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Chapter.51
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マンションの地下にある駐車場までエレベーターで下りて、見覚えのある車の前まで移動する。紫輝が空いた手をポケットに入れると、車内からガチャリと音がしてドアロックが解除された。
紫輝が助手席のドアを開け「どうぞ」と繋いでいた手を放し鹿乃江を誘導する。
「ありがとうございます」
久しぶりに乗った紫輝の車には、思い返すといまでも二人の胸を締め付ける苦い思い出がある。
すれ違い、一度は離れた二人がまた一緒に乗車する。それも、こんなに穏やかで晴れやかな気持ちで。
こんな日が来るとは思っていなかった。
数時間前までは会うつもりもなかったのに、本当に不思議だ――と鹿乃江は考える。
未来なんて、いつ何時でも、些細なきっかけと少しの行動で変わっていく。少しの勇気が未来を切り拓く。
それを教えてくれたのは、紫輝だった。
運転席に紫輝が乗り込んで、シリンダーに鍵を差し込んだ。
「次のお休みいつっすか?」
「えーっと……」と、職場から出る間際に確認したメーラーの予定表を思い出す。「しあさって…木曜ですね」
「じゃあ、その日か、その前の日の夜、会えたりします?」
「はい、どっちも大丈夫です」
「じゃあー……あさっての夜、会いましょう」
「はい」
笑顔で答えた鹿乃江に対し、紫輝がふと無言になった。
「どうしました?」
「オレ、ガツガツしてますかね?」
紫輝の質問に鹿乃江は少し考えて
「そのくらいのほうが、ありがたいです」
出した回答が予想だにしていない内容だったようで、紫輝が顔に疑問符を浮かべる。
「あー……きっと、紫輝くんがガツガツ? 来てくれてなかったら、紫輝くんのこと好きでいても、諦めてたと思うんです。たぶん私からは、行けないと思うので……」
「えっ、来てくださいよ」
「…慣れたら…がんばります」
その答えに、紫輝が嬉しそうに笑う。つられて微笑んで、鹿乃江が続ける。
「だから……ありがたいし、嬉しいです」
「……良かった」
ニヘッと紫輝が相好を崩した。その笑顔が可愛くて、鹿乃江もつられてヘヘッと笑う。
「ごめんなさい。キリないっすね。部屋に連れて帰りたくなる前に、出しますね」
嬉しそうな困ったような口調で紫輝が言う。
「はい、お願いします」
要望を受けて、紫輝がゆっくりと発車させた。前回とは打って変わった車内の雰囲気に、和やかな会話が弾む。
30分弱のドライブは、いつか聞いたカーナビの案内で終了を迎えた。
「このあたりですか?」
路肩にゆっくり停車させて、紫輝が車外を確認する。
「はい、ここで大丈夫です」
「オレ家の前まで送ります」
シートベルトを外そうとする紫輝をやんわり止めて、
「誰かに気付かれちゃったら大変なので」
鹿乃江が少し困ったように笑う。
「あー……そうっすね。スミマセン……」
「ううん? 送ってくれて、ありがとうございます」
「うん。じゃあ、また、あさって」
「はい」
微笑んで頷く鹿乃江を見つめ
「……会いたいときに会えるって幸せっすね」
紫輝が嬉しそうに表情を緩めて、しみじみと言った。
鹿乃江もつられて口元を緩める。
「うん。幸せですね」
はにかんだ鹿乃江に
「大事にしますね」
紫輝が唐突に言う。
「鹿乃江さんのこと、大事に、します」
泣きそうなくらい幸せで、愛しくて、笑みがこぼれだす。
「ありがとうございます」照れながら言って「紫輝くん」運転席へ呼びかける。
「はい」
「大好き」
不意打ちに紫輝が顔を赤く染める。
「帰したくなくなっちゃいます」
ハンドルに乗せた腕に頭を預け、熱っぽい瞳を鹿乃江に向けた。
鹿乃江は困ったようにはにかんで
「……今日は、だめです。家すぐそこですし」
自分の決心が揺らがないうちにシートベルトを外す。
「おやすみなさい」ドアを開けながら紫輝を振り返る。
「おやすみなさい。気を付けて」
「紫輝くんも、帰り道お気を付けて」車を下りて腰を屈め、車内に呼びかける。
「うん」
紫輝が手を振ると、鹿乃江も「またね」と手を振り返して、静かに助手席のドアを閉めた。家路に着く途中で振り返って、もう一度紫輝に手を振ってから曲がり角に入る。
「やべぇ~…かわいい~……」
振り返した手で頭を抱え、緩んだ笑顔で幸せの余韻に浸ってから、紫輝も家路に着いた。
鹿乃江もまた、幸せの余韻に浸りつつシャワーを浴びて眠り支度を済ませる。
しかし、ちょっと、すんなり眠れそうにない。
(明日、帰りに服、見に行こうかな……)
寝しなにスマホを操作しつつ、職場近くでアパレルショップを探す。ふと、新規ブラウザを開き【前原紫輝 好みのタイプ】と入力し、検索してみる。ズラリと出てきた結果は、雑誌のインタビュー記事の引用をまとめたものが多かった。
(見た目のこととか、あんまり書いてないなー……)
そう思いつつ、より近い日付の記事を見つけてリンクへ飛んだ。
(あ、服装載ってた)
これなら無理なくできそうだと思いつつ、引用元の掲載雑誌の発売時期に気を留めてみる。
(…これ…たぶん……)
夏頃に発売された記事から、徐々に具体的になっている。その例は、鹿乃江が紫輝に会うとき着ていた服のテイストとほぼ一緒だった。
