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Chapter.25
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8月も終わろうとしているのに、夜もかなり蒸し暑い。職場や自宅近くより都心に近い場所だからか、ヒートアイランド現象が際立っている気がする。
指定された店に着き予約者の名前を伝えると、店内奥にある個室に通された。レンガ造りの壁と丸みを帯びた背もたれの木椅子が可愛らしい。
程良く冷えた無人の個室で一人着席して待つ。
足元に置かれた籐かごにバッグを入れながら
(いつ以来だっけ……)
前に会ったときを思い出す。
(雑誌に載る前か……。まだ長袖着てたなぁ)
ふと、たまたま点けていた深夜番組にFourQuartersが出ていたことを思い出す。
新しいアルバムを発売するという告知のために、音楽ランキング番組に四人揃ってVTR出演していた。ほかの三人にイジられ、困りながらも紫輝がCDの発売日や聴き所を紹介していく。
(そういえばレコーディングしてるって言ってたなー)
スマホをいじる手を止め、画面を注視する。
(少し痩せた……?)
まるで母親の気分だ。
最後に四人で挨拶をして、出演シーンは終わった。
その後も、テレビで紫輝を見かけるたび、(忙しそうだな)と(元気そうだな)を繰り返しながら、不思議な気持ちで画面を眺めていた。
ポコン♪ と紫輝からの新着通知が来て、回想が中断される。
『ごめんなさい。撮影が押してまして』
『そちらに行くのが遅くなります』
『先輩が先に着くと思います』
『久我山さんって人です』
『わかりました。お仕事がんばってください。』
『ありがとうございます! 行ってきます!』
紫輝からのメッセを確認して、アプリを閉じる。
(久我山さん……。なんか見覚えある文字列だな……)
しかしどこで見たのかは覚えていない。
(事務所の先輩って書いてあったし、テレビとかで見てるんだろうな)
などと考えていると、個室のドアがノックされる。
「はい」
「失礼いたします。お連れ様がお見えになりました」
店員に案内されて入ってきたその人は、バラエティ番組に良く出ている男性アイドルグループのメンバーの一人だった。
「ありがとうございます~」
柔らかな関西弁で店員に礼を言って、久我山が室内へ入ってきた。鹿乃江は反射で立ち上がっておじぎをする。
「こんばんはー、久我山です~」
「こんばんは、鶫野と申します。初めまして」
「初めまして。お噂はかねがね」
(おうわさ……?)
疑問が顔に出ていたようで、久我山が目尻を下げた。
「前原がご迷惑おかけしてるみたいで」革製のトートバッグを肩からおろし、足元の籐かごへ入れる。
「迷惑だなんてそんな」
久我山は斜向かいの椅子に着席しながら「あ、どうぞ」鹿乃江に着席を勧める。
「ありがとうございます」
「なんか注文してます?」
「いえ、まだ」
「アイツ遅れてくるみたいなんで、頼んじゃいましょうか」
「はい」
それぞれでメニューを開き、ソフトドリンクと軽食を注文した。
注文したものが届くまで、他愛のない雑談をする。
こういう時、天気や時節の話題は便利だ。
指定された店に着き予約者の名前を伝えると、店内奥にある個室に通された。レンガ造りの壁と丸みを帯びた背もたれの木椅子が可愛らしい。
程良く冷えた無人の個室で一人着席して待つ。
足元に置かれた籐かごにバッグを入れながら
(いつ以来だっけ……)
前に会ったときを思い出す。
(雑誌に載る前か……。まだ長袖着てたなぁ)
ふと、たまたま点けていた深夜番組にFourQuartersが出ていたことを思い出す。
新しいアルバムを発売するという告知のために、音楽ランキング番組に四人揃ってVTR出演していた。ほかの三人にイジられ、困りながらも紫輝がCDの発売日や聴き所を紹介していく。
(そういえばレコーディングしてるって言ってたなー)
スマホをいじる手を止め、画面を注視する。
(少し痩せた……?)
まるで母親の気分だ。
最後に四人で挨拶をして、出演シーンは終わった。
その後も、テレビで紫輝を見かけるたび、(忙しそうだな)と(元気そうだな)を繰り返しながら、不思議な気持ちで画面を眺めていた。
ポコン♪ と紫輝からの新着通知が来て、回想が中断される。
『ごめんなさい。撮影が押してまして』
『そちらに行くのが遅くなります』
『先輩が先に着くと思います』
『久我山さんって人です』
『わかりました。お仕事がんばってください。』
『ありがとうございます! 行ってきます!』
紫輝からのメッセを確認して、アプリを閉じる。
(久我山さん……。なんか見覚えある文字列だな……)
しかしどこで見たのかは覚えていない。
(事務所の先輩って書いてあったし、テレビとかで見てるんだろうな)
などと考えていると、個室のドアがノックされる。
「はい」
「失礼いたします。お連れ様がお見えになりました」
店員に案内されて入ってきたその人は、バラエティ番組に良く出ている男性アイドルグループのメンバーの一人だった。
「ありがとうございます~」
柔らかな関西弁で店員に礼を言って、久我山が室内へ入ってきた。鹿乃江は反射で立ち上がっておじぎをする。
「こんばんはー、久我山です~」
「こんばんは、鶫野と申します。初めまして」
「初めまして。お噂はかねがね」
(おうわさ……?)
疑問が顔に出ていたようで、久我山が目尻を下げた。
「前原がご迷惑おかけしてるみたいで」革製のトートバッグを肩からおろし、足元の籐かごへ入れる。
「迷惑だなんてそんな」
久我山は斜向かいの椅子に着席しながら「あ、どうぞ」鹿乃江に着席を勧める。
「ありがとうございます」
「なんか注文してます?」
「いえ、まだ」
「アイツ遅れてくるみたいなんで、頼んじゃいましょうか」
「はい」
それぞれでメニューを開き、ソフトドリンクと軽食を注文した。
注文したものが届くまで、他愛のない雑談をする。
こういう時、天気や時節の話題は便利だ。
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