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2/4『硬度100パーセント』
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「ほらこれ、似てない?」
『ワシはそのようにカラフルではないぞ』
「色じゃなくて、見た目がさ」
『この器を客観的に見たことがないから良くわからんな』
「いま色の話したじゃん」
『顔だけ出したときにかろうじて見えるのだ。全体像はわからんよ』
「そっか」
『そもそも仮の身体でもないしだな』
「あー、入れ物みたいな感じ?」
『そうだ』
河原で魔王入りの石を拾ってから早数週間。いまではそこにいるのが当たり前の光景になった。
学校から帰ってその日の事を話すうちに、だんだん打ち解けてきた気がする。
「そういえば聞いてなかったんだけど、魔王はどんな悪さして封じられちゃったの?」
『悪さなどしておらん』
「え? それは魔界基準ではってこと?」
『違う。世代交代がうまくいかず、魔王の座を奪還したい者から刺客が送られてきたのだ』
「なにそれ、ひどい」
『よくある話だ。幸い消されはしなかったが、一人の刺客に呪術の心得があったようで、この世界のこの石に封じられてしまった』
「すごく強い人だったんだ」
『そのようだな。魔界ならまだしも異世界ではどうすることもできず、ただずっとあそこにいたのだ』
「で、俺と出会ったわけか」
『そうだ』
「もし封印が解けたら、魔王はどうするの?」
『できれば魔界に戻りたいが、戻ったところで……』
「“玉座にはもう違う人がいる”?」
『あぁ。もう玉座はいいのだが、魔界の平和が保たれているか心配でな。様子は見たいと思っている』
「刺客を送り込むようなやつが平和を保てるとも思えないけど」
『そうなのだ。しかしもうそれも随分昔の話……もしかしたらまた世代交代があったかもしれぬし、戻ったところで世間に取り残されるのではないかと、最近は思うようになった』
「昔ってどのくらい?」
『こちらの世界でザッと百年とちょっと、か』
「え、魔王いくつ」
『年齢という概念はないのだが……魔界は二百年ほど統治しておったな』
「うわ、超年上じゃん。タメ口きいてたわ」
『別にかまわん、そのようなこと』
「俺が構うよ。解放されたとき気まずいじゃん」
『別に気にせん。いままで通りでいてくれ』
「魔王がそう言うなら……」
釈然としないけど、押し問答しても仕方ないから受け入れた。
「にしても、最初会ったときは解放してほしいって言ってたのに、心境の変化でもあったの?」
『河原は情報が少なかったからな。ここに置いてもらってテレビで色々なものを見たり聞いたりしているうちに、本当に違う世界の違う時代におるのだな、と実感したのだ』
「なるほど」
『河原にいたとき、この国もだんだんと変わっていくと感じておったが……自国となるともっと顕著だろうなと思うと……』
「でも窮屈でしょ?」
『それはそうだが、この国の住居にワシの身体はちと大きい』
「何メートルくらいあるの?」
『この世界の建造物で言うと……』
魔王はとある有名な像を喩えに出してくれた。
「でか。それは無理」
『だろう? ならばもっと力を蓄え、石に宿りながら動けるようになったほうが“自由”なのではないかと思い始めてな』
「魔王がそれでいいならいいけど」
『力がある程度戻れば、最初に言っていた“望みを叶える”ことも不可能ではないしな』
「いいよそれはもう。愚痴とか色々聞いてもらってんだしさ」
『そのくらいどうということはない。捨ておかずにいてくれたことへの恩返しがしたいのだ』
「……じゃあ、考えておくよ、“望み”」
『うむ、そうしてくれ』
魔王の声には少しの楽しさが混ざっていて、それが嬉しかった。
願いという願いはいまはない。
将来に対して漠然とした不安はあるけど、なりたいものが見つかっていないからそれを望むこともできない。
いまの一番の願いは……
「魔王が窮屈な器から抜け出せますように、っていうのはどう?」
考えておけと言われてから数日、提案してみたら魔王がふっと笑った。
『できたらとっくに自分でしておる』
「それもそうか」
『その願いは気持ちだけで充分だ。自分のためになることを願え』
「いまはあんまり、コレってのが思いつかないんだよ」
『ゆっくりでいい。お前にはまだ時間がある』
「うん。じゃあ、じっくり考える」
『うむ』
俺の望みは魔王が叶えてくれるけど、魔王の望みは誰が叶えてくれるんだろう。
そんなことを思いながら、コントローラーで画面の中のカラフルな楕円を積み上げていく。
同じ色を隣り合わせにするとくっついて、パッと消えてしまう。
「消えないよね……」
『消えているではないか』
「いや、こっちじゃなくて……」
『……消えん。が、あまり感傷的になるな。ものはいつかすべて消える』
「……うん……」
