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Chapter.116
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「そうだ、危ない。渡しそびれるとこだったわ」
食器を洗い終えて、攷斗が自室へ戻った。
「リビング行こ」
キッチンで冷蔵庫を整理していたひぃなの手を取り、ソファへ並んで座る。
「これ、誕生日プレゼント……になるかわかんないけど」
はい、と攷斗が大きな紙袋をひぃなに渡す。
「えっ、ありがとう。開けていい?」
「もちろん。むしろ開けてほしい」
かなり大きな箱なので、床に置いて開封することにした。
包装を解き、真っ白な箱を開けるとそこには……
「えっ……!」
純白のウエディングドレスが入っていた。
「これ……」
驚いて、ひぃなが攷斗を見やる。
「うん。多分サイズ大丈夫だと思うんだけど……オーダーメイドの一点ものなので、返品不可です」
ひぃながそっと、大事そうにドレスを取り出した。
「渡すとき、改めてプロポーズしようと思ってたんだよね。ちょっと前後しちゃったけど」
ひぃなはずっと涙目のまま、言葉を探している。
「当ててみてよ」
立ち上がった攷斗が、ドレスをひぃなから受け取り、同じように立ち上がったひぃなの肩に当てた。
「うん、すその長さは丁度よさそうだね」
ひぃなが服を押さえたのを確認してから、少し離れて全体像を確認する。
「……似合ってるよ。キレイ」
ひぃなの瞳に涙が溜まる。
「ありがとう……」
「うん。俺も嬉しい」
だいぶ前から準備していたそのドレスを、ようやっと渡すことが出来て、攷斗は胸を撫でおろした。
「式場、予約するか、撮影だけにするかはひなに任せていいかな」
「……うん。ありがとう……」
ドレスを丁寧に箱に戻しながら、ひぃなが微笑む。
「あと、年末年始に、温泉宿の予約取ったんだ。そっちは新婚旅行も兼ねて、一緒に、行かない?」
「行きたい。予定、空けておくね」
「うん」
一年遅れの新婚生活に、二人は終始、同じように穏やかな笑みを浮かべていた。
お風呂に入り、リビングで【地上波初放送】の映画を視る、いつもの日常。
違うのは、いままで一定の距離を保っていた二人の間が物理的に縮まったこと。二人の間の空気に甘さが加わったこと。触れ合うことに、遠慮が減ったこと。
ただ隣りに座って手を繋ぎ、テレビを視ているだけでこんなにも幸せだということ。
攷斗の肩に寄りかかりながら、隣にいるのが攷斗で良かったとしみじみ思う。
最初から始まっていたのに、それに気付こうとしなかった。今となってはそれはそれで楽しかったので、結果オーライということにしておく。
映画がCMになる。マグカップの中身はカラだ。
「何か飲む?」
「んー? ひなが飲むなら」
じゃあお茶でも…と立ち上がるが、攷斗は手を離さない。
「離してくれないと向こう行けないんだけど……」
「うん」
返事はするが、離そうとしない。手を持ち上げてみるが、離す気配もない。いたずらっ子の笑みで攷斗がひぃなに顔を向ける。
“もう離さない”とは、物理的なことだったのか。
(うーん、かわいいな)
これまでもたまに思ってはいたが、改めてそう思う。
人を好きになると苦しいこともあるけれど、やっぱり心が弾む。少し若返った気分にもなる。
「なに、見つめちゃって」
「かわいいなと思って」
言われた攷斗は一瞬たじろいで、
「急なんだよな……」
照れたように苦笑した。
「CM終わっちゃうんですけど」
「じゃあ一緒に行こう」
手を繋いだままキッチンへ移動する。お互いが空いた手にお茶のポットとコップをそれぞれ持って、リビングへ戻った。
CMはすでに終わっていて映画の本編を少し見逃してしまったが、毎年のようにリピート放送される映画だし、なんならネットで視聴すればいいだけなので問題ない。
一時間ほど経ち映画がラストを迎えた。エンドロールが流れ終わってからテレビを消す。明日は休日。さてどうしようか、とソワソワした空気が流れ始めて、攷斗が口を開いた。
「…眠い?」
「…ううん…?」
質問の意図を汲んだひぃなが、少しためらいつつ返答する。
「そっか、じゃあ……一年遅れの初夜、しよっか」
「なっ!……に、言ってるの……」
「え? やっとちゃんと心が夫婦になったんだから、身体もなろうよ」
予想はしていたものの、割と直球な申し入れに、はわはわして言葉が出てこないひぃなを見て攷斗が微笑む。
「どんだけ俺が一人で夜な夜な悶々してたと思ってんの」
「知らないよ」
「ひなはしなかった? 悶々」
「し……てない……」
攷斗とは違う意味で悶々と思い悩んではいたが、身体は攷斗が言うほどではない。
「ほら、行こ」
