55 / 69
Chapter.55
しおりを挟む
「うちのメンバーが、会わせろって言ってまして……その……鹿乃江さんに」
「えっ」
(なぜ)
鹿乃江の単純な驚きに紫輝が苦笑した。
「集まる店ももう大体決めてるとか言ってて……。あの、全然。断ってもらってかまわないんで」
「いや……断る理由もないですし…紫輝くんがいいならいいですけど……」
「えっ」
「えっ?」
お互いの反応を確認するような静寂のあと。
「ことわったほうが良かった……?」おずおずと鹿乃江が口を開いた。
「いえ! いえいえ! ありがたいっす!」
答えを間違えたかと思った鹿乃江が、「良かった」ホッと息を吐く。
「いつ頃なら大丈夫とかあります?」
「いつでも大丈夫です。いまの時期、そんなに忙しくないので」
「もしかしたら、ちょっと先のハナシになっちゃうかも……」
「はい。前もって言ってもらえれば、調整します」
「良かったー」今度は紫輝が安堵した。「先のハナシはわからないって言われたらどうしようかと思ってたんで、安心しました」
「繁忙期も大体決まってるので、そこまで先じゃなければ……」
「あ、いや、そうじゃなくて……」紫輝は少しためらってから「オレらのことです……」続ける。
「ん?」
「この先も付き合ってるかわからないし、的な」
「あー」
「えー!」
紫輝の反応に鹿乃江がフフッと笑う。
「ウソウソ。ごめんなさい。私からは言わないですよ」
「オレも言わないよ」
紫輝の回答に鹿乃江がデレッとした笑顔になって、
「うん」
嬉しそうに頷いた。
それを見た紫輝も同じような顔になると、繋いだ手を放し、鹿乃江に向かって両手を広げる。
意味はわかっているが動けない鹿乃江に
「鹿乃江さん」
紫輝が優しく呼びかけた。
おずおずと近付く鹿乃江を優しく見守り、遠慮しつつ腕の中に納まる彼女を抱き寄せて紫輝がまぶたを閉じた。呼吸をすると鹿乃江の使っているシャンプーが微かに香る。
会いたくても会えず、触れたくても触れられなかった愛しい人がいま、自分の腕の中にいる。その幸福を実感し
「あーやべぇ。まじ幸せっす」
噛み締めるように紫輝が言う。
「……うん、幸せ、ですね」
鹿乃江も嬉しそうに、肩に頬をすり寄せた。
「鹿乃江さん」
「はい」
「今日……泊まって、いけます…?」
紫輝が固い声で切り出す。
「……はい」
鹿乃江の答えを聞いて、紫輝が背中に回した腕に力を込めた。
「えっ」
(なぜ)
鹿乃江の単純な驚きに紫輝が苦笑した。
「集まる店ももう大体決めてるとか言ってて……。あの、全然。断ってもらってかまわないんで」
「いや……断る理由もないですし…紫輝くんがいいならいいですけど……」
「えっ」
「えっ?」
お互いの反応を確認するような静寂のあと。
「ことわったほうが良かった……?」おずおずと鹿乃江が口を開いた。
「いえ! いえいえ! ありがたいっす!」
答えを間違えたかと思った鹿乃江が、「良かった」ホッと息を吐く。
「いつ頃なら大丈夫とかあります?」
「いつでも大丈夫です。いまの時期、そんなに忙しくないので」
「もしかしたら、ちょっと先のハナシになっちゃうかも……」
「はい。前もって言ってもらえれば、調整します」
「良かったー」今度は紫輝が安堵した。「先のハナシはわからないって言われたらどうしようかと思ってたんで、安心しました」
「繁忙期も大体決まってるので、そこまで先じゃなければ……」
「あ、いや、そうじゃなくて……」紫輝は少しためらってから「オレらのことです……」続ける。
「ん?」
「この先も付き合ってるかわからないし、的な」
「あー」
「えー!」
紫輝の反応に鹿乃江がフフッと笑う。
「ウソウソ。ごめんなさい。私からは言わないですよ」
「オレも言わないよ」
紫輝の回答に鹿乃江がデレッとした笑顔になって、
「うん」
嬉しそうに頷いた。
それを見た紫輝も同じような顔になると、繋いだ手を放し、鹿乃江に向かって両手を広げる。
