日々の欠片

小海音かなた

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2/7『赤い金』

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 あんまりそだつと色がうすまって、ただのフナになっちゃうから大きすぎる水そうはダメだってパパが言った。
 ワタシには大きくなれって言うのに金魚は大きくなっちゃダメなんだって。
 おとなってたまによくわからないことを言う。
 おまつりの日に夜店ですくった2匹の金魚は、キッチンカウンターの上に置かれた水そうの中で泳いでる。
 パパが買ってくれた石とか草とかおうちが一緒に入ってて、空気の玉がポコポコふき出ておもしろい。
 ごはんはワタシといっしょで朝とお昼と夜。小さなつぶつぶのご飯を入れると、ぷかぷか浮いたそれに気づいて泳いできて、食べてくれる。カワイくてなんどもあげたくなるけど、一日三回ねってパパに言われた。人間と一緒で、食べすぎると体によくないんだって。
 赤の金魚は【マカ】ちゃん、赤と白と黒がまざった金魚は【コイ】ちゃん。
 マカちゃんは『真っ赤』だから。コイちゃんはテレビで見た『にしきごい』にモヨウが似てたから。
 水そうのおそうじは日よう日にパパが一緒にやってくれる。そうか。水そうが大きいとおそうじも大変なんだ、って言ったら、パパがうなずいた。
「でもそのうち赤ちゃんが生まれたら、大きな水槽にしないとかもなぁ」
「赤ちゃん生まれるの?」
「もしかしたらね。マカちゃんとコイちゃん、男の子か女の子かわかんないから」
「そーなんだ」
 ネットで調べてみよっかってパパが言って、マカちゃんコイちゃんを水そうに戻したあと調べてみたけど、見分けるのがとてもむずかしいらしい。
 写真と見比べてもどこがどうなのかよくわからなかった。かんさつのためにじっくり見たら、マカちゃんコイちゃんがカワイイってことはわかった。

 マカちゃんはおうちの中でねるのが好き。コイちゃんは空気のアワにあたるのが好き。
 ママが、ワタシたちと一緒で『こせい』があるんだよって言った。
 知ってる、こせい。夕方のアニメでもそういうのあった。人それぞれにあるトクベツなやつ。
 たまにマカちゃんがコイちゃんの、コイちゃんがマカちゃんの好きなことをやったりしてるの見ると、なんだかうれしくなる。
 ふたりはお友だちなんだなってわかるから。
「いいなぁ、お友だち」
 って言ったら、パパとママが少しさみしそうなカオになった。
 ごめんなさい、って言ったらかなしそうなカオになるってしってるから、言わない。
 ワタシのビョーキはママやパパのせいじゃない。ワタシががんばって大きくなれば、いつかなくなるっておいしゃのセンセイが言ってた。
 そしたら学校にも行けて、きっとお友だちもたくさんできるもん。
 でもいまは、マカちゃんとコイちゃんがワタシのお友だち。そうきめた。

 ビョーインからおうちにもどって、水そうの前でふたりにはなしかけることにした。きっとお友だちにも、おんなじようにするだろうなって思ったから。
 毎日おしゃべりしてたら、ある日コイちゃんがしゃべった。
『キミが良く話しかけてくれるから、人間の言葉覚えちゃったよ』
 マカちゃんも口からアワを出しながら言う。
『ほんとほんと。アナタの声は水の中でも良く聴こえるわ』
 あわててママにほうこくしたら、ママは笑った。
「ホント、喋ってるみたいにお口パクパクしてるわね」
 ちがうよ、ほんとにしゃべってるんだよって言ったのにママはニコニコするだけ。ワタシの言うこと信じてないみたい。
『大人ってそういうものだよ。子供の言うことの半分は空想だって思ってるんだ』
「くうそう?」
『こうなったらいいな、とか、こうできたらいいな、とか考えることよ』
「ふぅん。じゃあワタシがお友だちたくさんほしい、って思うのも、くうそう?」
『それは“希望”かなぁ』
「えー、むずかしくてよくわからないよー」
『おとなになればわかるさ。ねぇマカちゃん』
『そうね、コイちゃん』
* * *
 水槽の前で頬杖をつき楽しそうに喋る娘を見守る父母。
「今日ね、あのこ、金魚が喋ったって」
「へぇ? なんて言ってたって?」
「そこまでは聞かなかったけど」
「将来は物語を創る仕事でもするかな」
「気が早いよ」
「そうだなぁ……まずは手術、頑張ってもらわらないと……」
「そうね……」
 母がうつむいて黙った。
「大丈夫だよ。心はとても強い子に育ったんだから。きっと、絶対、治るよ」
「……そうね」
 先ほどと同じ言葉。しかし声色に少しの強さが戻る。
「さぁ、夕飯にしようかな」
 母は立ち上がって娘に言った。
「ご飯作るよー。今日はなにがいい?」
「オムライス!」
「はーい、オムライスね。マカちゃんコイちゃんのご飯、準備お願いね」
「はぁーい」
 父はスマホでその光景を撮影する。この先も同じように、娘の成長を記録できるよう願いながら。
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