上 下
92 / 120

Chapter.92

しおりを挟む
 19時過ぎ頃、日が落ちてから赤いタワーに到着すると、ライトが灯り始めていた。少し遠めのコインパーキングに駐車して車を降り、二人で車体に軽く寄り掛かってタワーの全景を眺めてみる。
「わー、キレイ~」
「すごい壮観だね。……首痛いけど」
「確かに」
 ひぃなが同意して笑う。
「展望台、登れたら良かったんだけど……」
「いいよ、苦手なものは誰にでもあるんだし」
 攷斗は高所恐怖症で、足が地についていようといなかろうと、高所からの眺めに恐怖を感じるのだそう。すでに十二分に楽しいのだし、祝いたい相手に無理強いしてまで展望台に登らなくても問題はない。
 しばらくぼんやりと、暖色に発光するタワーを眺める。
 攷斗がそっとひぃなの右手を取った。
 それに応えるように、ひぃなも攷斗の手を握る。
 指を絡めて、先ほどまでとは違う繋ぎ方をする。触れる部分が多くて、少し気恥ずかしい。
 ひぃなが指を曲げると、攷斗の薬指にはまった指輪に触れた。それが何故だかとても愛おしくて、嬉しくて、胸がいっぱいになった。


「はー、ただいま」
「楽しかったー」
「ねー」
 ソファに座る攷斗と、キッチンへ向かうひぃな。
 ひぃなは冷蔵庫からお茶のポットを出すついでに、夕飯で使う肉を取り出した。少し休んでいる間に常温に戻したいからだ。
「お茶どーぞ」
「わー、ありがとう」
「運転お疲れ様です」
「いやいや、全然」
 お茶を飲みながらしばし休憩する。
「お腹すいてる?」
「んー、割と」
 ひぃなの質問に攷斗が自分のおなかをさすって言った。
「じゃあ、夕飯の支度しようかな」
「わー、楽しみ!」
「焼いたりするので少し待っててね」
「手伝うよ」
「今日はいいよ、主役なんだし」
「んー、じゃあ、お言葉に甘えて」
「できたら呼ぶから、部屋にいてもいいよ?」
「もしかしてそのほうがやりやすい?」
「ん? サプライズ感がないほうがいいならいつもと一緒でいいよ」
 とソファを立つひぃなに
「部屋で待ってます」
 攷斗が言って、その場をあとにした。
(よしっ)
 サプライズと言ったからには気合を入れて作らないと。
 手を洗って、まずはカトラリーとワイングラスをテーブルへ置いた。
 キッチンに戻りフライパンを二つ熱しておく。その間にサラダ用の野菜などを切って盛り付け、冷蔵庫に入れた。
 耐熱皿にオリーブオイルと鷹の爪、ニンニクなどの香味野菜と具材を入れてオーブンで焼き始める。
 鍋には昨日下ごしらえをしていたスープを注ぎ、温めなおす。三ツ口コンロはとても便利だ。
 充分に熱したフライパンに牛脂で油を引き、常温に戻したステーキ肉を二枚置くとジュワァ……! と音を立てた。同時進行でご飯も炒める。
 焼きモノは時間との勝負なので、考えていた段取りを追いながらそれぞれの料理を仕上げていく。
 ステーキ皿はレンジなどで温めると良い、とレシピサイトに書かれていたので、それに倣ってみる。
(思ってたより慌ただしい……!)
 一つ一つの作業は単純なのに、手数が多い。
 カウンターの面積をフル活用して皿を並べ、多少冷めても味に影響が出にくい料理から盛り付けていく。
 まずはガラスの小鉢にアボカドとトマトとモッツアレラチーズのサラダを。
 平皿にガーリックライス。
 大きなスープボウルにコーンポタージュを注いだところで、オーブンが焼き上がりを報せるアラームを鳴らしたので、ブロッコリーとえびのアヒージョを取り出して耐熱皿ごと木のトレイに乗せる。
 最後に、温めた皿に熟成肉のステーキ。付け合わせに、昨日作っておいた人参のグラッセと、ステーキソースにもなる塩とオリーブオイルとバルサミコソースで炒めたオニオンソテーを乗せる。
(できたー!)
 皿を運んで、攷斗を呼びに行く。
「お待たせ、できたよ」
「お、待ってました」
 心の底から嬉しそうな笑顔の攷斗を連れて、ひぃながテーブルに案内した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