意味はわかっているが動けない鹿乃江に
「鹿乃江さん」
紫輝が優しく呼びかけた。
おずおずと近付く鹿乃江を優しく見守り、遠慮しつつ腕の中に納まる彼女を抱き寄せて紫輝がまぶたを閉じた。呼吸をすると鹿乃江の使っているシャンプーが微かに香る。
会いたくても会えず、触れたくても触れられなかった愛しい人がいま、自分の腕の中にいる。その幸福を実感し
「あーやべぇ。まじ幸せっす」
噛み締めるように紫輝が言う。
「……うん、幸せ、ですね」
鹿乃江も嬉しそうに、肩に頬をすり寄せた。
「鹿乃江さん」
「はい」
「今日……泊まって、いけます…?」
紫輝が固い声で切り出す。
「……はい」
鹿乃江の答えを聞いて、紫輝が背中に回した腕に力を込めた。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
その眼差しは凍てつく刃*冷たい婚約者にウンザリしてます*
音爽(ネソウ)
恋愛
義妹に優しく、婚約者の令嬢には極寒対応。
塩対応より下があるなんて……。
この婚約は間違っている?
*2021年7月完結
【完結】聖女の手を取り婚約者が消えて二年。私は別の人の妻になっていた。
文月ゆうり
恋愛
レティシアナは姫だ。
父王に一番愛される姫。
ゆえに妬まれることが多く、それを憂いた父王により早くに婚約を結ぶことになった。
優しく、頼れる婚約者はレティシアナの英雄だ。
しかし、彼は居なくなった。
聖女と呼ばれる少女と一緒に、行方を眩ませたのだ。
そして、二年後。
レティシアナは、大国の王の妻となっていた。
※主人公は、戦えるような存在ではありません。戦えて、強い主人公が好きな方には合わない可能性があります。
小説家になろうにも投稿しています。
エールありがとうございます!
ずぶ濡れで帰ったら彼氏が浮気してました
宵闇 月
恋愛
突然の雨にずぶ濡れになって帰ったら彼氏が知らない女の子とお風呂に入ってました。
ーーそれではお幸せに。
以前書いていたお話です。
投稿するか悩んでそのままにしていたお話ですが、折角書いたのでやはり投稿しようかと…
十話完結で既に書き終えてます。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
皇太子夫妻の歪んだ結婚
夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。
その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。
本編完結してます。
番外編を更新中です。
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
拝啓、私を追い出した皆様 いかがお過ごしですか?私はとても幸せです。
香木あかり
恋愛
拝啓、懐かしのお父様、お母様、妹のアニー
私を追い出してから、一年が経ちましたね。いかがお過ごしでしょうか。私は元気です。
治癒の能力を持つローザは、家業に全く役に立たないという理由で家族に疎まれていた。妹アニーの占いで、ローザを追い出せば家業が上手くいくという結果が出たため、家族に家から追い出されてしまう。
隣国で暮らし始めたローザは、実家の商売敵であるフランツの病気を治癒し、それがきっかけで結婚する。フランツに溺愛されながら幸せに暮らすローザは、実家にある手紙を送るのだった。
※複数サイトにて掲載中です
夫の不貞現場を目撃してしまいました
秋月乃衣
恋愛
伯爵夫人ミレーユは、夫との間に子供が授からないまま、閨を共にしなくなって一年。
何故か夫から閨を拒否されてしまっているが、理由が分からない。
そんな時に夜会中の庭園で、夫と未亡人のマデリーンが、情事に耽っている場面を目撃してしまう。
なろう様でも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる