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1/21『正義と悪の協奏曲』
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宇宙人が来た。別に戦争をしに来たわけじゃなくて、ただ勝負がしたいと言う。近隣の星々には連戦連勝し、残すは地球だけなのだとか。
突然の訪問に驚いたのは国民だけじゃない。各国の首脳や政治家は対応に大わらわだ。
とにかく事を荒立てたくない首相、いっそ国を挙げて戦おうという首相、友好条約を交わして地球に有利な知識や資源を賜ろうという首相――各国の様々な思惑を余所に、宇宙人が指名したのは僕が住んでいる国だった。
「というわけで、うちに、というか、キミに要請が来た」
「はぁ。どうすりゃいいんです?」
「肉弾戦じゃなくて頭脳戦というか、要はこの国で言う【ゲーム】で勝負したいらしいんだな」
「えぇ? 苦手ですよそういうの。僕ら行き当たりばったりで戦うことしかできないんだし、戦略知略が必要なら、あっちのほうがお得意なんじゃないですか?」
「あっちって?」
「あっちはあっちですよ」
ヒーローである僕は博士が企業と共同開発したパワードスーツを着て戦っている。その相手、いわゆる【悪の組織】のアジトをどうにか突き止めてもらい、菓子を折り持って訪ねた。
『はい』
インターフォン越しに聞き覚えのある声。首領だ。
「あのぉ、突然すみません。いつもお世話に……はなってないんですけど……わかります?」
『えぇ、もちろん……』
「それは良かった」
『なんです? 直接殲滅しに来たとか?』
「いえ! そうじゃなくて。あの、ぜひご協力頂きたいことがありまして」
一応国家機密に関わることだからハッキリ言えずにいたら首領は何か察したようで
『とにかくお入りください』
オートロックの玄関を開けてくれた。
「――というわけで、お力というか、お知恵を拝借できないかと」
「まぁ、そういうことでしたら」
「えっ、いいんですか。この国を滅ぼしたいんだとばかり」
「より良い国にしたいだけです。滅ぼしてしまったら私たちが主導権を握る意味がないですし」
「ははぁ、深い考えがあったんですね」
「まぁ……。しかし良くお訪ねくださいましたね。協力を仰ぐとか、お嫌でしたでしょう」
「いえ。僕ら場当たり的な対応しかできなくて。その、戦略~とか知略~とか、そういうのからっきしで」
「それは私たちにも責任の一端がありますね。いつも突発的に仕掛けていますから」
「いえそんな……。突然の申し出にも関わらず、ご協力感謝いたします」
「はい。そうしましたら連絡先を――」
正義と悪が協力するとか前代未聞だろうけど、背に腹は代えられない。
宇宙軍との初戦は、僅差で地球軍が勝利した。宇宙人たちはご満悦で、これはやりがいがあるぞとウキウキしながらUFO(拠点)へ帰っていった。
「はぁー」競技場所を提供してくれたボドゲショップの一角で息を吐く。「ありがとうございます! とてもじゃないけど僕一人では太刀打ちできませんでした」
「いえ、俺もボスの指示に従っただけなので」黒の全身タイツにジャケットを羽織った構成員が左耳を指でつつく。もう通信は切れてるらしく「すいませんね。ボス、表に出たがらない人で」なんて軽口が出た。
「いえいえ、全然。お会いしたときに伺ってるので」
「そうスか、なら良かった。でも良かったんですか? 正義の味方が俺らと協力するだなんて」
「あなたがたしか思いつかなかったんですよね。戦略を練られて攻略できるかた」
「あぁ、首領は確かに」
「頭脳明晰ですよねー。あ、やばい。そろそろ帰らないと」
「お忙しいですね。お仕事ですか」
「いやぁ、子供が生まれたばっかりで」
「え、まじスか? 奥さんいま家に一人? いや二人か」
「妻の妹が来てくれてて。妻もお仕事だし仕方ないねーって」
「あら優しい」
「給料が出るようになったんで話が早くて」
「スポンサーつくとやっぱ上がります?」
「はい。守秘義務があって詳しいこと言えないですけど、それまで無給だったから」
「うわ、うちよりブラックっスね」
「そうなんですよ。まぁ本業のほうにも理解してもらえたんでね、気は楽です」
「あー、あれでしょ? ネットニュースでバーッと」
「そう。うっかり顔バレしちゃったやつ。いやお恥ずかしい」
「その辺の規約はダイジョブだったんスか?」
「えぇ。僕がいいならそれでいいって契約でして」
「まぁ正義の味方襲ってくるやつ、普通いないですもんね」
「普通はね」
「普通はね」
わっはっはと二人で笑う。
「次は俺じゃない人かもですけど、そのときもよろしくお願いします」
「こちらこそ、本当に助かりました」
