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Chapter.54

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 指定時間通りにインターホンが鳴る。いそいそと室内機の通話ボタンを押し「いま開けます」応答して、開錠ボタンを押した。
『ありがとうございます』
 スピーカーから礼が聞こえて、モニタから鹿乃江の姿が消える。
 ほどなくして、もう一度違う音色でインターホンが来客を知らせた。と同時に紫輝がドアを開ける。
「わぁ」
 そんなにすぐ開くとは思っていなかったようで、コートを抱えた鹿乃江が小さく声をあげて驚いた。その反応に紫輝が小さく笑って、
「どうぞ」招き入れる。
「おじゃまします」
 二度目の来訪に、まだ慣れていない鹿乃江が少しソワソワした面持ちで紫輝のあとに続く。
「すみません、遅い時間になっちゃって」
「全然。お仕事お疲れさまです」
「鹿乃江さんも……」
 リビングに着き振り返ったと同時に、なにか言いたげに紫輝が鹿乃江の全体を眺める。
 すぐに服装を見ているとわかった鹿乃江が
「…変、ですか……?」服を撫でながらおずおずと尋ねる。
「いえっ! 似合ってます! その……」照れた顔で首筋を撫でながら「かわいい、です」あらたまった口調で言う。
「ありがとうございます……」
 照れて笑って、少しの沈黙。
「あっ。飲み物持ってきますね」
「手伝います」
 一緒にキッチンへ移動して、冷蔵庫を覗き見る。
「なににします?」
「んー。オレンジジュースにします」
「はい」
 紫輝から紙パックを受け取り「ありがとうございます」開封する。
「オレも同じのにします」
「はい」
 二つ並んだグラスにオレンジジュースを注いだ。
「持っていくので、仕舞ってもらっていいですか?」
「はーい」
 グラスを持って移動する紫輝の背中に返事をして、鹿乃江は元の場所に紙パックを入れて冷蔵庫を閉じた。
 リビングへ移動すると、ソファに座った紫輝が自分の横の座面をポンポンと叩く。ここに座ってという意味だろう。
 トコトコと歩み寄って、少し離れた隣に座る。座面に置いた手を紫輝が掬い取り、指を絡ませた。
まだまだ慣れなくて、内心ソワソワしてしまう。
「今日は忙しかったですか?」
「そこまでじゃなかったです。フロアも落ち着いてたみたいで」
「それは良かった」
「紫輝くんは?」
「オレも今日は余裕でしたね。メンバーと一緒に雑誌の取材受けて……」と、現場でのことを思い出し、あ、と小さく声を上げる。「あのー……」
「はい」
「実はですね……」
 言いづらそうに空いたほうの手で首筋をさする紫輝。鹿乃江は黙って言葉の続きを待つ。
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