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Chapter.3

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「一目ぼれしたっす!」
 都内にある焼き肉店の一室。対面に座る年長の男を、つぶらな瞳で見つめながら青年が言った。
 個室に肉の焼ける音だけがしている。
「焦げんで」
 関西弁で言って、久我山クガヤマ紫輝シキと自分の取り皿に程よく焼けた肉を乗せた。
「いやいやいや、マジなんですって! マジマジ! ガチで!」
「冷めんで」
「あっハイ。肉はアザッスなんですけど! いやマジ、ガチなんですって!」
「わかったって」眉間にしわを寄せて面倒くさそうに言い放つと「相手だれ?」続きを促した。
「先輩が知らない人っす」
業界こっちの人ちゃうんか」
「フツーの人っす、たぶん。今日のお昼くらいに、道端でぶつかりそうになったんす」
「なんやそれ。名前も知らんの」
「ハイ!」
 とびきりの笑顔で頷く紫輝とは対照的に、久我山は網に生肉を並べながら苦笑した。
「そりゃビョーキやな」
「あーハイハイ。“恋のやまい”的なね?!」
「ちゃうわ。“フツーの恋がしたいびょう”。職業病やわ」焼けた肉を口に運びながら「最近仕事忙しいみたいやし、疲れてんにゃわ。ゆっくり風呂でも浸かり」付け足す。
「ちがいますって! 運命なんですって!」
「そんならそんでええけど……」肉を咀嚼しながら面倒くさそうに受け入れるが「もう二度と会われへんのと違う?」諭すように反論する。
「ちがうんすよ!」紫輝がぶんぶんと手を横に振りながら否定した。「オレ、そのときスマホ落としたみたいなんすよ! これってチャンスじゃないですか!」
「ピンチやろ」
「だから先輩、スマホ貸してください」
「なんでやねん。折り目正しいツッコミ入れてもたわ」
「先輩のスマホからオレのスマホにメッセ入れるんすよ。そしたらその子と連絡とって、直接返してもらえるじゃないですか」
「いや、そもそもその人が拾ったとも限らんし、返信くれるかもわからんし、もう警察届けられてるんちゃう?」
「やってみないとわからないじゃないですか。メッセだったらほら、オレ先輩のメッセ、通知切ってないんで」
「しらんけど……」
 期待に満ちた瞳で見つめる紫輝。
 久我山は観念したようにため息をつき、バッグの中からスマホを取り出してロックを解除した。
「ほら」
 差し出されたスマホを紫輝が満面の笑みで受け取って「あざます!」いそいそとメッセージアプリを立ち上げた。

* * *
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