64 / 69
Chapter.64
しおりを挟む 小指を絡める約束方法など知るはずもなく、ローズは停止する。だが、冨岡が口にした『大人と子どもではなく』という言葉は彼女の心を確実に揺らしていた。
「子ども扱いしないってほんと?」
ローズに問いかけられた冨岡は優しく頷く。
「約束に大人も子どももありませんよ。俺とローズお嬢様の約束です」
「じゃあ、私に押し付けるようなことしない?」
その時ローズが言葉にしたのは素直な気持ちなのだと、冨岡は気づいた。年齢に相応しい話し方と甘えたような声色。それが演技であればすぐさま女優になれるだろう。全米が涙することも、権威ある女優賞を受賞することも間違いない。
その言葉から察するに、これまで様々な大人に『理想のお嬢様』を押し付けられてきたことは間違いない。
彼女には彼女なりの理由がありそうしているのだ、と薄々気づいている冨岡はローズの右手に小指を近づけた。
「押し付けるようなことはしないと約束しますよ。ほら、ローズお嬢様も小指を出してください」
「小指・・・・・・これは一体なんなの?」
「あ、そっか。これは俺の国で約束を交わす時にする、儀式のようなものです」
「儀式?」
「そうですよ、小指で固い約束を交わすんです。これは重い重い儀式ですから、約束を破ると針を千本飲まなければなりません」
冨岡がそう説明するとローズは左手で右手の小指を握って隠す。
「そんなことしたら死んじゃうじゃない!」
「ええ、命がけの約束です」
想像していたよりも彼女が大きく反応したことで、思わずにやけそうになるのを我慢する冨岡。決して馬鹿にしているわけではなく、ローズを子どもらしく可愛いと思ってしまったのだ。
そんなローズは少し怯えた表情で言葉を返す。
「野蛮過ぎないかしら、あなたの国」
「それほど約束を大切にする国なんです。そんな国から来たこんな俺との約束なら安心でしょう? 俺はお嬢様に何かを押し付けるようなことはしません。だから、俺にお嬢様と話す時間をください。約束です」
再び冨岡はローズとの指切りを試みる。
ここまで驚いてばかりのローズだったが、幼いなりに冨岡がまっすぐ自分と向き合ってくれていると気づき小指を絡めた。
「約束を破ったら本当に針を千本飲むのね?」
慎重に確認を怠らないローズ。考えるまでもなく、冨岡は頷いた。彼の根底には『ホース公爵の後ろ盾を得るため』という目的はあったが、今は『ローズの話を聞きたい』と心から思っている。『困っている人がいれば助けられる人間であってくれ』という源次郎の言葉が冨岡の行動に大きく影響していた。
「もちろんですよ」
「私は公爵家の娘よ? 針を用意することなんて簡単なんだから」
「約束は互いにですから、ローズお嬢様が飲むことになるかもしれませんよ?」
「子ども扱いしないってほんと?」
ローズに問いかけられた冨岡は優しく頷く。
「約束に大人も子どももありませんよ。俺とローズお嬢様の約束です」
「じゃあ、私に押し付けるようなことしない?」
その時ローズが言葉にしたのは素直な気持ちなのだと、冨岡は気づいた。年齢に相応しい話し方と甘えたような声色。それが演技であればすぐさま女優になれるだろう。全米が涙することも、権威ある女優賞を受賞することも間違いない。
その言葉から察するに、これまで様々な大人に『理想のお嬢様』を押し付けられてきたことは間違いない。
彼女には彼女なりの理由がありそうしているのだ、と薄々気づいている冨岡はローズの右手に小指を近づけた。
「押し付けるようなことはしないと約束しますよ。ほら、ローズお嬢様も小指を出してください」
「小指・・・・・・これは一体なんなの?」
「あ、そっか。これは俺の国で約束を交わす時にする、儀式のようなものです」
「儀式?」
「そうですよ、小指で固い約束を交わすんです。これは重い重い儀式ですから、約束を破ると針を千本飲まなければなりません」
冨岡がそう説明するとローズは左手で右手の小指を握って隠す。
「そんなことしたら死んじゃうじゃない!」
「ええ、命がけの約束です」
想像していたよりも彼女が大きく反応したことで、思わずにやけそうになるのを我慢する冨岡。決して馬鹿にしているわけではなく、ローズを子どもらしく可愛いと思ってしまったのだ。
そんなローズは少し怯えた表情で言葉を返す。
「野蛮過ぎないかしら、あなたの国」
「それほど約束を大切にする国なんです。そんな国から来たこんな俺との約束なら安心でしょう? 俺はお嬢様に何かを押し付けるようなことはしません。だから、俺にお嬢様と話す時間をください。約束です」
再び冨岡はローズとの指切りを試みる。
ここまで驚いてばかりのローズだったが、幼いなりに冨岡がまっすぐ自分と向き合ってくれていると気づき小指を絡めた。
「約束を破ったら本当に針を千本飲むのね?」
慎重に確認を怠らないローズ。考えるまでもなく、冨岡は頷いた。彼の根底には『ホース公爵の後ろ盾を得るため』という目的はあったが、今は『ローズの話を聞きたい』と心から思っている。『困っている人がいれば助けられる人間であってくれ』という源次郎の言葉が冨岡の行動に大きく影響していた。
「もちろんですよ」
「私は公爵家の娘よ? 針を用意することなんて簡単なんだから」
「約束は互いにですから、ローズお嬢様が飲むことになるかもしれませんよ?」
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
アフォガード
小海音かなた
恋愛
大学生になった森町かえでは、かねてより憧れていた喫茶店でのバイトを始めることになった。関西弁の店長・佐奈田千紘が切り盛りするその喫茶店で働くうちに、かえでは千紘に惹かれていく。
大きな事件もトラブルも起こらない日常の中で、いまを大事に生きる二人の穏やかな物語。
ドSでキュートな後輩においしくいただかれちゃいました!?
春音優月
恋愛
いつも失敗ばかりの美優は、少し前まで同じ部署だった四つ年下のドSな後輩のことが苦手だった。いつも辛辣なことばかり言われるし、なんだか完璧過ぎて隙がないし、後輩なのに美優よりも早く出世しそうだったから。
しかし、そんなドSな後輩が美優の仕事を手伝うために自宅にくることになり、さらにはずっと好きだったと告白されて———。
美優は彼のことを恋愛対象として見たことは一度もなかったはずなのに、意外とキュートな一面のある後輩になんだか絆されてしまって……?
2021.08.13

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。



社長室の蜜月
ゆる
恋愛
内容紹介:
若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。
一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。
仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる