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Chapter.74

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 その飲み会からしばらくして、
「時森チーフ」
 昼休み前に紙尾がひぃなに話しかけた。
「はぁい」
「今日、良ければランチ一緒に行きませんか?」
「うん、いいよ? どこがいい?」
「やった。じゃあ裏通りのカフェで」
 二人並んで店に入ると、先に湖池が席に座って待っていた。
(おや?)
 湧き出る笑顔を抑えながら、湖池の隣に座った紙尾の向い側に座る。
 何も言わず何も聞かず取り急ぎオーダーをすると、
「お気付きかと思いますが……」
 湖池の前置きで、二人が結婚する旨の報告を受けた。
 存分に祝福して、帰宅後攷斗にそれを伝えると、
「そうそう、俺んとこにもメッセ来てた。結婚式でスピーチしてくれって言われたから、断った」
「なんで。やってあげればいいじゃない」
「ひぃながいいならいいけど」
「え? 私は別に関係ないでしょ?」
「……」
 攷斗が少し複雑そうな顔をして、湖池から届いたメッセの画面をひぃなに見せた。そこには……
『こないだはどーも! プロポーズしたら受けてくれたので! 結婚することになりました!! いえーいv(≧▽≦)v つきましては、棚井夫妻にラブラブスピーチをお願いしたく存じます!』
 “ラブラブ”と“スピーチ”の間には、ご丁寧にハートマークが飛び跳ねている絵文字が入力されている。
「なに。“ラブラブスピーチ”って」
「わかんない」
 ひぃなから返されたスマホを受け取り、攷斗が首を横に振る。
「普通のならまだしも、ラブラブが付いてくるなら丁重にお断りください……あ、お式には参加するけどね」
「それは俺もするよ。なんかスーツ見繕っておかないと」
「私もなにか探さなきゃ」
 同年代の友人たちはとうに結婚していて、しばらく式に参列しなかったのでドレス的なワードローブは一切ない。
「今度の買い出しついでになにか探しに行こうか」
「まだちょっと早くない? 時期がわかんないと、決められない」
「そっか。お見立てしたかったんだけどな」
「またいずれ」
「いずれね」
 早くても半年前にはしなくてはならないらしい結婚式の予約など、未経験の二人には良くわからないが、婚姻届を確保するために買った情報誌を眺めていたらそんなことが書いてあった。
(わぁ大変)
 と、他人事のように思ったことまで覚えている。
 結局、湖池が妥協 (?)して“ラブラブ”は撤回され、会社の同僚・先輩として依頼が来たのでスピーチを引き受けた。

* * *
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