攷斗が立ち上がり、繋いだ手を引く。部屋へ入るとセンサーが反応して間接照明が点いた。
食器を洗い終えて、攷斗が自室へ戻った。
「リビング行こ」
キッチンで冷蔵庫を整理していたひぃなの手を取り、ソファへ並んで座る。
「これ、誕生日プレゼント……になるかわかんないけど」
はい、と攷斗が大きな紙袋をひぃなに渡す。
「えっ、ありがとう。開けていい?」
「もちろん。むしろ開けてほしい」
かなり大きな箱なので、床に置いて開封することにした。
包装を解き、真っ白な箱を開けるとそこには……
「えっ……!」
純白のウエディングドレスが入っていた。
「これ……」
驚いて、ひぃなが攷斗を見やる。
「うん。多分サイズ大丈夫だと思うんだけど……オーダーメイドの一点ものなので、返品不可です」
ひぃながそっと、大事そうにドレスを取り出した。
「渡すとき、改めてプロポーズしようと思ってたんだよね。ちょっと前後しちゃったけど」
ひぃなはずっと涙目のまま、言葉を探している。
「当ててみてよ」
立ち上がった攷斗が、ドレスをひぃなから受け取り、同じように立ち上がったひぃなの肩に当てた。
「うん、すその長さは丁度よさそうだね」
ひぃなが服を押さえたのを確認してから、少し離れて全体像を確認する。
「……似合ってるよ。キレイ」
ひぃなの瞳に涙が溜まる。
「ありがとう……」
「うん。俺も嬉しい」
だいぶ前から準備していたそのドレスを、ようやっと渡すことが出来て、攷斗は胸を撫でおろした。
「式場、予約するか、撮影だけにするかはひなに任せていいかな」
「……うん。ありがとう……」
ドレスを丁寧に箱に戻しながら、ひぃなが微笑む。
「あと、年末年始に、温泉宿の予約取ったんだ。そっちは新婚旅行も兼ねて、一緒に、行かない?」
「行きたい。予定、空けておくね」
「うん」
一年遅れの新婚生活に、二人は終始、同じように穏やかな笑みを浮かべていた。
お風呂に入り、リビングで【地上波初放送】の映画を視る、いつもの日常。
違うのは、いままで一定の距離を保っていた二人の間が物理的に縮まったこと。二人の間の空気に甘さが加わったこと。触れ合うことに、遠慮が減ったこと。
ただ隣りに座って手を繋ぎ、テレビを視ているだけでこんなにも幸せだということ。
攷斗の肩に寄りかかりながら、隣にいるのが攷斗で良かったとしみじみ思う。
最初から始まっていたのに、それに気付こうとしなかった。今となってはそれはそれで楽しかったので、結果オーライということにしておく。
映画がCMになる。マグカップの中身はカラだ。
「何か飲む?」
「んー? ひなが飲むなら」
じゃあお茶でも…と立ち上がるが、攷斗は手を離さない。
「離してくれないと向こう行けないんだけど……」
「うん」
返事はするが、離そうとしない。手を持ち上げてみるが、離す気配もない。いたずらっ子の笑みで攷斗がひぃなに顔を向ける。
“もう離さない”とは、物理的なことだったのか。
(うーん、かわいいな)
これまでもたまに思ってはいたが、改めてそう思う。
人を好きになると苦しいこともあるけれど、やっぱり心が弾む。少し若返った気分にもなる。
「なに、見つめちゃって」
「かわいいなと思って」
言われた攷斗は一瞬たじろいで、
「急なんだよな……」
照れたように苦笑した。
「CM終わっちゃうんですけど」
「じゃあ一緒に行こう」
手を繋いだままキッチンへ移動する。お互いが空いた手にお茶のポットとコップをそれぞれ持って、リビングへ戻った。
CMはすでに終わっていて映画の本編を少し見逃してしまったが、毎年のようにリピート放送される映画だし、なんならネットで視聴すればいいだけなので問題ない。
一時間ほど経ち映画がラストを迎えた。エンドロールが流れ終わってからテレビを消す。明日は休日。さてどうしようか、とソワソワした空気が流れ始めて、攷斗が口を開いた。
「…眠い?」
「…ううん…?」
質問の意図を汲んだひぃなが、少しためらいつつ返答する。
「そっか、じゃあ……一年遅れの初夜、しよっか」
「なっ!……に、言ってるの……」
「え? やっとちゃんと心が夫婦になったんだから、身体もなろうよ」
予想はしていたものの、割と直球な申し入れに、はわはわして言葉が出てこないひぃなを見て攷斗が微笑む。
「どんだけ俺が一人で夜な夜な悶々してたと思ってんの」
「知らないよ」
「ひなはしなかった? 悶々」
「し……てない……」
攷斗とは違う意味で悶々と思い悩んではいたが、身体は攷斗が言うほどではない。
「ほら、行こ」
攷斗が立ち上がり、繋いだ手を引く。部屋へ入るとセンサーが反応して間接照明が点いた。
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