答えた目線の先で自フィールド内の楕円がすべて消え、『YOU WIN』の文字が落ちて来た。
『ワシはそのようにカラフルではないぞ』
「色じゃなくて、見た目がさ」
『この器を客観的に見たことがないから良くわからんな』
「いま色の話したじゃん」
『顔だけ出したときにかろうじて見えるのだ。全体像はわからんよ』
「そっか」
『そもそも仮の身体でもないしだな』
「あー、入れ物みたいな感じ?」
『そうだ』
河原で魔王入りの石を拾ってから早数週間。いまではそこにいるのが当たり前の光景になった。
学校から帰ってその日の事を話すうちに、だんだん打ち解けてきた気がする。
「そういえば聞いてなかったんだけど、魔王はどんな悪さして封じられちゃったの?」
『悪さなどしておらん』
「え? それは魔界基準ではってこと?」
『違う。世代交代がうまくいかず、魔王の座を奪還したい者から刺客が送られてきたのだ』
「なにそれ、ひどい」
『よくある話だ。幸い消されはしなかったが、一人の刺客に呪術の心得があったようで、この世界のこの石に封じられてしまった』
「すごく強い人だったんだ」
『そのようだな。魔界ならまだしも異世界ではどうすることもできず、ただずっとあそこにいたのだ』
「で、俺と出会ったわけか」
『そうだ』
「もし封印が解けたら、魔王はどうするの?」
『できれば魔界に戻りたいが、戻ったところで……』
「“玉座にはもう違う人がいる”?」
『あぁ。もう玉座はいいのだが、魔界の平和が保たれているか心配でな。様子は見たいと思っている』
「刺客を送り込むようなやつが平和を保てるとも思えないけど」
『そうなのだ。しかしもうそれも随分昔の話……もしかしたらまた世代交代があったかもしれぬし、戻ったところで世間に取り残されるのではないかと、最近は思うようになった』
「昔ってどのくらい?」
『こちらの世界でザッと百年とちょっと、か』
「え、魔王いくつ」
『年齢という概念はないのだが……魔界は二百年ほど統治しておったな』
「うわ、超年上じゃん。タメ口きいてたわ」
『別にかまわん、そのようなこと』
「俺が構うよ。解放されたとき気まずいじゃん」
『別に気にせん。いままで通りでいてくれ』
「魔王がそう言うなら……」
釈然としないけど、押し問答しても仕方ないから受け入れた。
「にしても、最初会ったときは解放してほしいって言ってたのに、心境の変化でもあったの?」
『河原は情報が少なかったからな。ここに置いてもらってテレビで色々なものを見たり聞いたりしているうちに、本当に違う世界の違う時代におるのだな、と実感したのだ』
「なるほど」
『河原にいたとき、この国もだんだんと変わっていくと感じておったが……自国となるともっと顕著だろうなと思うと……』
「でも窮屈でしょ?」
『それはそうだが、この国の住居にワシの身体はちと大きい』
「何メートルくらいあるの?」
『この世界の建造物で言うと……』
魔王はとある有名な像を喩えに出してくれた。
「でか。それは無理」
『だろう? ならばもっと力を蓄え、石に宿りながら動けるようになったほうが“自由”なのではないかと思い始めてな』
「魔王がそれでいいならいいけど」
『力がある程度戻れば、最初に言っていた“望みを叶える”ことも不可能ではないしな』
「いいよそれはもう。愚痴とか色々聞いてもらってんだしさ」
『そのくらいどうということはない。捨ておかずにいてくれたことへの恩返しがしたいのだ』
「……じゃあ、考えておくよ、“望み”」
『うむ、そうしてくれ』
魔王の声には少しの楽しさが混ざっていて、それが嬉しかった。
願いという願いはいまはない。
将来に対して漠然とした不安はあるけど、なりたいものが見つかっていないからそれを望むこともできない。
いまの一番の願いは……
「魔王が窮屈な器から抜け出せますように、っていうのはどう?」
考えておけと言われてから数日、提案してみたら魔王がふっと笑った。
『できたらとっくに自分でしておる』
「それもそうか」
『その願いは気持ちだけで充分だ。自分のためになることを願え』
「いまはあんまり、コレってのが思いつかないんだよ」
『ゆっくりでいい。お前にはまだ時間がある』
「うん。じゃあ、じっくり考える」
『うむ』
俺の望みは魔王が叶えてくれるけど、魔王の望みは誰が叶えてくれるんだろう。
そんなことを思いながら、コントローラーで画面の中のカラフルな楕円を積み上げていく。
同じ色を隣り合わせにするとくっついて、パッと消えてしまう。
「消えないよね……」
『消えているではないか』
「いや、こっちじゃなくて……」
『……消えん。が、あまり感傷的になるな。ものはいつかすべて消える』
「……うん……」
答えた目線の先で自フィールド内の楕円がすべて消え、『YOU WIN』の文字が落ちて来た。
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