人間語の練習するようになったら、カイヌシも耳が慣れてきたみたいで割と聞き取ってもらえるようになった。最近では簡単な会話ができるくらい。
お腹すいた、喉乾いた、トイレした、ちょっと痛いところある……。
伝えるたびにテキパキと応じてくれるカイヌシ。ありがたいとしみじみ思う。
病院で順番を待っている間、猫テレパシーで馴染みのやつと会話したら、そこんちのカイヌシは喋る猫、って動画をSNSに載せたらしく、こりゃあんまりカイヌシの前でハッキリ喋っちゃいかんと口をつぐんだとか。
そういやうちのカイヌシはそういうのやらないなぁ、って気づいて、見世物として売られる心配は除外した。
「コタは最近おしゃべりだねぇ。意思の疎通できるの嬉しいよ」
「にょうにゃ」
「……もしかして、ほんとにヒト語、喋ってる?」
「……うん」
ためらって、でも試してみたくて頷いたら、カイヌシ、泣いた。
「にょっ!」
慌てた僕のしっぽがボムッってなる。
「ごめん、だいじょぶ。嬉しくて……でもまだ二本じゃないんだね」
落ち着かせるように撫でたしっぽの先を指で優しくグニグニして確認した。でもねカイヌシ、元々ある尻尾が分かれるんじゃなくて、根元から新しいのが生えてくるんだって。なんて複雑な説明はまだできない。
「にゅにょーちゅ」
「修行中?」
「にゃ」
「そうか。じゃあ私も長生きしないと。っていうか、私より長く生きられるようになるなら、ちょっと色々考えないと」
僕の頭を優しくなでるカイヌシの目から涙が次々こぼれる。
「子孫残さないと、コタローひとりになっちゃうもんねぇ」
「にゃ」
「まずは彼氏探すから、コタローも気に入る人、一緒に見つけて?」
「にょ」
「ん、よろしくね。じゃあとりあえず、マッチングアプリでもダウンロードしようかな」
カイヌシは泣き止みソファに座ってスマホをいじる。僕も膝の上で一緒になって画面を見る。あんまり良く見えないけど。
置かれてるカフェオレに牛乳の匂いを感じて近づいたら、それはダメって手で封じられた。
「コタはそのうちお酒も飲んじゃいそうで心配だなぁ」
ってカイヌシまたウルウル。
あの物語の猫のように水に落ちたりはしないから、そんなに泣かないでくれ。って手に手を置いたら「肉球~♡」って手をグニグニされた。
「にゃい」
「あぁ、いたいた。お茶するけど、一緒におやつする?」
「にゃー」
カイヌシは陽が落ちる前に、一度なにかを食べる。太るぞ、と思いつつ、僕も一緒におやつできるから黙認してる。
「コタも少し痩せないとねぇ」
なんて言いながらカイヌシはおやつ用カリカリを皿に出した。
大丈夫だ、お前よりは運動している。
そう思いながらカリカリを食べる。うん、旨い。
僕が犬なら一緒に散歩に行けるんだけど、いや、僕も散歩くらい行けるんだけど、カイヌシはそれを知らないから一緒に運動することはない。僕が人間の言葉を喋れたらカイヌシとの意思疎通も容易なのに、なかなか難しい。
カイヌシは良く僕に「猫又になって長生きしてね~」って言う。実はもう修行中なんだけど、伝える方法がないから言えない。
僕が本当に人間の言葉を喋ったら、カイヌシは豹変して僕を怖がったり、悲しがったり、売り物にするかもしれない。
わからないからちょっと怖い。
それよりも怖いのは、僕が猫又になれたとき、カイヌシが先にいなくなるだろうということ。
家の中でぬくぬく育った“箱入り猫”の僕が、いまさら野良猫のように逞しくなれるとは思えない。だからカイヌシには早く伴侶を見つけて、子孫を残してほしいんだけど……。
横目で見たカイヌシはおやつを食べながらテレビを見て、のほほんとしてる。彼氏を連れて来たこともない。スマホで連絡を取ってる感じもない。お節介なのはわかってるけど、ちょっと由々しき問題である。
僕が犬なら散歩中に良さげな人間と引き合わせられるのになぁ。
「にゃ……にゅにゅ……ふゃー」
「……どうしたの。どっか痛い? 気持ち悪い?」
発声練習をしていたらカイヌシに心配された。
「に……にゃいにょうにゅ」
全然猫語。なにが違うんだ。舌か、喉か、それとも歯?
しかし拙い人語でも伝わったみたいで、カイヌシは満面の笑みを浮かべてる。
「喋れるの? 人間語。遠慮なくどうぞ」
少し期待に満ちたような顔。うーん、カイヌシやっぱそう言うよね。
「にゃねねにゅ。にぇん、にゅうにゅう」
喋れる。練習中。
だけどカイヌシは「ニューニュー? ほしい?」僕が牛乳を欲してると勘違いしたみたい。
「にゃにゃっ」
首を振ったら
「そっか。欲しくなったら教えてね」
ってカイヌシ答えた。意外に通じてる!
嬉しくなってカイヌシがいるところでも人間語の練習するようになったら、カイヌシも耳が慣れてきたみたいで割と聞き取ってもらえるようになった。最近では簡単な会話ができるくらい。
お腹すいた、喉乾いた、トイレした、ちょっと痛いところある……。
伝えるたびにテキパキと応じてくれるカイヌシ。ありがたいとしみじみ思う。
病院で順番を待っている間、猫テレパシーで馴染みのやつと会話したら、そこんちのカイヌシは喋る猫、って動画をSNSに載せたらしく、こりゃあんまりカイヌシの前でハッキリ喋っちゃいかんと口をつぐんだとか。
そういやうちのカイヌシはそういうのやらないなぁ、って気づいて、見世物として売られる心配は除外した。
「コタは最近おしゃべりだねぇ。意思の疎通できるの嬉しいよ」
「にょうにゃ」
「……もしかして、ほんとにヒト語、喋ってる?」
「……うん」
ためらって、でも試してみたくて頷いたら、カイヌシ、泣いた。
「にょっ!」
慌てた僕のしっぽがボムッってなる。
「ごめん、だいじょぶ。嬉しくて……でもまだ二本じゃないんだね」
落ち着かせるように撫でたしっぽの先を指で優しくグニグニして確認した。でもねカイヌシ、元々ある尻尾が分かれるんじゃなくて、根元から新しいのが生えてくるんだって。なんて複雑な説明はまだできない。
「にゅにょーちゅ」
「修行中?」
「にゃ」
「そうか。じゃあ私も長生きしないと。っていうか、私より長く生きられるようになるなら、ちょっと色々考えないと」
僕の頭を優しくなでるカイヌシの目から涙が次々こぼれる。
「子孫残さないと、コタローひとりになっちゃうもんねぇ」
「にゃ」
「まずは彼氏探すから、コタローも気に入る人、一緒に見つけて?」
「にょ」
「ん、よろしくね。じゃあとりあえず、マッチングアプリでもダウンロードしようかな」
カイヌシは泣き止みソファに座ってスマホをいじる。僕も膝の上で一緒になって画面を見る。あんまり良く見えないけど。
置かれてるカフェオレに牛乳の匂いを感じて近づいたら、それはダメって手で封じられた。
「コタはそのうちお酒も飲んじゃいそうで心配だなぁ」
ってカイヌシまたウルウル。
あの物語の猫のように水に落ちたりはしないから、そんなに泣かないでくれ。って手に手を置いたら「肉球~♡」って手をグニグニされた。
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