日々の欠片

小海音かなた

文字の大きさ
上 下
35 / 366

2/4『硬度100パーセント』

しおりを挟む
「ほらこれ、似てない?」
『ワシはそのようにカラフルではないぞ』
「色じゃなくて、見た目がさ」
『この器を客観的に見たことがないから良くわからんな』
「いま色の話したじゃん」
『顔だけ出したときにかろうじて見えるのだ。全体像はわからんよ』
「そっか」
『そもそも仮の身体でもないしだな』
「あー、入れ物みたいな感じ?」
『そうだ』
 河原で魔王入りの石を拾ってから早数週間。いまではそこにいるのが当たり前の光景になった。
 学校から帰ってその日の事を話すうちに、だんだん打ち解けてきた気がする。
「そういえば聞いてなかったんだけど、魔王はどんな悪さして封じられちゃったの?」
『悪さなどしておらん』
「え? それは魔界基準ではってこと?」
『違う。世代交代がうまくいかず、魔王の座を奪還したい者から刺客が送られてきたのだ』
「なにそれ、ひどい」
『よくある話だ。幸い消されはしなかったが、一人の刺客に呪術の心得があったようで、この世界のこの石に封じられてしまった』
「すごく強い人だったんだ」
『そのようだな。魔界ならまだしも異世界ではどうすることもできず、ただずっとあそこにいたのだ』
「で、俺と出会ったわけか」
『そうだ』
「もし封印が解けたら、魔王はどうするの?」
『できれば魔界に戻りたいが、戻ったところで……』
「“玉座にはもう違う人がいる”?」
『あぁ。もう玉座はいいのだが、魔界の平和が保たれているか心配でな。様子は見たいと思っている』
「刺客を送り込むようなやつが平和を保てるとも思えないけど」
『そうなのだ。しかしもうそれも随分昔の話……もしかしたらまた世代交代があったかもしれぬし、戻ったところで世間に取り残されるのではないかと、最近は思うようになった』
「昔ってどのくらい?」
『こちらの世界でザッと百年とちょっと、か』
「え、魔王いくつ」
『年齢という概念はないのだが……魔界は二百年ほど統治しておったな』
「うわ、超年上じゃん。タメ口きいてたわ」
『別にかまわん、そのようなこと』
「俺が構うよ。解放されたとき気まずいじゃん」
『別に気にせん。いままで通りでいてくれ』
「魔王がそう言うなら……」
 釈然としないけど、押し問答しても仕方ないから受け入れた。
「にしても、最初会ったときは解放してほしいって言ってたのに、心境の変化でもあったの?」
『河原は情報が少なかったからな。ここに置いてもらってテレビで色々なものを見たり聞いたりしているうちに、本当に違う世界の違う時代におるのだな、と実感したのだ』
「なるほど」
『河原にいたとき、この国もだんだんと変わっていくと感じておったが……自国となるともっと顕著だろうなと思うと……』
「でも窮屈でしょ?」
『それはそうだが、この国の住居にワシの身体はちと大きい』
「何メートルくらいあるの?」
『この世界の建造物で言うと……』
 魔王はとある有名な像を喩えに出してくれた。
「でか。それは無理」
『だろう? ならばもっと力を蓄え、石に宿りながら動けるようになったほうが“自由”なのではないかと思い始めてな』
「魔王がそれでいいならいいけど」
『力がある程度戻れば、最初に言っていた“望みを叶える”ことも不可能ではないしな』
「いいよそれはもう。愚痴とか色々聞いてもらってんだしさ」
『そのくらいどうということはない。捨ておかずにいてくれたことへの恩返しがしたいのだ』
「……じゃあ、考えておくよ、“望み”」
『うむ、そうしてくれ』
 魔王の声には少しの楽しさが混ざっていて、それが嬉しかった。

 願いという願いはいまはない。
 将来に対して漠然とした不安はあるけど、なりたいものが見つかっていないからそれを望むこともできない。
 いまの一番の願いは……

「魔王が窮屈な器から抜け出せますように、っていうのはどう?」
 考えておけと言われてから数日、提案してみたら魔王がふっと笑った。
『できたらとっくに自分でしておる』
「それもそうか」
『その願いは気持ちだけで充分だ。自分のためになることを願え』
「いまはあんまり、コレってのが思いつかないんだよ」
『ゆっくりでいい。お前にはまだ時間がある』
「うん。じゃあ、じっくり考える」
『うむ』
 俺の望みは魔王が叶えてくれるけど、魔王の望みは誰が叶えてくれるんだろう。
 そんなことを思いながら、コントローラーで画面の中のカラフルな楕円を積み上げていく。
 同じ色を隣り合わせにするとくっついて、パッと消えてしまう。
「消えないよね……」
『消えているではないか』
「いや、こっちじゃなくて……」
『……消えん。が、あまり感傷的になるな。ものはいつかすべて消える』
「……うん……」
 答えた目線の先で自フィールド内の楕円がすべて消え、『YOU WIN』の文字が落ちて来た。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

今日の授業は保健体育

にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり) 僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。 その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。 ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

【新作】読切超短編集 1分で読める!!!

Grisly
現代文学
⭐︎登録お願いします。 1分で読める!読切超短編小説 新作短編小説は全てこちらに投稿。 ⭐︎登録忘れずに!コメントお待ちしております。

芽時奏一郎
ライト文芸
僕の読み切り集です。

サンタの村に招かれて勇気をもらうお話

Akitoです。
ライト文芸
「どうすれば友達ができるでしょうか……?」  12月23日の放課後、日直として学級日誌を書いていた山梨あかりはサンタへの切なる願いを無意識に日誌へ書きとめてしまう。  直後、チャイムの音が鳴り、我に返ったあかりは急いで日誌を書き直し日直の役目を終える。  日誌を提出して自宅へと帰ったあかりは、ベッドの上にプレゼントの箱が置かれていることに気がついて……。 ◇◇◇  友達のいない寂しい学生生活を送る女子高生の山梨あかりが、クリスマスの日にサンタクロースの村に招待され、勇気を受け取る物語です。  クリスマスの暇つぶしにでもどうぞ。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

処理中です...