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Chapter.110
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二人が棚井家をあとにして、ひぃなが夕食の支度をしていると堀河から連絡が入った。
「今から会社出るって」
「お、意外に早かったね。なんなら泊まってってもらえばいいんじゃない?」
「そっか、そうだね」
堀河にもさんざん心配をかけたので、たまにはご奉仕しなければ、と堀河の好物であるカレーを作った。“それに素揚げの鶏肉が乗ったらもう最高!”とは堀河談。
堀河の嗜好に沿って、鶏もも肉の素揚げも作る。
ほどなくして、エントランスの呼び出し音が鳴った。攷斗が操作して開錠させる。そして、自宅の呼び出し音。
「鍋、俺見てるから」
攷斗が入れ替わりでキッチンへ入ってきたので、
「ありがとう」
礼を言って移動したひぃなが玄関ドアを開けた。そこには堀河が立っている。
「久しぶり」
言って堀河を招き入れる。
「ひぃなー!」
玄関に入るや否や、堀河がひぃなにガバッと抱き着いた。子供をあやすように背中をぽんぽんと叩くひぃな。
「ごめんね? 心配かけて」
「なんであんたが謝るのよぅ! あんたなにも悪くないじゃない!」
うわーん! と漫画みたいに堀河が泣いた。
攷斗は微笑みながらその声をキッチンで聞いている。
堀河が泣き止むまで、ひぃなはその場でずっと堀河の身体を抱き締めていた。それはいつか、攷斗がひぃなにしてくれたのと同じ行動。
しばらくすると、堀河がひぃなを抱き締める腕の力を緩めた。
「顔すごいよ」
思わずひぃなが笑う。
「なによ、そんな言い方ないじゃない」
堀河が口をとがらせる。廊下に上がって、まずは洗面所を案内した。
メイクを直した堀川がひぃなと一緒にリビングへ戻ると、攷斗が配膳を終えていた。
「どうも」
「どうも。お邪魔します」
「メシ食っていきますよね」
「食べたい。ひぃなの料理、久しぶりだもの」
「まぁ、匂いでもうお分かりかと思いますが……」
ひぃながぽつりとつぶやく。
隠したくても主張してくるカレーの香りが、キッチンからリビングに充満している。
「アレよね? すごい楽しみ!」
同居していたときに食べたことがあるその味を反芻して、堀河が満面の笑みを浮かべる。
「今日帰る? 泊まってく? それによって出す飲み物が変わる」
「今日は、帰るわ。家で、待ってるから」
おそらく“元・旦那”になったり“旦那”になったりしている“現・婚約者”のことだ。
「じゃあお茶にしておくね」
「ありがとう」
座ってて~と言い残して、ひぃながキッチンへ移動した。
攷斗と堀河はソファに座る。
「思ってたより落ち着いてるみたいで安心した」
「まだ不安そうなときありますけどね」
「そりゃそうよ」
「絶対守り抜きますんで」
「うん。もうプライベートはあんたに頼るしかないからさ、よろしくね」
「はい」
そんな二人の会話は、ひぃなの耳には届いていない。
「お待たせ~」
カレーの上に鶏肉の素揚げが乗った皿を、まずは二人分運んできた。そのあとに、ひぃなが自分の分を運ぶ。
「じゃあ、食べましょう」
「わーい!」
堀河が子供のように喜んで、楽しい夕餉がスタートした。
* * *
「今から会社出るって」
「お、意外に早かったね。なんなら泊まってってもらえばいいんじゃない?」
「そっか、そうだね」
堀河にもさんざん心配をかけたので、たまにはご奉仕しなければ、と堀河の好物であるカレーを作った。“それに素揚げの鶏肉が乗ったらもう最高!”とは堀河談。
堀河の嗜好に沿って、鶏もも肉の素揚げも作る。
ほどなくして、エントランスの呼び出し音が鳴った。攷斗が操作して開錠させる。そして、自宅の呼び出し音。
「鍋、俺見てるから」
攷斗が入れ替わりでキッチンへ入ってきたので、
「ありがとう」
礼を言って移動したひぃなが玄関ドアを開けた。そこには堀河が立っている。
「久しぶり」
言って堀河を招き入れる。
「ひぃなー!」
玄関に入るや否や、堀河がひぃなにガバッと抱き着いた。子供をあやすように背中をぽんぽんと叩くひぃな。
「ごめんね? 心配かけて」
「なんであんたが謝るのよぅ! あんたなにも悪くないじゃない!」
うわーん! と漫画みたいに堀河が泣いた。
攷斗は微笑みながらその声をキッチンで聞いている。
堀河が泣き止むまで、ひぃなはその場でずっと堀河の身体を抱き締めていた。それはいつか、攷斗がひぃなにしてくれたのと同じ行動。
しばらくすると、堀河がひぃなを抱き締める腕の力を緩めた。
「顔すごいよ」
思わずひぃなが笑う。
「なによ、そんな言い方ないじゃない」
堀河が口をとがらせる。廊下に上がって、まずは洗面所を案内した。
メイクを直した堀川がひぃなと一緒にリビングへ戻ると、攷斗が配膳を終えていた。
「どうも」
「どうも。お邪魔します」
「メシ食っていきますよね」
「食べたい。ひぃなの料理、久しぶりだもの」
「まぁ、匂いでもうお分かりかと思いますが……」
ひぃながぽつりとつぶやく。
隠したくても主張してくるカレーの香りが、キッチンからリビングに充満している。
「アレよね? すごい楽しみ!」
同居していたときに食べたことがあるその味を反芻して、堀河が満面の笑みを浮かべる。
「今日帰る? 泊まってく? それによって出す飲み物が変わる」
「今日は、帰るわ。家で、待ってるから」
おそらく“元・旦那”になったり“旦那”になったりしている“現・婚約者”のことだ。
「じゃあお茶にしておくね」
「ありがとう」
座ってて~と言い残して、ひぃながキッチンへ移動した。
攷斗と堀河はソファに座る。
「思ってたより落ち着いてるみたいで安心した」
「まだ不安そうなときありますけどね」
「そりゃそうよ」
「絶対守り抜きますんで」
「うん。もうプライベートはあんたに頼るしかないからさ、よろしくね」
「はい」
そんな二人の会話は、ひぃなの耳には届いていない。
「お待たせ~」
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「じゃあ、食べましょう」
「わーい!」
堀河が子供のように喜んで、楽しい夕餉がスタートした。
* * *
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