幸せの見つけ方〜幼馴染は御曹司〜

葉月 まい
恋愛
近すぎて遠い存在 一緒にいるのに 言えない言葉 すれ違い、通り過ぎる二人の想いは いつか重なるのだろうか… 心に秘めた想いを いつか伝えてもいいのだろうか… 遠回りする幼馴染二人の恋の行方は? 幼い頃からいつも一緒にいた 幼馴染の朱里と瑛。 瑛は自分の辛い境遇に巻き込むまいと、 朱里を遠ざけようとする。 そうとは知らず、朱里は寂しさを抱えて… ・*:.。. ♡ 登場人物 ♡.。.:*・ 栗田 朱里(21歳)… 大学生 桐生 瑛(21歳)… 大学生 桐生ホールディングス 御曹司

イケメン御曹司、地味子へのストーカー始めました 〜マイナス余命1日〜

和泉杏咲
恋愛
表紙イラストは「帳カオル」様に描いていただきました……!眼福です(´ω`) https://twitter.com/tobari_kaoru ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 私は間も無く死ぬ。だから、彼に別れを告げたいのだ。それなのに…… なぜ、私だけがこんな目に遭うのか。 なぜ、私だけにこんなに執着するのか。 私は間も無く死んでしまう。 どうか、私のことは忘れて……。 だから私は、あえて言うの。 バイバイって。 死を覚悟した少女と、彼女を一途(?)に追いかけた少年の追いかけっこの終わりの始まりのお話。 <登場人物> 矢部雪穂:ガリ勉してエリート中学校に入学した努力少女。小説家志望 悠木 清:雪穂のクラスメイト。金持ち&ギフテッドと呼ばれるほどの天才奇人イケメン御曹司 山田:清に仕えるスーパー執事

隠れオタクの女子社員は若社長に溺愛される

永久保セツナ
恋愛
【最終話まで毎日20時更新】 「少女趣味」ならぬ「少年趣味」(プラモデルやカードゲームなど男性的な趣味)を隠して暮らしていた女子社員・能登原こずえは、ある日勤めている会社のイケメン若社長・藤井スバルに趣味がバレてしまう。 しかしそこから二人は意気投合し、やがて恋愛関係に発展する――? 肝心のターゲット層である女性に理解できるか分からない異色の女性向け恋愛小説!

あまやかしても、いいですか?

藤川巴/智江千佳子
恋愛
結婚相手は会社の王子様。 「俺ね、ダメなんだ」 「あーもう、キスしたい」 「それこそだめです」  甘々(しすぎる)男子×冷静(に見えるだけ)女子の 契約結婚生活とはこれいかに。

ウブな政略妻は、ケダモノ御曹司の執愛に堕とされる

Adria
恋愛
旧題:紳士だと思っていた初恋の人は私への恋心を拗らせた執着系ドSなケダモノでした ある日、父から持ちかけられた政略結婚の相手は、学生時代からずっと好きだった初恋の人だった。 でも彼は来る縁談の全てを断っている。初恋を実らせたい私は副社長である彼の秘書として働くことを決めた。けれど、何の進展もない日々が過ぎていく。だが、ある日会社に忘れ物をして、それを取りに会社に戻ったことから私たちの関係は急速に変わっていった。 彼を知れば知るほどに、彼が私への恋心を拗らせていることを知って戸惑う反面嬉しさもあり、私への執着を隠さない彼のペースに翻弄されていく……。

アフォガード

小海音かなた
恋愛
大学生になった森町かえでは、かねてより憧れていた喫茶店でのバイトを始めることになった。関西弁の店長・佐奈田千紘が切り盛りするその喫茶店で働くうちに、かえでは千紘に惹かれていく。 大きな事件もトラブルも起こらない日常の中で、いまを大事に生きる二人の穏やかな物語。

出会ったのは間違いでした 〜御曹司と始める偽りのエンゲージメント〜

玖羽 望月
恋愛
 親族に代々議員を輩出するような家に生まれ育った鷹柳実乃莉は、意に沿わぬお見合いをさせられる。  なんとか相手から断ってもらおうとイメージチェンジをし待ち合わせのレストランに向かった。  そこで案内された席にいたのは皆上龍だった。  が、それがすでに間違いの始まりだった。 鷹柳 実乃莉【たかやなぎ みのり】22才  何事も控えめにと育てられてきたお嬢様。 皆上 龍【みなかみ りょう】 33才 自分で一から始めた会社の社長。  作中に登場する職業や内容はまったくの想像です。実際とはかけ離れているかと思います。ご了承ください。 初出はエブリスタにて。 2023.4.24〜2023.8.9

10 sweet wedding

国樹田 樹
恋愛
『十年後もお互い独身だったら、結婚しよう』 そんな、どこかのドラマで見た様な約束をした私達。 けれど十年後の今日、私は彼の妻になった。 ……そんな二人の、式後のお話。

処理中です...