お互いにお辞儀しつつ迎えの車に乗り込む。脱いだパワードスーツを見てニヤリ。
全宇宙に放送された対戦中、着ていたスーツに貼られたステッカーの企業から特別報酬が出ることになって僕の心はUFOのように浮いた。次の対戦には差し入れしよっと。
突然の訪問に驚いたのは国民だけじゃない。各国の首脳や政治家は対応に大わらわだ。
とにかく事を荒立てたくない首相、いっそ国を挙げて戦おうという首相、友好条約を交わして地球に有利な知識や資源を賜ろうという首相――各国の様々な思惑を余所に、宇宙人が指名したのは僕が住んでいる国だった。
「というわけで、うちに、というか、キミに要請が来た」
「はぁ。どうすりゃいいんです?」
「肉弾戦じゃなくて頭脳戦というか、要はこの国で言う【ゲーム】で勝負したいらしいんだな」
「えぇ? 苦手ですよそういうの。僕ら行き当たりばったりで戦うことしかできないんだし、戦略知略が必要なら、あっちのほうがお得意なんじゃないですか?」
「あっちって?」
「あっちはあっちですよ」
ヒーローである僕は博士が企業と共同開発したパワードスーツを着て戦っている。その相手、いわゆる【悪の組織】のアジトをどうにか突き止めてもらい、菓子を折り持って訪ねた。
『はい』
インターフォン越しに聞き覚えのある声。首領だ。
「あのぉ、突然すみません。いつもお世話に……はなってないんですけど……わかります?」
『えぇ、もちろん……』
「それは良かった」
『なんです? 直接殲滅しに来たとか?』
「いえ! そうじゃなくて。あの、ぜひご協力頂きたいことがありまして」
一応国家機密に関わることだからハッキリ言えずにいたら首領は何か察したようで
『とにかくお入りください』
オートロックの玄関を開けてくれた。
「――というわけで、お力というか、お知恵を拝借できないかと」
「まぁ、そういうことでしたら」
「えっ、いいんですか。この国を滅ぼしたいんだとばかり」
「より良い国にしたいだけです。滅ぼしてしまったら私たちが主導権を握る意味がないですし」
「ははぁ、深い考えがあったんですね」
「まぁ……。しかし良くお訪ねくださいましたね。協力を仰ぐとか、お嫌でしたでしょう」
「いえ。僕ら場当たり的な対応しかできなくて。その、戦略~とか知略~とか、そういうのからっきしで」
「それは私たちにも責任の一端がありますね。いつも突発的に仕掛けていますから」
「いえそんな……。突然の申し出にも関わらず、ご協力感謝いたします」
「はい。そうしましたら連絡先を――」
正義と悪が協力するとか前代未聞だろうけど、背に腹は代えられない。
宇宙軍との初戦は、僅差で地球軍が勝利した。宇宙人たちはご満悦で、これはやりがいがあるぞとウキウキしながらUFO(拠点)へ帰っていった。
「はぁー」競技場所を提供してくれたボドゲショップの一角で息を吐く。「ありがとうございます! とてもじゃないけど僕一人では太刀打ちできませんでした」
「いえ、俺もボスの指示に従っただけなので」黒の全身タイツにジャケットを羽織った構成員が左耳を指でつつく。もう通信は切れてるらしく「すいませんね。ボス、表に出たがらない人で」なんて軽口が出た。
「いえいえ、全然。お会いしたときに伺ってるので」
「そうスか、なら良かった。でも良かったんですか? 正義の味方が俺らと協力するだなんて」
「あなたがたしか思いつかなかったんですよね。戦略を練られて攻略できるかた」
「あぁ、首領は確かに」
「頭脳明晰ですよねー。あ、やばい。そろそろ帰らないと」
「お忙しいですね。お仕事ですか」
「いやぁ、子供が生まれたばっかりで」
「え、まじスか? 奥さんいま家に一人? いや二人か」
「妻の妹が来てくれてて。妻もお仕事だし仕方ないねーって」
「あら優しい」
「給料が出るようになったんで話が早くて」
「スポンサーつくとやっぱ上がります?」
「はい。守秘義務があって詳しいこと言えないですけど、それまで無給だったから」
「うわ、うちよりブラックっスね」
「そうなんですよ。まぁ本業のほうにも理解してもらえたんでね、気は楽です」
「あー、あれでしょ? ネットニュースでバーッと」
「そう。うっかり顔バレしちゃったやつ。いやお恥ずかしい」
「その辺の規約はダイジョブだったんスか?」
「えぇ。僕がいいならそれでいいって契約でして」
「まぁ正義の味方襲ってくるやつ、普通いないですもんね」
「普通はね」
「普通はね」
わっはっはと二人で笑う。
「次は俺じゃない人かもですけど、そのときもよろしくお願いします」
「こちらこそ、本当に助かりました」
お互いにお辞儀しつつ迎えの車に乗り込む。脱いだパワードスーツを見てニヤリ。
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