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Chapter.68

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 熱っぽい鹿乃江の唇を、紫輝が受け入れた。
 静かな室内に小さく水音が漂う。
 永遠とも一瞬ともつかない時間を経て唇を離し、
「すき……」
 紫輝を見つめて鹿乃江がぽつりと言う。
 紫輝は目を細めて鹿乃江の頬を撫で、顔を引き寄せてもう一度深く唇を重ねた。
 離した唇から熱い吐息が漏れる。
 紫輝は鹿乃江の身体を起こすと、自分も起き上がって座り直し、
「……もう限界っす……」
 苦しそうに呟くと、ソファから降りて鹿乃江を抱え上げた。
「ひゃっ」
 突然の浮遊感に鹿乃江が小さく叫んで、紫輝の首元にしがみつく。危ないのがわかるから、下手に動くこともできない。
「し、紫輝くん」
「はい」
「自分で歩けるから」
「それはわかってますよ」
「テレビ、電気、点けっぱなし」
「そのうち勝手に消えます」
 言いながら笑って、寝室のドアを開ける。
「紫輝くん」
 突然の展開に動転した様子で駄々をこねるように呼びかけるが、紫輝は答えない。そのままベッドに鹿乃江をおろして、ゆっくり押し倒した。
「嫌なことしたら、止めてください」
 疑問形ではないその言葉に、まっすぐで真摯な視線に、強い意志が込められている。
 強く脈打つ鼓動に甘い期待が混じりあって、どうにかなりそうだ。
 抵抗なんて、するわけない。
 雨粒のように降り注ぐキスと甘い言葉、それからの紫輝の行動を、鹿乃江はすべて、受け入れた。


* * *
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