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Chapter.102

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 ひぃなの父親はDVの加害者だった。母親だけでは足らず、まだ幼く、抵抗すら出来ないひぃなを虐待してたと、輪郭だけを簡潔に、努めて明るくひぃなが語った。その次の瞬間、いまと同じように大粒の涙をこぼし、それでもなお笑って“大丈夫”と、攷斗からの慰めの言葉を封じた。

「大丈夫……。ぶったりしない……」
 ゆっくり降ろして近付けて、ひぃなの頭に手のひらを置いた。いつくしむように優しく撫でる。
「俺がひなの頭に手を近付けるときは、ひなの頭を撫でたり、抱き寄せたりしたいときだけ。絶対だから、覚えておいて」
 攷斗が言い終わると同時に、新たな滴が零れ落ちる。
 ふと、ひぃなの身体から力が抜けて、攷斗に身体を預けた。
 意識があるか心配になり、
「ひな?」
 だらりと降りた手を取った。
 冷たいひぃなの指先が、攷斗の手を緩く握る。
 安心したように息を吐き、辛そうに眉根を寄せた攷斗は、温めるようにひぃなの手を包んで胸の中におさめた。空いた手でひぃなを抱き締める。

 たった二人の空間で、身を寄せ合う。
 心臓の音が混ざり合って、一つになって溶けてしまいそうだ。

 しばらくすると、涙の雨は降りやんだ。頬を拭おうとした攷斗の手のひらに、ひぃなの冷たい息がかかる。雨と涙で濡れたせいか、頬も冷たい。
「もしかして貧血出てる? アレ持ってこようか」
 待っててと言って立ち上がろうとした攷斗を、ひぃなの冷たい指が止めた。
「どした?」
 覗き込んだ顔は、まだ血色が悪い。すがるような瞳が攷斗を引き留め、攷斗の心臓が潰れそうなほど締め付けた。

 もう、片時も離したくない。

 同じ場所に座り直した攷斗は、ひぃなの体温を少しでも上げたくて、脱いだシャツをひぃなの身体にかけ、そのまま再度抱き寄せた。
「ひな……」
 攷斗の胸に当たる指が、シャツを緩く掴む。
「辛かったら、ちゃんと教えて? ベッドまで運ぶから」
「…………」
 ひぃなは何も言わず首を縦に動かして、甘えるように身体をすり寄せた。
 その身体を温めるようにさすりながら、攷斗はひぃなの頭に頬を寄せる。

 強く抱いたら壊れてしまいそうで、なのに離したら消えてしまいそうで……
 世界でたった二人きりのような静寂に包まれて、ただお互いの存在だけを、感じていた。

* * *
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