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Chapter.29

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 ポコン♪ と通知の音が鳴る。

『昨日はありがとうございました!』
『久我山さんが、よろしくお伝えください、と言ってました』
『今度はフツーに2人で遊びに行きましょう!』

 紫輝の笑顔が目に浮かぶ。
 心臓が押しつぶされそうになって、通知が表示されたままのスマホをスリープさせた。

 もう、紫輝からの連絡に返事をするつもりはない。けれど、どうしても通知音を切ることができない。
 あの音が鳴るたび、スマホの画面を確認する。受信したメッセを通知窓から読んで、そのまま画面が消えるのを待つ。その繰り返し。

 最初の一週間は最低でも一日に一回、通知音が鳴った。
 自分の近況報告や鹿乃江の体調を気遣う言葉、たまに雑談。
 既読は付いていないはずなのに、紫輝はこれまでと変わらずメッセを送ってくれる。
 しかし、誘いの言葉は送られてこない。
 寂しくて、悲しくて、でも、どこかで安心している。
(逃げたくせに……)
 自分の身勝手さに嫌気がさす。

 二週間目にはそれが二日に一回、三週間目にはほとんど途切れがちになっていた。

 なにも告げずに逃げ出したことを、紫輝は怒っているだろうか。悲しんでいるだろうか。
 それとも、自分と同じように、自然と気持ちが消えるのを待っているのだろうか……。

(このまま、愛想付かしてくれたらそれでいいよね)

 自問自答してみるが、答えは出ない。出すことができない。
 きっと紫輝は気にしている。途絶え気味のメッセも、嫌気がさしたわけではなく紫輝なりの気遣いであろうことに、鹿乃江は気付いている。
 待つほうと待たせるほう、どちらも辛くてもどかしい。いままで幾度となく虚無感を味わって来たから知っている。けれど、今更返信なんてできない。なんて返せばいいかわからない。
 自分が辛いのは自分のせい。

 きっともう、色々と遅い。

* * *
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