(…………寝よう)
恥ずかしさから逃れるようにスマホをスリープしようとして、ふと思い立つ。
アプリを立ち上げて一言だけメッセを送り、眠りに就いた。
* * *
紫輝が助手席のドアを開け「どうぞ」と繋いでいた手を放し鹿乃江を誘導する。
「ありがとうございます」
久しぶりに乗った紫輝の車には、思い返すといまでも二人の胸を締め付ける苦い思い出がある。
すれ違い、一度は離れた二人がまた一緒に乗車する。それも、こんなに穏やかで晴れやかな気持ちで。
こんな日が来るとは思っていなかった。
数時間前までは会うつもりもなかったのに、本当に不思議だ――と鹿乃江は考える。
未来なんて、いつ何時でも、些細なきっかけと少しの行動で変わっていく。少しの勇気が未来を切り拓く。
それを教えてくれたのは、紫輝だった。
運転席に紫輝が乗り込んで、シリンダーに鍵を差し込んだ。
「次のお休みいつっすか?」
「えーっと……」と、職場から出る間際に確認したメーラーの予定表を思い出す。「しあさって…木曜ですね」
「じゃあ、その日か、その前の日の夜、会えたりします?」
「はい、どっちも大丈夫です」
「じゃあー……あさっての夜、会いましょう」
「はい」
笑顔で答えた鹿乃江に対し、紫輝がふと無言になった。
「どうしました?」
「オレ、ガツガツしてますかね?」
紫輝の質問に鹿乃江は少し考えて
「そのくらいのほうが、ありがたいです」
出した回答が予想だにしていない内容だったようで、紫輝が顔に疑問符を浮かべる。
「あー……きっと、紫輝くんがガツガツ? 来てくれてなかったら、紫輝くんのこと好きでいても、諦めてたと思うんです。たぶん私からは、行けないと思うので……」
「えっ、来てくださいよ」
「…慣れたら…がんばります」
その答えに、紫輝が嬉しそうに笑う。つられて微笑んで、鹿乃江が続ける。
「だから……ありがたいし、嬉しいです」
「……良かった」
ニヘッと紫輝が相好を崩した。その笑顔が可愛くて、鹿乃江もつられてヘヘッと笑う。
「ごめんなさい。キリないっすね。部屋に連れて帰りたくなる前に、出しますね」
嬉しそうな困ったような口調で紫輝が言う。
「はい、お願いします」
要望を受けて、紫輝がゆっくりと発車させた。前回とは打って変わった車内の雰囲気に、和やかな会話が弾む。
30分弱のドライブは、いつか聞いたカーナビの案内で終了を迎えた。
「このあたりですか?」
路肩にゆっくり停車させて、紫輝が車外を確認する。
「はい、ここで大丈夫です」
「オレ家の前まで送ります」
シートベルトを外そうとする紫輝をやんわり止めて、
「誰かに気付かれちゃったら大変なので」
鹿乃江が少し困ったように笑う。
「あー……そうっすね。スミマセン……」
「ううん? 送ってくれて、ありがとうございます」
「うん。じゃあ、また、あさって」
「はい」
微笑んで頷く鹿乃江を見つめ
「……会いたいときに会えるって幸せっすね」
紫輝が嬉しそうに表情を緩めて、しみじみと言った。
鹿乃江もつられて口元を緩める。
「うん。幸せですね」
はにかんだ鹿乃江に
「大事にしますね」
紫輝が唐突に言う。
「鹿乃江さんのこと、大事に、します」
泣きそうなくらい幸せで、愛しくて、笑みがこぼれだす。
「ありがとうございます」照れながら言って「紫輝くん」運転席へ呼びかける。
「はい」
「大好き」
不意打ちに紫輝が顔を赤く染める。
「帰したくなくなっちゃいます」
ハンドルに乗せた腕に頭を預け、熱っぽい瞳を鹿乃江に向けた。
鹿乃江は困ったようにはにかんで
「……今日は、だめです。家すぐそこですし」
自分の決心が揺らがないうちにシートベルトを外す。
「おやすみなさい」ドアを開けながら紫輝を振り返る。
「おやすみなさい。気を付けて」
「紫輝くんも、帰り道お気を付けて」車を下りて腰を屈め、車内に呼びかける。
「うん」
紫輝が手を振ると、鹿乃江も「またね」と手を振り返して、静かに助手席のドアを閉めた。家路に着く途中で振り返って、もう一度紫輝に手を振ってから曲がり角に入る。
「やべぇ~…かわいい~……」
振り返した手で頭を抱え、緩んだ笑顔で幸せの余韻に浸ってから、紫輝も家路に着いた。
鹿乃江もまた、幸せの余韻に浸りつつシャワーを浴びて眠り支度を済ませる。
しかし、ちょっと、すんなり眠れそうにない。
(明日、帰りに服、見に行こうかな……)
寝しなにスマホを操作しつつ、職場近くでアパレルショップを探す。ふと、新規ブラウザを開き【前原紫輝 好みのタイプ】と入力し、検索してみる。ズラリと出てきた結果は、雑誌のインタビュー記事の引用をまとめたものが多かった。
(見た目のこととか、あんまり書いてないなー……)
そう思いつつ、より近い日付の記事を見つけてリンクへ飛んだ。
(あ、服装載ってた)
これなら無理なくできそうだと思いつつ、引用元の掲載雑誌の発売時期に気を留めてみる。
(…これ…たぶん……)
夏頃に発売された記事から、徐々に具体的になっている。その例は、鹿乃江が紫輝に会うとき着ていた服のテイストとほぼ一緒だった。
(…………寝よう)
恥ずかしさから逃れるようにスマホをスリープしようとして、ふと思い立つ。
アプリを立ち上げて一言だけメッセを送り、眠りに就いた。
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